2025年10月19日(日)に第6回 研究会を開催する予定です
研究会趣旨:
SNSやメッセージアプリ、マイクロブログといったデジタルメディアの普及に伴い、私たちの言語使用は大きく変容しつつある。デジタルコミュニケーション研究会では、こうした変化を理論的・実証的に捉え、現代的な言語実践を明らかにすることを目的としている。
第5回研究会では、携帯メールを用いたポライトネスの実践、およびSNSの仕様変化に伴う日本語研究の可能性という二つの視点から、デジタル環境における言語の課題と展望を検討する。
発表①:大塚 生子
タイトル: 対立場面に見るデジタル・ポライトネスの実践:ママ友間の携帯メール談話を事例に
要旨:
本発表では、ママ友間の携帯メールによる対立的相互行為を対象とし、デジタル・コミュニケーションにおけるフェイスワークと感情管理の実態を分析する。従来のポライトネス理論が対面会話を前提に発展してきたのに対し、本研究はディスカーシブ・アプローチに立脚し、実際のやりとりを通じてポライトネスがどのように構築・交渉されるかを考察する。データ分析では、常体/敬体、関西弁/共通語の使い分け、絵文字・記号の活用が、親密さと距離の調整に用いられていることを示す。さらに、感情の高まりと合理的利得計算がせめぎ合う中で、フェイス攻撃とその補償が戦略的に行われている点に注目する。
対面と異なり、テキスト媒体では感情表現と対人距離の微細な調整が不可欠となること、またその困難さが対立の構造に影響することを指摘し、現代のエモクラシー社会における対立処理の一端を明らかにする。
発表②:田川 拓海
タイトル: マイクロブログを対象にした日本語研究の可能性:XからBlueskyへ
要旨:
本発表ではまず、X (前Twitter)の2023年から2024年にかけて起きた急激な変化が日本語研究にもたらした影響とそれらの問題点を、田川拓海 (2024)「Twitter (X) 上の日本語を対象にした言語学的研究に関する覚え書き」(『筑波日本語研究』28:1-30)を元に整理する。次に、その内の1つであるAPIを用いた投稿の大規模な取得が難しくなったという問題への対策として、そのほかのSNSから日本語のテキストデータを収集する手法を検討する。具体的には、X (前Twitter)によく似た性質を持つBlueskyを取り上げる。Blueskyはユーザー数がここ1年ほどで急激に増加し、投稿に関する利用規約やAPIについても比較的制限が厳しくない形で整備が進んでおり、Web上のテキストデータを用いる研究へも活用が期待される。1) フィード、2) API、3) コーパス、の3つの観点から投稿のテキストデータを取得する方法について整理し、取得したデータを用いて語形成などの具体的な研究が行えそうかどうか検討する。
研究会趣旨:
デジタルコミュニケーション(DC)、およびComputer-Mediated Communication(CMC)研究は、現代社会における言語使用の変容を明らかにする重要な研究領域である。特に、SNSやライブ配信といったデジタル空間では、新たな語用論的現象や引用の仕方が見られ、従来の対面コミュニケーションとは異なる言語使用の特徴が浮かび上がる。しかし、それらの分析にはデータの収集や処理、言語学的枠組みの適用といった課題が伴う。
本研究会では、SNS上の語用論的表現の分析、およびYouTube Liveにおけるテキストチャットの引用の考察を通じて、デジタルコミュニケーションにおける言語使用の実態を明らかにする。データに基づいた具体的な研究事例を提示することで、デジタル環境における言語研究の可能性と課題を共有し、議論を深める場としたい。
発表①:工藤 俊
SNS談話に垣間見える人間の心―若者ことば「ぴえん」、談話冒頭の「というわけで」、おじさん構文「なんちゃって」を中心に―
本発表では、Social Networking Service (SNS) で用いられる以下の表現を考察し、人間の心を言語学的に探る。
(1)
a. 購入から5年のmacbookではスペックが追いつかないぴえん (x: 2020/8/10)
b. はい、ということで、皆さんどうもご無沙汰しております、西園寺でございますけれども…(以下略) (YouTube: 2023/12/13)
c. 〇〇チャン、今日はどんな予定📅があるのかな❓ショッピングかな❓🛒…(中略)…それとも、おじさんとデートしちゃう💖😍ナンチャッテ😂
(1a) の「ぴえん」は、話者が悲しむ様子を表したオノマトペである。(1b) では、談話の冒頭にもかかわらず、接続の連語「ということで」が用いられている。(1c) の「なんちゃって」は、いわゆるおじさん構文の表現で、ハラスメント紛いの表現として認識されている。これらの使用によって、話者はどのような語用論的効果を期待しているのか。本発表では、記述的な考察を通じてこの問題に取り組む。また、参加者からのご意見も多く賜りたい。
参考URL(※すべて2025年2月7日最終閲覧)
https://x.com/sntm_nami_g/status/1292759971826827264
