皆さんは、Hugo Distler(フーゴ・ディストラー)という作曲家をご存知でしょうか?
「知ってるよ!」というあなたは、かなりの合唱マニアか、教会音楽やオルガンに造詣が深い方か、あるいはドイツにお住まいだった方かもしれません。ディストラーという作曲家はそのくらい、日本では馴染みの薄い作曲家ではないかと思います。
ディストラーは、1908年にドイツのニュルンベルクに生まれ、1942年に34歳という若さで自らの手でその人生を閉じた音楽家です。教会音楽家、オルガニストとして活動し、その短い生涯の間にオルガンやチェンバロ、そして主にアカペラ合唱の分野で素晴らしい作品を多く遺しています。
ディストラーの音楽を最初に聴いたときに、多くの人は「不思議な」響きだと感じるのではないでしょうか。無調の現代音楽ではない、12音技法でもなければ、カデンツのはっきりした調性音楽というわけでもない、強いて言うなら古い音楽のような印象かもしれない・・・。実際にディストラーの作品には、中世に多く用いられた平行4度、5度が度々使われており、またルネサンス時代に用いられていたポリフォニーの様式が非常に色濃く現れています。しかしながら音楽を縦に見てみるとルネサンス時代には有り得ないような和音、和声進行が見られ、まるで「新」と「旧」とが混在しているかのような不思議な感覚に囚われます。その独特な響きがディストラー音楽の大きな魅力だと言えるでしょう。
そしてディストラーは、多くのルネサンス作品がそうであるように、拍節に囚われず、言葉(歌詞)がもつ母音の長短やイントネーションに非常に忠実に作曲されています。まさに「話すように歌う」ことが可能であり、またそうしなくてはならないよう作曲されているのです。
ディストラーの作品は、ドイツではプロ・アマを問わず非常に多くの合唱団によって歌われています。彼の音楽、とりわけその素晴らしい合唱作品が日本でも広く知られ、たくさんの合唱団に愛されますように。
文責 谷郁__
Op.10 Die Weihnachtsgeschichte(クリスマスの物語)
Op.12-1 Totentanz(死者の踊り)
Op.12-9 Fürwahr, er trug unsere Krankheit (まこと彼は我らの病を負いたもう)
Op.19 Mörike-Chorliederbuch (メーリケ合唱曲集)