生体膜リン脂質に高度不飽和脂肪酸を導入するリン脂質脂肪酸転移酵素を発見(080815)

投稿日: 2011/12/13 8:36:24

Genes Cells, 13, 879-888 (2008) Member of the membrane-bound O-acyltransferase (MBOAT) family encodes a lysophospholipid acyltransferase with broad substrate specificity. Shinji Matsuda, Takao Inoue, Hyeon-Cheol Lee, Nozomu Kono, Fumiharu Tanaka, Keiko Gengyo-Ando, Shohei Mitani and Hiroyuki Arai

近年、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの高度不飽和脂肪酸が機能性食品として注目を集めています。高度不飽和脂肪酸とは分子内に二重結合を複数(通常4-6個)持つ脂肪酸のことで、高度不飽和脂肪酸が欠乏すると、知能発達障害、皮膚障害、視覚障害、生殖異常など様々な病態、疾患が引き起こされることが知られています。高度不飽和脂肪酸の多くは生体膜リン脂質のsn-2位に結合しており、膜の柔軟性や膜タンパク質の機能を維持していると考えられていますが、高度不飽和脂肪酸がどのようにしてリン脂質に取り込まれるのかについては、これまでよく分かっていませんでした。

最近、私たちは線虫C. elegansを用いた遺伝学的スクリーニングにより、ホスファチジルイノシトール(PI)のsn-2位に高度不飽和脂肪酸を導入する酵素(mboa-7と命名)を同定しました。mboa-7はMBOAT(Membrane bound O-acyltransferase)と呼ばれるモチーフ構造を持っていましたが、このモチーフを有する分子は他にも存在し、機能が分かっていないものも含まれていました。そこで、これら機能未知分子を詳細に解析したところ、その1つがホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)に高度不飽和脂肪酸を導入する酵素であることが分かりました(mboa-6と命名:図参照)。

PCおよびPEは生体膜リン脂質の主要構成であり、その脂肪酸組成の変化は生体膜の物性に大きな変化をもたらすと考えられます。今後、mboa-6欠損動物の解析により、高度不飽和脂肪酸含有リン脂質によって作られる生体膜機能やその分子メカニズムが明らかになっていくと期待されます。