https://www.youtube.com/watch?v=Jc3i4cNlbd8
https://shoji7405coffee.hateblo.jp/entry/ojisan-ohayo-ko
発表②:新山聖也・落合哉人
YouTube Liveにおける「雑談配信」とテキストチャットの引用
YouTube Liveのようなライブストリーミング方式の動画配信においては、音声で話す配信者が、文字で話す視聴者のテキストチャットを引用して取り上げることがある。本発表では、YouTube Liveで行われる「雑談配信」を調査対象とし、配信者と視聴者のやりとりにまつわるメディアの制約を概観した上で、特徴的な言語使用であるテキストチャットの引用についてその性質を記述する。テキストチャットの引用は、引用標識や発言動詞を伴わない点で、先行研究におけるゼロ型引用表現と類似する。しかしながら、前後の発話で引用であることを明示的に示さない点で特徴的である。本発表では、このようなテキストチャットの引用の特徴が、即時的にチャットを引用し、即時的にそのチャットに言及を行う点に由来するものと主張する。
研究会趣旨:
デジタルコミュニケーション(DC)、およびComputer-Mediated Communication(CMC)研究は、現代人の言語活動を捉える上で重要な研究領域である。しかし、Web上のデータ取得には困難が伴い、プログラミングスキルの欠如やデータの処理方法の不明瞭さが研究の進行を妨げることもある。さらに、収集したデータからどのような研究成果を導出できるか、勘所を掴みづらいという声もある。
第3回デジタルコミュニケーション研究会では、Web上のデータの採集・処理・分析方法に関する「レクチャー」と、具体的な「研究事例」2つを通じてこれらの課題に取り組む。
レクチャー:山崎由佳(京都大学[院])
ウェブ上のデータは、現代の言語研究において重要なデータソースとなっている。本発表では、特にウェブデータ(特にSNSデータ)を活用した言語学研究の方法について述べる。まず、サンプルの取り方の切り口 (Herring 2004; Androutsopoulos 2013) やSNSに含まれるデータについて紹介する。次に、データの分析を行う上で、既存のコーパス・データセットを活用する方法と、自分でデータセットを構築する方法について説明する。データセットの構築に関しては、API等を用いる方法について述べ、SNSからデータを収集する際の留意点を取り上げる。おまけとして、データ処理における「生成AI」の補助的な活用についても少々取り扱う。本発表は、このようなことに関心があるけれどもやったことはない、という人に向けたものとするつもりである。
発表①:菊地礼(長野工業高等専門学校)
本発表は「現代日本語書き言葉均衡コーパス」(BCCWJ)に収録されたWeb資料である「Yahoo!ブログ」「Yahoo!知恵袋」の直喩を対象として調査・分析する。直喩の使用実態の解明を通して両ジャンルの文体的な性質を考察する。従来の研究(岸本2005、2018、2022など)では、「Yahoo!ブログ」をはじめとしたブログの文体的な特徴として「話し言葉的」「読み手を意識」などが指摘されている。また、「Yahoo!知恵袋」は質問を投稿して回答を求め、質問に対して回答するというやり取りで構成されており、読み手への意識は強いと思われる。直喩は表現対象を具体的に伝達することを主な目的とする修辞技法であり、読み手を意識した表現に数え入れることができる。しかし、両者における直喩の出現頻度を調べると、10万語当たりの出現頻度で「Yahoo!ブログ」は7.8であり、「Yahoo!知恵袋」は5.7となる。「Yahoo!ブログ」の方が「Yahoo!知恵袋」よりも直喩を多く使用する傾向にあることが分かる。同じように読み手を意識したジャンルであるが、直喩の使用には違いがある。このような傾向の違いは、両ジャンルの文体的な性質を「読み手を意識する」だけで考えることができないことを示唆する。直喩の使用傾向の違いから両ジャンルのより具体的な文体的な性質を検討する。
参考文献
岸本千秋(2005)「ネット日記における読み手を意識した表現」三宅和子・岡本能里子・佐藤彰編『メディアとことば2 組み込まれるオーディエンス』ひつじ書房
岸本千秋(2018)「ウェブログの計量的文体研究ー文末表現とウェブ記号との関係を中心にー」『阪大日本語研究』30号:大阪大学大学院文学研究科日本語学講座
岸本千秋(2022)「SNSの文体をとらえる試み : ブログとTwitterを例に」『計量国語学』33巻7号計量国語学会
発表②:山崎由佳(京都大学[院])
(※)言語資源ワークショップ2024の発表内容と重複するものです。
