保全遺伝学と絶滅危惧種保全 (中濱 直之 兵庫県立大学・准教授)
遺伝情報は絶滅危惧種の保全現場でどのように役立つのだろうか。集団遺伝解析から明らかにできる集団の遺伝的多様性の情報を用いることで、近交弱勢を防ぎ集団を存続させるための集団の健全さを推定することができる。また空間遺伝構造の情報は、絶滅危惧種の補強や再導入の実施の際に遺伝的撹乱を防ぐことができる。このように、絶滅危惧種を保全する際に、遺伝情報は非常に重要な情報をもたらしてくれる。その一方で実際に遺伝情報の解明ができている絶滅危惧種や、遺伝情報を活用した。生物多様性保全の実施例は、現状ではそれほど多くない。本講演では、こうした保全遺伝学のさらなる普及を目的に、主な遺伝情報の解析手法やそのコスト、また遺伝情報からわかることや保全現場への活用事例などについて、研究事例を交えて紹介したい。
チョウ類保全から見た、保全生態学と保全のギャップ (中村 康弘 日本チョウ類保全協会・事務局長)
生物多様性の保全は社会的に大きな課題となる中、生物多様性の保全、中でも野生生物や自然環境を守る活動は、「自然保護活動」という枠組みで日本でも古くから行われてきた。一方、保全生物学は、生物多様性保全のための学問領域として、1980年代から発展してきた。
日本チョウ類保全協会では、これまで絶滅の危機にあるチョウの保全に重点を置いた活動を行ってきており、自然保護の活動として、絶滅危惧種を健全な状態まで回復させ、永続的に保全していくには、どのようにしていく必要があるのかについて、試行錯誤を重ねながら取り組みを続けてきている。そうした中で、現場での課題に日々直面している状況である。
現場における保全の上で、昆虫類の生態や保全のための生態学的な知識は重要ではあるものの、その解決のために必要な課題は社会的な問題が主となっている。今回、チョウ類保全の現場を踏まえて、保全の上での現状と今後の課題について紹介したい。
環境保全分野の市民活動~三段峡の事例~ (本宮 炎 NPO法人三段峡ー太田川流域研究会・理事長)
三段峡は安芸太田町と北広島市にまたがる峡谷で、全長約16㎞を文化財保護法及び自然公園法により保護されている。当地をフィールドに活動する三段峡-太田川流域研究会(さんけん)では峡内の植物や、オオサンショウウオ、ヤマセミなどの保全活動や調査を実施している。
希少蝶類保全では行政への政策提言により保護施策を実現した。三段峡内での植物の盗掘では市民参加型の保全活動として調査・見回のボランティアの活用し、継続的なモニタリング調査を実施している。風力発電施設建設では反対運動ではなく、話し合いの場の構築し、活動地域社会の合意を形成した。また一般の市民から共感が得られにくい希少種の保全活動では、次世代のフィールドワーカー育成を主題にした教育活動により支援を広げている。保全活動で後継者不足に悩む団体が少なくない中、広い年齢層や多様な属性を持つ市民が参加するさんけんの活動の事例を報告する
私たちは、誰から何を求められているのだろう(山田 俊弘 広島大学・教授)
地方行政機関の首長の諮問機関である審議会や委員会では、地方行政で重要となる様々な案件が検討される。審議会や委員会では通常、学識経験者も構成員となっている。なぜ、学識経験者が構成員となっているのだろうか。彼らに求められる役割とはなんだろうか。参加者とともに考えたい。
一方で、地方行政機関から委託を受けて調査・研究を行う場合もある。研究者が研鑽を積み、磨きをかけている生態学的な技術と知識は、地方が抱える問題解決に貢献することが可能である。
生態学者ほど、自然と触れ合い、自然のことを日々考えているものはいない。そうした日々の中で着想した考えや視点、問題とすべき課題、そして問題解決方法について、非生態学者に知ってもらうべきことも多いはずです。こうした情報を発信する社会啓蒙的な活動も、忘れてはならない重要な役割です。
広島県内における絶滅危惧植物の保全(山本 晃弘 広島市植物公園 ・技師)
広島市植物公園では、1976 年の開園以来、広島県の野生植物の生育状況を明らかにする目的で自生地調査を続けており、これまでに10 種以上の広島県新産種を報告しました。また、それぞれのエリアにおけるフロラ調査も実施しており、その成果を広島県植物誌補遺や、広島県、広島市あるいは環境省のレッドリスト作成時に基本情報として提供しています。加えて、絶滅が危惧される植物の一部については、園内で生育域外保全を実施しています。特に、2021年以降は、ミコシギクやネコヤマヒゴタイなどの生育域外保全を実施検討するための調査や栽培実験等を広島大学と共同で実施しており、それぞれの植物種について、生態の解明ならびに適切な保全の実施を目指しています。