これまでやってきたことや現在の関心
私たちは日々、ほとんど意識することなく会話をしています。けれども、その何気ないやりとりを録音・録画して細かく見ていくと、実はとても精密な「しくみ」が働いていることが分かります。話し手が交代するタイミング、相手の言葉を受けて応答するまでの間(ま)、聞き間違いを直していくなど。こうしたことを、私たちは明示的なルールを誰かから教わったわけでもないのに、驚くほど巧みにこなしています。
会話分析 (Conversation Analysis) は、このような日常会話に隠れた秩序を、実際に交わされた会話のデータにもとづいて明らかにしていく研究分野です。「人と人とは、どのようにして互いに理解し合っているのか」という問いを、頭のなかで抽象的に考えるのではなく、具体的なやりとりの一つひとつから解き明かしていきます。
これまで私が中心的に取り組んできたのは、「修復(repair)」と呼ばれる現象です。会話では、言い間違いや聞き取れなかった箇所、理解できない言葉、話がうまく噛み合わないといった「ちょっとしたつまずき」が絶えず生じます。私たちはそのようなつまずきにずっと留まることなく、その都度立て直しながら会話を続けています。この立て直しの営みが修復です。興味深いのは、同じ立て直しでも、どのような言い方を選ぶかによって、相手への配慮のあり方が細やかに変わる点です。たとえば、つまずきの原因が相手の側にあることをそれとなく示したり、相手の間違いを遠回しに正したり、これから生じそうな誤解を先回りして手当てしたり。表現の選び方ひとつで、こうした微妙な相互行為上の機微を、繊細に調整することができます。
そして最近では、この修復の研究から派生して、日本語の会話における「意味」そのものへと関心を広げています。言葉の意味は、辞書に書かれたものがそのまま相手に届くわけではありません。むしろ、話し手と聞き手がその場で協力しながら、少しずつ調整し、共に作り上げていくものです。会話のなかで意味がどのように「協働的に達成されるのか」という問いに、現在は取り組んでいます(関連プロジェクト)。
一見ありふれた会話のなかにこそ、人間のコミュニケーションの繊細さと創造性が表れている。そう考えながら、日々のやりとりに目を凝らしています。