本編

ネタバレを含むので先にほんへの視聴をオッスお願いしまーす!

ストーリー補遺

「狐」本編で説明しきれなかった情報の補足・解説です。本当は先輩の口から全部話してもらいたかったけど、これがなかなか…難しいねんな。

1. いくつの超常現象が起こっていたのか?

前編で、野獣先輩(鈴木泰也)は「A カーナビの異常」「B おかしな振る舞いをする狐」「C 村人や家屋の幻覚」という3つの超常現象に出くわします。さらに翌日SIK(奈々)と一緒に山に入ります。そんなことしなくて良いから…。そこで「D 不自然な動物の死骸」という4つ目の現象に遭遇しました。泰也は当初、一連の超常現象を「狐の仕業」と思い込みます。しかし奈々は「犯人が1人かわからない」(原因は1つとは限らない)と予断を許しません。思い込むってのは怖ぇなぁ…。

超常現象の種類を「匂い」として嗅ぎ分けられる奈々は、「D 不自然な動物の死骸」と「C 村が消えた野原から同じ匂いがすることに気づきます。さらに「D 動物の死骸」も「B おかしな狐」も神社から遠ざけるために生まれた現象だと気づきます。ここでBCDが共通の原因を持つ「狐」という一つの現象だとわかります。原因は一つしかないから。

超常現象について情報が集まってきたのは良いものの、繰り返される幻覚によって泰也と奈々は逃げ道を失います。そこで「俺も仲間に入れてくれよ〜」ともう一つの超常現象「A カーナビの異常」が再び起こります。奈々は、神社で嗅いだ匂いとカーナビの匂いが同じであると気づきます。神社は「C 村が消えた野原」とは違う匂いだと覚えていたので、A(カーナビ)とBCD(狐)は異なる現象だとわかりました。

身の回りで不思議なことが起こるだけでは、それが良いの悪いのかこれもうわかんねぇな…となります。1日目の泰也は、怖いな〜とづまりすとこ…と心の扉を閉ざしてしまい、カーナビが味方とは気づけませんでした。しかし奈々の嗅ぎ分ける才能によって、味方であ稲荷神社が、カーナビを操作することがわかりました。A(カーナビ)の導きによって、稲荷神社まで帰ってくることができました。


2. 超常現象の目的は何だったのか?

野獣兄妹(泰也と奈々)は無事に帰宅します。しかし結局、敵の目的はわかりませんでした。というのも被害者が何かを失わなければ、加害者がを何を欲していたのかわからないからです。

ですが泰也と遠野の後日談で触れている通り、山で「狐に化かされた」人には、所持品を失うケースが多々あるようです(後述のオマージュ作品「山怪」で説明しています)。1日目にたくさんのお土産を持って山に入った泰也は、それを盗むことを目当てに山の怪異「狐」に目をつけられたのかもしれません。

有害な超常現象(狐)が幻覚を見せたのに対し、親切な超常現象(神社)は正しい道を教えてくれました。泰也が回想している通り、神社での祈祷(お祈り)は本来、個人の願い事を伝えるイベントではなく、国家の安全・風雨順時・五穀豊穣など、公共性の強い願いを届けるものです。泰也が「無事に帰れますように」なんてお願いをしなくても味方をしてくれたのは、山で過ごす人を見守ることこそが山神様の勤めだからかもしれません。

オマージュ作品

(「狐」には直接ストーリーを参照した原作は)ないです。ですが部分的にオマージュした作品がいくつかあるので、紹介していきますよ〜…いくいく。

1. 田中康弘「山怪 山人が語る不思議な話」(ヤマケイ文庫)

この書籍は小説ではなく、取材記録のようなエッセイ調の作品です。長年マタギ(猟師)の生活を取材・撮影した筆者が、山で暮らす人々から聞き取ったエピソードを書き留めたものです。オチや教訓のある説話と異なり、口伝えに入手した不思議な実体験からのみ構成されています。性質上「よくわからないけど不思議な体験だった」という終わり方のエピソードが多いです。ホラー作品のような超常現象との駆け引きや緩急あるストーリーを期待すると肩透かしを喰らうかもしれませんが、実録集として面白い書籍です。(取材した時点で)存命の方の実体験が多く、昔話でもフィクションでもなく現代の超常現象として楽しめるのも特徴です。本書のうち「ナビの策略」「白銀の怪物」「生臭いものが好き」をオマージュしました。

