幹細胞の非対称分裂はホスホリパーゼA1と逆行性小胞輸送により制御されている(080801)

投稿日: 2011/12/13 8:16:58

EMBO J. 27, 1647-1657 (2008) Beta-Catenin asymmetry is regulated by PLA1 and retrograde traffic in C. elegans stem cell divisions. Takahiro Kanamori, Takao Inoue, Taro Sakamoto, Keiko Gengyo-Ando, Masafumi Tsujimoto, Shohei Mitani, Hitoshi Sawa, Junken Aoki, and Hiroyuki Arai

リン脂質に結合した脂肪酸鎖を切り出す酵素には、sn-1位の脂肪酸を切り出すホスホリパーゼA1とsn-2位を切り出すホスホリパーゼA2があります。ホスホリパーゼA2はsn-2位に結合したアラキドン酸を切り出し、プロスタグランジンやロイコトリエンなどエイコサノイドの産生(いわゆるアラキドン酸カスケード)に関わることが知られており、その機能はよく調べられています。一方、細胞内型ホスホリパーゼA1に関しては、どのような働きをしているのかこれまでよくわかっていませんでした。

私たちはシンプルなモデル生物である線虫を使ってホスホリパーゼA1の変異体を作製し、この変異体が幹細胞の非対称分裂に異常を示すこと見出しました。非対称分裂では分裂に先立ち、母細胞におけるタンパク質の非対称分布が形成されますが、変異体ではこの非対称分布が形成されませんでした。さらに、順遺伝学的な解析を行い、ホスホリパーゼA1変異体における非対称分布の異常発生に逆行性小胞輸送が関わることを見出しました。幹細胞の非対称分裂は多細胞生物が様々な細胞種を生み出すために獲得した根源的な生命現象です。

今回の研究は、ホスホリパーゼA1の機能を明らかにしただけでなく、非対称分裂におけるタンパク質の非対称分布形成に逆行性小胞輸送が関与していることを示した画期的な発見です。Current Opinion in Genetics & DevelopmentのReview(18, 1–6, 2008)でも本研究が大きくとりあげられています。