2026年1月25日に第7回研究会を開催いたします。
研究会趣旨:
SNS やブログでは、ときに通常の語形成や統語規則から逸脱した形式が生じる。こうした「逸脱表現」は、デジタル環境特有の可視性・相互行為性・視覚情報との結合によって成立しやすく、従来の理論研究や記述研究との接続を再検討する格好の素材となる。 本研究会では、SNS 上での仮想的帰属・文包摂名詞・形容詞+たち・be like の拡張用法など、多様な「引用表現」と「逸脱性」を備えた事例を扱い、デジタル環境における言語形式の拡張を理論的・記述的に検討することを目的とする。
テーマ:,
デジタル環境における引用表現と逸脱表現の広がりはどのように捉えられるか
発表①:佐川寛知
引用表現の構造と機能:デジタル実践への展開
【要旨】
本発表では、引用表現の基本的な構成要素と構造を整理し、認識の帰属に関する理論的枠組みを概観することで、後続発表に向けた共通の基盤を提供する。引用とは、話し手の心内世界において「既に他者の発話(事実)が存立している」とみなした出来事を、「ト・ッテ」などの文法形式である引用標識や、「(山田, 20YY)」のような出典表記・引用符・ハッシュタグなどの引用標示を用いて再現した言語行為であり、そうした言語表現は引用表現と呼ばれる。例えば「誤字はその人の内面を表すってハイキング中のドイツ人が言ってた」のような用例では、引用節(誤字はその人の内面を表すって)を主節(ハイキング中のドイツ人が言ってた)が包摂する入れ子構造となり、一つの文に二重の事態把握が組み込まれる。こうした構造は、X(旧Twitter)における引用リポスト機能や、SNS上での「~って誰かが言ってた」型の用法にも顕著であり、話し手が構成した仮想的内容であっても、被引用者の発話として提示することを可能にする。デジタルコミュニケーションにおいて引用表現が果たす役割は、単なる再現にとどまらず、態度や評価の提示・責任の希薄化など多面的である。本発表では、こうした機能を射程に収めるための基礎的枠組みを提示する。
発表② :細谷諒太・泉大輔
ウェブコーパスにおける英日の文包摂名詞の事例分析
【要旨】
本発表では “feeling” を後項とする英語の文包摂名詞 (e.g. The trailer gives you a very big “I want to buy that” feeling.) をウェブコーパスから収集・分析し、「感」を後項とする日本語の文包摂名詞 (e.g. 主人公の自分はいい人ですよ感が私には無理でした。) と対照させる。文包摂名詞とは「早く帰れオーラ」「困ったな状態」 など、文相当の要素が名詞や接尾辞と直接結びついた表現であり、通常の語形成規則を逸脱するとされる (泉2024)。文包摂名詞の前項は程度の差はあれど発話らしさを備えている。それにより、前項は読み手がその文包摂名詞を読んでいる〈今・ここ・現実〉とは異なる場に存在する (と思われる) 言葉の再現であると解釈でき、その意味で引用と捉えられる。前項の被引用者の多様なパターンを明らかにした上で、その結果を泉 (2019) による日本語の「感」を後項とする文包摂名詞の分析結果と対照させる。これにより英日の用法の共通点と相違点を示す。
発表③ :堀内ふみ野
X(旧Twitter)に見られる[形容詞+たち]構文の逸脱性と引用性
【要旨】
ソーシャルメディア上では、「(複数の料理の写真を載せて)最近のおいしいたち」「(サプリなどの写真を載せて)これがあると嬉しいたち」のように、本来は名詞に付く複数標識「-たち」が形容詞に後続する逸脱的構造が観察される。この構造は、「{おいしい/嬉しい}ものたち」から主要部名詞が脱落した、連体修飾構造の省略形にも見える一方で、「-たち」の前項には仮想的なことばの引用のような性質も認められる。本発表では、特に X(旧Twitter)における[形容詞 + -たち]構文を対象に、その構造的・機能的特徴を分析し、「-たち」の前項に見られる引用性を明らかにする。さらに、Xのコミュニケーション環境の特性である、非言語的要素(画像・動画等)の豊富さ、リプライ機能による相互行為性、個人的ニュースや近況を紹介したいという動機付けなどが、当該構文の形成と拡張を促す要因となっていることを論じる。
発表④:中村文紀
X(旧Twitter)における引用表現be likeの変化
【要旨】
英語では引用表現としてbe likeはその頻度を増してきているが、それはソーシャルメディア上でも例外ではない。使用頻度の増加に加え、be likeに後続する要素の多様化しており、言語だけではなく画像やミームを引用するという書きことばや話しことばではできなかった用法も見られるようになっている。本発表では、特にX (旧Twitter)におけるbe like構文を対象に、観察される多様なバリエーションを考察するとともに、その変化をもたらす動機付けを考察する。形式面では、頻度効果による固定化と複製と加工を容易にする電子技術による用法拡張が生じていることを論じる。機能面では、言語による間接的な提示ではなく、そのものを引用・提示することによる臨場感を与えることで、時空間が離れ、先だった人間関係が存在しないソーシャルメディアサービス上におけるコミュニケーションをより円滑にしたいという動機があることを指摘する。
タイムテーブル:
13:00〜13:10 開会・趣旨説明・発表者の紹介(10分)
13:10〜13:20 発表全体についての導入(10分)
13:20〜13:50 第一発表(佐川氏)
13:50〜14:20 第二発表(細谷氏・泉氏)
14:20〜14:30 休憩(10分)
14:30〜15:00 第三発表(堀内氏)
15:00〜15:30 第四発表(中村氏)
15:30〜15:40 休憩(10分)
15:40〜16:10 各発表への質疑応答(30分)
16:10〜16:30 全体質疑・意見交換(20分)
※質問が多数寄せられた場合、16時45分まで延長する可能性があります。 ※その他、時間内に回答しきれなかったご質問に関しましては、公式コミュニティ(無料)上にて追加の質疑応答を行います。
申込み:
以下の応募フォームより【2026年 1月 23日(金)】までにお申し込みください。