酸化リン脂質分解酵素PAF-AH (II)は酸化ストレスによる肝障害に対して防御的に機能している(080201)

J. Biol. Chem., 283, 1628-1636. (2008) Protection against Oxidative Stress-induced Hepatic Injury by Intracellular Type II Platelet-activating Factor Acetylhydrolase by Metabolism of Oxidized Phospholipids in Vivo. Nozomu Kono, Takao Inoue, Yasukazu Yoshida, Hiroyuki Sato, Tomokazu Matsusue, Hiroyuki Itabe, Etsuo Niki, Junken Aoki and Hiroyuki Arai.

生体膜中のリン脂質には二重結合を有する不飽和脂肪酸がsn-2位に結合しています。炎症や感染など酸化ストレスが起こる状況において 、リン脂質中の不飽和脂肪酸は酸化され、酸化リン脂質を生成します(下図)。酸化リン脂質の蓄積は炎症、動脈硬化、神経変性、老化などさまざまな病態に関与するといわれており、酸化リン脂質は速やかに消去されなければなりません。

細胞内II型PAFアセチルハイドロラーゼ(PAF-AH (II))は私たちの研究室で精製・クローニングされた酵素で、リン脂質のsn-2位の脂肪酸を加水分解する酵素であるホスホリパーゼA2の一種です。PAF-AH (II)は通常のリン脂質に対しては加水分解活性を持たないのに対し、酸化リン脂質は効率よく加水分解できる非常にユニークな酵素です。

私たちは酸化リン脂質分解酵素であるPAF-AH (II)の生理的機能調べるためにPAF-AH (II)欠損マウスを作製しました。その結果、PAF-AH (II)欠損マウスは酸化ストレスによる一過的な肝障害からの回復過程に異常を来たし、回復が遅延することがわかりました。またPAF-AH (II)欠損マウスでは酸化ストレス時に酸化リン脂質が顕著に蓄積していることもわかりました。

今回の結果からPAF-AH (II)は生体内において、酸化リン脂質を消去することにより、酸化ストレスによる組織障害に対して防御的に機能していることがわかりました。今後はこのPAF-AH (II)欠損マウスを用いた研究から、酸化リン脂質の生体における影響・機能がさらに解明されることが期待されます。