最近、町内会関係のいろいろなトラブルが報道されるようになり、法的な話は避けて通れない時代になりました。
ここでは、役員になった人が知っておいたほうがいい、法的関係を説明します。
町内会は、カラオケ愛好会などと同じ「任意団体」です。
会社でも法人でもないので、法的には「人格なき社団」とか「権利能力なき社団」ともいわれます。
設置や加入を義務付ける法律もありません。
しかし、地域の住民が親睦を深め、協力して生活環境を改善するために、長く維持されてきた組織です。設置根拠がない組織なのですが、国や市町村もその存在を当然とみなしていて、連携(利用)しています。
町内会は、任意団体として会員を募り、会費を集め、会の事業のために買い物や契約ができます。しかし、「法人」ではなく「人格なき社団」なので、財産・口座所有などに制限があります。
法人格を持たないので、集会所などの不動産登記ができない。
(登記するためには「認可地縁団体」として認可が必要)
契約や口座開設をするときは、代表者の名前で行う必要がある。
(△△町内会 会長 伊達太郎 など)
代表者が交代するたびに口座名義を変更する必要がある。
口座の名義変更には、総会資料等を添付します。
金融機関側で、代表者の変更のほか、多数決の原則、総会、内部規則、財産・収支報告などの確認が必要なためです。
今後、注意が必要なのは、町内会の事業で過失により他人に損害を与えた場合の責任です。(不法行為責任)
全国的には、トラブルに備えて賠償保険などに加入する町内会もあります。
会員は、一般的な債務(売買契約など)については、出資(会費等)の範囲で有限責任のみを持つ。(最高裁判例あり)
ただし、不法行為の損害賠償等については、過失の程度に応じて無限責任を問われることがある。
民事訴訟法では、代表者はその名で訴えられることがある。
(多数の裁判例あり)
町内会は法律に基づく組織ではないので、市役所のような行政上の権限は何もありません。
カラオケ愛好会と同様に、会員の入退会については全くの自由であり、退会に伴って罰則等を課すことはできません。いわゆる「出不足」も、あくまで会員が自主的に支払うものです。
町内会は、権限ではなく自主的な同意によって運営される組織です。
町内会は任意団体なので、地域を代表する権限はありません。
土地開発などで、町内会の同意が求められることがありますが、実は、都市計画法、農地法などの法律で、「町内会」の同意を必須とする規定はありません。
法令で「地域住民」の関与が定められている場合、行政や事業者は、最も手間のかからない方法として町内会に依頼をしてくることがありますが、応じる義務はありません。
やむをえず町内会として意見を出す場合は、役員だけで決定するのは避け、臨時総会などを開いて決定したほうがいいでしょう。町内会の役員には、会社の取締役のような全権の代表権はなく、独断で行った行為が不法行為とみなされる場合もあります。
また、町内で意見が大きく割れるようような場合、町内の和を優先し、同意・不同意を保留にしても、法律的に問題になることはありません。
町内会は、市町村の下部組織ではありません。
このため、町内会が行政からの依頼に必ず応じなければならないという、法的な義務はありません。
行政からの依頼が住民生活や地域環境の向上につながるかを町内会自身が判断して、自主的な同意によって協力します。
伊達市の行政推進員は、行政側からこの関係を整理した制度です。町内会の役員個人を、市長が行政推進員に委嘱することで、市からの広報などの配布をスムーズにしようというものです。
ただし、行政推進員も法的には「有償の民間ボランティア」にすぎないので、公務員のように命令に応じる義務はありません。
・選挙の候補者の推薦は慎重に
町内会に、特定の立候補候補者から推薦依頼がされることがあります。
公職選挙法の解釈では、一般に、町内会などの団体等が推薦会議などを開いて白紙の状態から相談して推薦すべき候補者を決め、その事実のみを通常の広報などでメンバーに周知することは、差し支えないとされています。
しかし、以下の理由から、候補者の推薦は慎重に扱ったほうがいいでしょう。
・届け出前の投票依頼は禁止行為
広報の特別版を出したり、推薦候補者への投票依頼となる文言があると選挙運動とみなされます。さらに、立候補届出前にこうした行為をすると、禁止行為である事前運動とみなされる可能性があります。
・認可地縁団体は政治利用が禁止に
町内会が「認可地縁団体」として認可されると、集会所の登記などができるようになります。一方、認可地縁団体は「特定の政党のために利用してはならない(地方自治法260条の2)」という法的な制限が課されています。
地縁団体(町内会)の政治利用は好ましくない、と考えられたためと思われます。
・町内会の目的と政治
町内会の目的のひとつは地域の生活環境の改善なので、政治家を利用することは、かつては一つの手段となり得ました。
しかし同時に、住民同士の和・親睦を深めることも町内会の重要な目的です。町内会の会員の思想信条は一人ひとり異なることから、推薦により思わぬ分裂や町内会への不信感を生む可能性もあります。
また、議員の行政への口利きに関しては近年では記録制度が制定され、かつてのような一部の地域や住民についての口利きは抑制されています。町内会自身が、明確な根拠をそろえて直接要望したほうが効果的な場合もあります。
(参考:「伊達市職務に関する口利きの記録等取扱要綱」)