折紙テセレーションの力学系
Dynamical Systems in Origami Tessellations

折紙テセレーションの力学系
今田凜輝、舘知宏 2021-2023
Dynamical Systems in Origami Tessellations
Rinki Imada, Tomohiro Tachi 2021-2023

紙の上に折線を適切に配置すると、紙を引き伸ばしたり破ったりすることなく、滑らかに変形可能な構造を作り出すことができます。折線の配置と変形の関係を明らかにすることは、折紙の科学における重要な問題の一つです。私たちは、折紙を無数の構成単位から成るシステムとして捉える、という視点から、その変形の数理的解明を目指しています。個々の要素は無関係ではなく、例えば、ある単位が折られると別の単位も勝手に折られる、といった幾何学的な関係で結ばれています。力学系とは、このような関係性から群れの振る舞いを記述する数学です。数理モデルを介して、折紙における現象の理解・創出だけでなく、他分野との繋がりも見えてきています。今田凜輝

広範な折紙テセレーションが「保存系」と呼ばれる力学系のクラスに属することが分かってきました[Imada and Tachi 2023]。保存系ではエネルギーや運動量のように、状態が変化しても保存し続ける「何らかの量」が存在しています。例えば、折紙テセレーションに観察される波上のうねりは、エネルギー保存則によって往復しつづける振り子と同等の現象です。振り子におけるエネルギーに対応する折紙の保存量が何なのか、どのような意味を持っているのかは未解決です。この未解決問題に対して、平均曲率が一定という特別な条件を満たすOnduloidと呼ばれる曲面と、折紙テセレーションのうねりの類似性もヒントになります。我々は折紙において「離散版の平均曲率」が保存されているのではないかと予想しています。舘知宏

本研究はJSPS科研費JP23KJ0682の助成を受けたものです。Rinki Imada & Tomohiro Tachi, "Geometry and kinematics of cylindrical waterbomb tessellation," Journal of Mechanisms and Robotics, 14(4), 2022.Rinki Imada & Tomohiro Tachi, "Undulations in tubular origami tessellations: A connection to area-preserving maps," Chaos: An interdisciplinary journal of nonlinear science, 33(8), 2023.

円筒折紙テセレーションのうねり1
今田凜輝 2023
Undulation in Tubular Origami Tessellation 1
Rinki Imada 2023

ある種の円筒状の折紙では、形状のうねりが生じます。変形により、うねりの高さ・ピーク位置を動かすこともできます。これは、周期的な折線の配置からは想像しにくい性質です。その背後には、この折紙の力学系が何らかの量を保存する保存系である、という数理が隠れています。— 今田凜輝

円筒折紙テセレーションのうねり2
今田凜輝 2023
Undulation in Tubular Origami Tessellation 2
Rinki Imada 2023

力学系の解析を通して、実はうねりの形態は一通りではなく、様々なうねりが生じ得ることが分かりました。では、あるうねりの形態だけ、選択的に抽出することは可能でしょうか。折線の配置の工夫により、本作品は欲しいうねりを誘発する構造になっています。— 今田凜輝

photo:Choku KIMURA