教科書で紹介されていたEthnologueは、2019年にオンライン版が有料化され、大部分を見ることができなくなってしまいました。その代わりに、The Rosetta Projectの提供するRosetta Panglossia、日本語の開設であれば地球ことば村の提供する「世界言語博物館」がおすすめです。また、その言語に関する論文を収集したい場合は、Glottologを利用すると便利です。
Ethnologue: https://www.ethnologue.com/
Rosetta Panglossia: http://rosettapanglossia.longnow.org/index.php?title=Main_Page
世界言語博物館(地球ことば村):https://www.chikyukotobamura.org/muse/world.html
Glottolog : https://glottolog.org/glottolog/language
言語が同じ語族(Language Family)に属するか否かは、非常に慎重に見極めなければなりません。例えば、日本語の「名前(Namae)」と英語の「Name」は意味も音も似ていますが、だからといって日本語と英語は同じ語族だといえるでしょうか?ちなみにこうした「語呂合わせ」のような推論法を「民間語源」(folk etymology)と言います。言語を比較するときには、音だけでなく、動詞の屈折・活用などの文法に関する事項や、さらには地理的・歴史的(考古学的背景などを総合した上で判断する必要があります。
さて、教科書では日本語やアイヌ語が「アルタイ諸語」として分類されていましたが、これには異論も多く、統一的な見解は得られていないのが現状です。日本語とアイヌ語を比較すると、むしろその違いがはっきりします。日本語は、特に話し言葉で主語が省略される傾向にありますが、アイヌ語ではいかなる場合も主語を明示する必要があります。例えば、「昨日東京へ行った」は"nisatta Tokio kotan un k=arpa" [昨日/東京/村/~へ/私/行く] のように主語「私」を明示する必要があります。このように、簡単な文法を比較しただけでも異なる仕組みの言語だということがわかります。
日本語もアイヌ語もそれがどの系統に属するのか、学術的にははっきりしていません。それゆえこれらの言語は「孤立言語(language isolate)」と呼ばれています。日本語は「日本語族 (Japonic languages)」という一つの語族を形成しています。日本語族には日本語のほか、沖縄語、与那国語、八重山語などが含まれています。
将来的には、AIによる比較技術の進歩によって、これらの言語の系統関係が明らかにされるかもしれません。
比較言語学では、基本的には同じ系統に属する異なる言語の音韻体系の比較を通じて共通の祖語(proto-language)を推測します。例えば、英語のdaughterとドイツ語のTochter「娘」、dayとTag「日」のように、同じ語源とみなされる単語、すなわち「同源語(cognate word)」同士の比較が中心となります。この場合、英語のd音にドイツ語のt音が対応していることがわかります。このような比較を通じて、どのように祖語からそれぞれの言語へと変化していったかを探るのが比較言語学の醍醐味です。ちなみに、英語とドイツ語の共通の祖先であるゲルマン祖語では、「娘」は*duhtēr 、「日」はとなります(祖語形には右上にアスタリスク(*)をつけるのが通例です)。
また、同じ言語の異なる時代の形態を比較することで、より古い形の言語を推測することを「内的再構(internal reconstruction)」あるいはその手法を「内的再建法」と呼びます。内的再構については、吉田和彦著『言語を復元する』で比較的平易に説明していますので、気になる方はぜひ読んでみてください。
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提出期限:4月22日 23:59