「加藤安彦ケータイメイルコーパス」における携帯メイル上の絵文字の登場位置と使用傾向について報告する。本コーパスを用いた絵文字の研究には田中・林(2021),三宅(2022)などがあるが、本研究は異なる観点を導入する。(1) 傾向の分析のために絵文字の分類を行う。(2) 絵文字の位置に着目する。(2a) 各位置の登場割合を示し、頻度としては低い文頭部での絵文字の使用傾向が全体の傾向とは異なることを指摘する。(2b) 文末部での絵文字の連続使用に着目する。ここでは絵文字の連接ペアを取り上げ、各カテゴリの末尾側(右側)・手前側(左側)への「来やすさ」を分析し、カテゴリ間の結びつきの強さについて論じる。(3) 送受信での「携帯会社名」が異なる場合のメイル件数の経年変化や、年別のカテゴリの割合等のデータを示して分析し、先行研究の議論を補う。
研究会趣旨:
デジタルコミュニケーション(DC)、およびComputer-Mediated Communication(CMC)研究は現代人の言語活動を捉えるうえで重要な研究領域である。しかしながらその枠組みは整備されているとは言いがたく、主に若手研究者を中心に「どの文献を押さえれば良いのか分からない」「適切な手法を知りたい」などの声が寄せられることも珍しくない。 本研究会では講師として落合哉人氏(国立国語研究所)を招き、関連領域の研究史を学ぶとともに、DC/CMC研究の確立に向けて乗り越えるべき課題を確認する。さらには具体的な研究事例を学ぶことで、参加者による研究活動の活発化を促す。
発表:
落合哉人(国立国語研究所)
「日本語研究の視座に基づくDC/CMC研究の確立に向けて」
この発表ではまず,言語学周辺の視座をもとに主に英語圏を中心とする国外で展開されてきたComputer-Mediated Communication (CMC)研究と,それらの研究とは半ば独立した形で国内で展開されてきた「打ちことば」等に関する研究をそれぞれ概観する.その上で今後,日本語環境を対象とした本格的なDC/CMC研究を確立するにあたり,どのような取り組みが必要であるか発表者の研究も紹介しつつ考察を行う.具体的には,日本語環境のDC/CMCの実態を(なるべく定量的に)把握する上でどのような調査・分析の方法をとることが有効であるか論じるほか,LINEやX (Twitter),YouTubeといった個々のモードで生じる言語使用に関して何がわかっており,何を今後調べる必要があるか個別に検討する.
テーマ:
CMC研究のこれまでとこれから(デジタルコミュニケーション研究会立ち上げに寄せて)
概要:
1990年代後半から日本に浸透しはじめたモバイルメディアは、今や我々の生活に欠かせないものとなっている。このような流れのなか、コンピュータを介したコミュニケーション(Computer-Mediated Communication: CMC)の研究は現代人の言語活動を捉えるうえで重要な領域である。しかしながら三宅(2023)が総括するとおり、日本のCMC研究は「本格的な研究はこれから」という段階であり、今後の発展が期待されている。
本研究会はこのような背景のもと立ち上げられ、研究者同士の相互交流と分野の発展をねらいとするものである。初回にあたる今回は、本会の趣旨と活動内容を紹介するとともに、ゲストスピーカーとして三宅和子先生(東洋大学)、堀内ふみ野先生(日本女子大学)を迎え、CMC研究のこれまでとこれから、そして具体的な研究の可能性を探る。
発表①:三宅和子(東洋大学(名誉教授))
デジタルコミュニケーション研究なしに21世紀は語れない
電子機器に依存したコミュニケーションがデフォルト状態になりつつある現在、デジタルコミュニケーション研究抜きに21世紀の言語使用の実態は論じられないのではないだろうか。本発表ではまず、これまでの内外のデジタルコミュニケーション研究の流れをおさえた後、黎明期から変化してきている現状をグローバル化の増大、モビリティ、マルチ・メディア化から捉え、研究の複雑化を指摘する。次に、電子メディア上の言語の特徴といわれる「打ちことば」を「話しことば」「書きことば」と対比しながら批判的に検討する。その上で、デジタルコミュニケーションをジャンル・モード・プラットフォームなどの多様性、ボトムアップvs.トップダウンのアプローチ、質的研究vs.量的研究、状況依存性などの観点から眺め、技術と社会変化とともに進化し続けるデジタルコミュニケーションをいかに研究できるか、その視点や方法を共有したい。
発表②:堀内ふみ野(日本女子大学)
CMC研究と文法研究の接点
本発表では、使用基盤(usage-based)の文法研究の立場からCMCのことばを観察し、文脈に依存した構文形成について検討する。特に、形態統語的な切れ目とも話しことばにおける息継ぎとも単純には対応しない位置に挿入された読点(e.g.「言いづらいん、だけどね」「カニ缶で十分、なタイプ」)を手がかりとした事例研究を通して、CMCに特有の記号的要素も構文の構成要素(意味・機能の違いを生み出す形式の一部)となり、文法の組織化や変化に関わっている可能性があることを示す。また、文法研究の射程にCMCのことばを取り込む難しさ、そこから垣間見える従来の文法研究の想定、CMCのことばの観察がもたらす文法研究の広がりについても議論し、CMC研究と文法研究の接続を試みる。