第13話 きみよ、いまは運命の喉笛を咬め

(初回公開日:2020年12月12日)

グリフィン「金がない。この数日は、食費の七割を薬代にまわしてた。……妹が、熱を出してる」


イナ「え……?」


イナがまじめな顔になり、グリフィンは顔をそむけました。

イナ「……なんだって、早く言わないのよ!妹さん、いくつ!熱は何日続いてるの!」


グリフィン「おれのひとつ下で、十七歳だ。熱はきょうの朝で、ちょうど五日。明け方の雨で体温計が壊れたから、ほんとうは何度あるのかわからないが」


イナ「五日続いてるんじゃ、熱さましに頼るのはダメだよ。お医者さんに診せなくちゃ!」


グリフィン「そうしたいが、金が尽きた。生まれに事情があって、表の世界の【クリーンな】病院に担ぎこむこともできない。……ほんとうに、ギリギリなんだ」


無感動に話していたグリフィンの口許が、初めてゆがみました。


イナ「保険は」


グリフィン「入ってない。おれも妹たちも弟も、とある人里離れた森で育った。信じてもらえないかもしれないが、身分を証明できるモノもない」

イナ「……グリフィン、そのリンゴを食べ終わったら立って。いっしょに来て」


グリフィン「どこへ行く」


イナ「決まってるでしょ、お医者さんのところだよ!ひとりだけ、こういう状況でアテになる人を知ってる。お金なら、なんとかできる!」

グリフィン「そこまで、あなたの世話になるわけにはいかない。あなたには充分親切にしてもらった。もう行ってくれ!

イナ「行くもんか!……いい?グリフィン。ヒトに迷惑かけないように遠慮することと、妹さんの命と、どっちがたいせつ?あんたはいま、お上品とけなげを貫いて、運命に耐えてる場合じゃないはずだよ!」


グリフィンは呼吸さえ止めて、イナをにらみつけました。その顔が緊張のあまり蒼白になり、目許に赤みが差しました。彼は苦労して自分をなだめ、イナを見つめました。


グリフィン「……あなたの言う通りだ、案内してくれ。いや……すこし離れて歩いてほしい」


…………。

…………。

イナ「このアパートに、無免許医が住んでるの。自分が気に入った患者だけを診る変なヒトだよ。とくに気に入った患者からは、お金も取らない。……お金のことがなんとかなるって、そういう意味。そりゃ、道徳的に見りゃどうかしてるんだけど、頼りにできるのは間違いない。あの先生、グリフィンみたいなタイプは好みだと思うから。あらゆる人間の幸薄い運命をココロの戸棚にならべて鑑賞するのが、彼の趣味なの


グリフィン「…………。本気か」


イナ「大丈夫。彼はそれでも、いいヒトだよ。……着いた、この部屋だよ」

イナ「フリントロック先生、いますか?」


???「…………。待ちなさい、いま開けよう」

???「……騒がしい声だと思えば、スパイス・マーケットの不良娘か」


イナ「こんにちは、フリントロック先生。診ていただきたい患者がいるんです。……グリフィン、あとはあんたが話して


イナは後半を無声音でささやきましたが、息の勢いがつよすぎて響きわたっていました。

グリフィン「……妹の熱が下がらない。診察をお願いします。いまは金がないが、倍(ばい)働いて支払います」

フリントロック「……なるほど。魔力に染まった、銀色の髪か


グリフィン「!?」


イナ「…………?」


フリントロック「魔力の少年よ、おまえは自分を責めたのか。おまえから感じる強大な魔力が、妹御の肉体を傷めたことを責めているのか。その魔力こそが、彼女が熱を出した原因だと。……この不良娘から奇妙に離れて立っているのも、そのちからが原因か。おまえの魔力が周囲の者を侵食し、汚染していくことを、おまえは恐れているのだろうか

グリフィン「…………」


イナ「…………?…………?」


グリフィンは答えませんでした。

答えることができないのではなく、答えなかった。


イナは目をまるくして、友だちと医師の顔を見くらべていました。



つづきます……!

Thanks to all MOD/CC creators!

And I love Sims!


(ポーズは、自作です……)