「ナビの策略」は、カーナビが異常をきたし、目的地とは全く別の山中に迷い込んでしまうという話です。元の筋書き通りにカーナビを悪役にしようと思ったのですが、オマージュする過程で味方に立場を変えました。

「白銀の怪物」は複数のエピソードから成りますが、そのうち狐に追い回された人のエピソードをオマージュしました。これは自動車を運転する男性が、不気味な仕草をする狐に出会い、遠回りの道を選んだら狐が先回りしてまた立ちはだかったというものです(お前もしかして、あいつのことが好きなのか?)。

「生臭いものが好き」は「狐に化かされる」という被害を経験した人たちのエピソードです。山の怪異が出店やら美女やら存在しない道やら様々な幻覚を見せて、被害者は道に迷っているうちに荷物を失う、なんて事故が複数の地域を跨いで存在するようです。それらの事故の被害者に、魚などの生臭い食品を持ち歩いている人が多かったという共通項が記されています。怪異の正体が狐かどうかわかりませんが「きっと狐は生臭いものが好きなんだろう」と締められています。

上記に加えて、巻末に収録されている「山怪後日談」もオマージュしました。こちらでは「山盛りの内臓」というエピソードに触れています(詳細は続編の「山怪 弐」に掲載しているようです)。山の中で突然、動物の内臓が置かれた光景に出会うというエピソードです。鳥獣が食い荒らしたような後ではなく、人が解剖したかのように綺麗な状態で置かれていることがあるんだとか。これをオマージュして、2日目の怪異には動物の死骸を採用しました。

以上4つのエピソードをアレンジして、次々に不可思議な現象が起こるというストーリーに仕立てました。実体験だったら1つ起こるだけでもブルっちまうよ…となりそうですが、大胆な詰め合わせはフィクションの特権!


2. panpanya「蟹に誘われて」(白泉社)

短編集の漫画です。こちらもホラー作品ではなく、シュールな作風のファンタジー、筆者の体験談などをまとめた一冊です。精緻に描き込まれた背景が特徴で、風景や小物の絵を楽しみながら読める作品です。

本書から「気味」という作品をオマージュしました。帰りが遅くなった日に近道をするため、山を越えるルートを選ぶと不気味な雰囲気の町を通過した、というもの。妖怪や幽霊は一切登場しませんが、季節外れの行事をする家屋ばかりが並ぶ町の気味悪さをひしひしと描いた、ごく短い作品です。

この作品「気味」は、怪異の原因を突き止めたり事件を解決したりするわけでもない、ただ不思議な現象に遭うだけのストーリーです。「狐」でも同じ作風を踏襲することにしました。

コンセプト解説

ストーリーを作った時の裏話的なもの。全然ゆるケツじゃんお前!って感じのゆるゆる設定ですが、書いておかないと自分が忘れるので書きます。

1. 狐のイメージ

オマージュした作品「山怪」では、狐が原因かどうかはわからないにせよ、狐の名を関する超常現象の記述が多数ありました。そこでBB劇場でも、「狐」をキーワードにストーリーを練りながら、それにまつわる習俗・信仰について調べました。まぁ伏見稲荷大社HPのQ&Aと、論文「稲荷信仰と狐の民俗」を読んだだけなんですけど(中学生の自由研究並みの努力)。

いろんなところさん!?から情報を集めるうちに狐に様々なイメージがあることがわかったので、悪い狐 vs. 良い狐のエピソードにしました。後日談で遠野は、A(カーナビ・稲荷神社)を「良い狐」、BCD(狐・村と死骸の幻覚)を「悪い狐」と表現します。狐にまつわる現象であることは共通していますが、両者は味方・敵と立場を違えます。

今作では、味方である稲荷神社を「良い狐」と位置付けました。しかし実は、稲荷神社で祀られている田の神「稲荷神」は狐の姿をしていません。また稲荷神の眷属(遣い)である「白狐(びゃっこ)」は、動物である狐と違い、目には見えない霊獣だそうです。神様もその遣いも、狐の姿はしていないようですね。

一方、山で起こった恐ろしい超常現象「悪い狐」も、狐の姿をしていませんでした(したりしなかったりしろ)。これは山に現れる発光現象を「狐火」、山で方向感覚の喪失や幻覚によって迷う事故を「狐に化かされた」と呼ぶように、狐の関与が不明な超常現象も狐の名前がつく、というジンクスを踏襲しています。

2. 奈々の超能力

「狐」では、山の怪異が幻覚など不気味な超常現象を起こします。ですが決して暴力はふるいません。暴力を振るわれてないのに殴るなんて…そんなことしちゃあ…ダメだろ!(真面目)ということで、味方には除霊・お祓いなどの能力は一切持たせないことにしました。

今作の野獣兄妹は2人とも霊感体質で超常現象に度々出会いますが、ちゃんとした霊能力者としての訓練は受けていないのでお祓いはできません。それでも五感を使って分析し、知恵と決断力で状況を打開する、という作風にしました。バトルやサスペンスよりミステリーを意識しています。

でも超常現象が見えたり聞こえたりしろ、ってだけだと寂しいので第六感の超能力をSIKに与えることにしました

第六感の候補として、温度覚(悪寒)や聴覚(耳鳴り)など色々候補があったのですが、最終的にはYMN姉貴の音声素材に匂い関係の語録が多いということで「匂いで超常現象を識別できる」という設定にしました。

3. 登場人物

初回では野獣兄妹の設定と超常現象の描写が力の入れどころさん!?だったので余計な情報は一切なしだから、のスタンスで登場人物を少なめにしました。モブ役のハンガリー舞曲兄貴にも、話の聞き手の遠野にも、それぞれ超常現象役とまとめ役という役割を与えました。

そこまでしておいてこれマジ?妹の超能力に比べて兄の活躍が貧弱すぎるだろ…な展開になってしまったので、次回からはお兄ちゃんにももっと頑張ってほしいですね(他人事)。奈々は冷静で打算的なリアリストですが、泰也はロマンチストで信仰や伝統を重んじる性格です。そんな泰也の性格や知識も次回からは役に立つんじゃないかなぁ…どうだったかなぁ…(TKNUC)。

参考文献

良質な情報に簡単にアクセスできて、ねぇネットのありがたさ感じちゃう!

1 「稲荷信仰と狐の民俗」
吉川 正倫・著「大手前女子大学論集」収録論文リンク:http://id.nii.ac.jp/1160/00001193/

全国に浸透した稲荷大明神への信仰と、日本全国で古くから存在する狐神への信仰(お稲荷様の遣いとしてではなく、狐そのものを祀るより古い俗信)について分析した研究です。度々混同されがちな狐とお稲荷様を区別する上で信頼できる資料として参考にしました。


2 「神社でのご祈願について」

神社本庁webサイト、サイトリンク: https://www.jinjahoncho.or.jp/omairi/osahou/gokigan

泰也が山中の稲荷神社にお参りした際のモノローグの参照元です。「神社では国家の安全や風雨順時、五穀豊穣など、公共性の強い祈願を行っていました」と書かれている通り、神社の参拝は本来個人の願いごとをするイベントではなかったそうです。


3 伏見稲荷大社「よくあるご質問」

伏見稲荷大社公式webサイト、サイトリンク:http://inari.jp/about/faq/

稲荷神社についてきめ細やかな情報を多数公開していたページです。動画編集中は度々参考にさせていただきましたが、2023年1月現在は非公開になってしまっています。悲しいなぁ…。一応リンクは貼っておきます。いつの日か、再公開されると信じてーー。

画像編集

動画編集の過程で使用した写真についての小ネタです。ガバガバどころかスカスカ知識で書いている部分もあるので、気になった所さん!?はプロの解説を探して参考にして、どうぞ。

1 色調補正

動画全体で使用した色調補正のメイキングです(全4枚)。前編では夕方のシーンが多いですが、ほとんどは昼に撮影された写真や動画を加工して、夕方っぽく見せています。後編では車内のシーンが多いですが、キャラの明度やコントラストを下げて室内にいるっぽく加工してます。4章の屋上シーンもコントラストを上げれば晴天に見える可能性が微レ存…?

2 クマ

後編で登場したクマの遺骸のメイキングです(全3枚)。CG加工の粗を隠すためには暗くしたり雨やノイズを入れると良いらしいっすよ。じゃけん夜いきましょうね(ホラー探索の鉄則)。

3 キツネ

前編で登場したキツネのメイキングです。ここでも自動透過ツールがすっげぇ役に立ってる。はっきりわかんだね。