発表スケジュール(特別参加者による実践報告、研究発表、機関紹介)

日時: 2月26日(土)13:00-15:00(CET UTC+1)

テーマ: 中東欧の日本語教育に関わる、実践報告、研究発表、機関紹介

発表時間発表20分、質疑応答5分

使⽤⾔語︓ ⽇本語

流れ:

13:05-13:30 Session 1
13:35-14:00 Session 2
14:05-14:30 Session 3
14:35-15:00 Session 4


事前説明 13:00~13:05

【Session 1】 13:05~13:30

Room1

日本語母語話者と日本語非母語話者が対等に「日本語」で遊ぶ授業

ハンガリー

内川かずみ(エトヴェシュ・ロラーンド大学)

 日本人をゲストとして教室に呼ぶ「ビジター・セッション」や、地元のボランティアが参加する「地域の日本語教室」に関連して、近年では「日本語母語話者も日本語学習者と共に学ぶ」という立場に立った論考が増えている(池上2007、半原2008、桝田2015、松尾2015、内川2016)。元々、日本語学習の最終目的は「日本人のように話せるようになること」であるという考え方が一般的であったのが、そのような考え方から生まれる日本語母語話者・非母語話者の非対等性を認知・内省し、参加者全員が対等な関係であることを意識したクラス作りが進められるようになってきている。

 筆者は例年、3年生後期の授業として、日本語母語話者・非母語話者が共に日本語について再考する授業を行っている。テーマが日本語であるからには母語話者の方が圧倒的に有利に見えるが、あえて母語話者もあまり知らない問題や、体系的に日本語を学習した非母語話者の方が答えやすい問題等も問うことにより、非対等性を崩し、参加者がそれぞれ新たな視点から日本語を楽しむことを望んでいる。本発表ではその実践報告として、授業で扱った問題の例や参加者の感想を紹介する。

Room2

日本語教科書『DEKIRU』を用いた異文化間コミュニケーション教育の実践 🎦

ハンガリー

セーカーチ・アンナ(ブダペスト商科大学)

佐藤紀子(ブダペスト商科大学)

 2011年から2012年に出版された『DEKIRU1』及び『DEKIRU2』は、CEFRの基本理念である複言語・複文化主義に基づき、学習者の持つ複数の言語や文化の知識を活用しつつ、ハンガリー語という母語・母文化と日本語・日本文化を対照させ、突き合わせながら異文化間コミュニケーション能力と対話力を培っていくことを目指している。そのため、第1課から書記言語・口頭言語・非言語における社会文化能力・異文化能力を育成するための語用論的・社会言語学的知識が盛り込まれている他、Cando taskと名付けられた課題を通して、各課の学習が口頭及び筆記による産出「できる」につながるように編集されている。現在、本教科書はハンガリー人材省公認日本語教科書に唯一認定され、ハンガリーの大学だけでなく高校でも広く使用されるようになった。

 本発表では、本文中に盛り込まれた異文化間の違い、共通点などの社会文化的知識や異文化知識を言語運用力育成のために授業でどのように活かしていくかの一例としてメールと手紙の書き方を取り上げる。まずこのジャンルのテキストの『DEKIRU』における位置づけを踏まえた上で、日本語学習者が実際に作成したハンガリー語と日本語のメールを学習者の自己評価と共に分析する。その中で、異文化間コミュニケーション能力と言語運用力の重要性を確認し、それを伸ばすための効果的な授業の進め方や試験方法を提言したい。

Room3

ソフトパワーとしての日本語教育 🎦

ハンガリー

ヒダシ・ユディット(ブダペスト商科大学

 1960年代に赤松要が英語の論文で発表し、その後小島清によって精緻化された雁行形態論 (Akamatsu 1962; Kojima 2009)は、韓国、台湾、シンガポール、香港等のアジアの新興国にとって、日本が経済や商業の分野において模範となることを示すものだった。これらの国々は、20世紀末までに多かれ少なかれ日本が成功した道筋を辿りながら、効率的に成果を挙げ、日本に追いついた。私見では、この理論は文化外交を含む他の分野でも有効である。実際、日本の近隣諸国では、日本の数多くの制度化された慣行が導入されている。文化外交は、一種のソフトパワーであり、国民文化の数多くの要素を動員して行われる。例えば、
・芸術家:映画、舞踊、音楽、絵画などの作品の紹介
・展覧会:様々な分野の文化の普及
・教育・学術プログラム
・外国における文学活動や図書館の設立、人気の高い文学作品の外国語への翻訳
・ラジオ・テレビ・インターネットによる文化プログラムの放送

 本発表では、ヨーロッパの中でも特に東欧において日本語教育とその普及がどのように推移し、日本のソフトパワーの強化にどのように貢献したかを概観する。その中で、言語学習者の学習言語選択のストラテジーに見られる統合的動機付けと道具的動機付けという二項対立(Gardner & Lambert 1972; Dörnyei 2001)に着目し、それが日本語学習者数の変化とどう関連しているかを指摘したい。

【Session 13:35~14:00

Room1

オンラインによる大学間交流を通常の授業カリキュラムにどう組み入れるか ー2言語併用、CLIL(内容言語統合型学習)の試みー 🎦

ポーランド

瀬口利一(ニコラウス・コペルニクス大学)

 パンデミックの長期化でオンライン授業が日常化する中、学生の集中力をどう維持していけばいいのか日々、悩ましい。そこで学習意欲を引き出すための試みとして、日本の大学と連携、協働して双方の学生が環境問題やポップカルチャー等について発表、意見交換する交流授業を行った。企画、運営を学生に任せることで自主性、創意が発揮される反面、通常の授業カリキュラムの中にどのように組み込んで実施していくべきかなど様々な課題が浮かび上がってきた。①日本語を/で学ぼうとするポーランド人学生と英語を/で学ぼうとする日本人学生が混在するオンライン授業が成り立つのか②2言語併用が学習者の言語習得やコミュニケーションの取り方にどう影響するか⓷CLILの効果を上げるため教師側にどのような準備、工夫が求められるのかーなどについても検討、改良を加える必要がある。今後も試行錯誤しながら、オンラインの強みを生かした授業ができるよう心がけていきたい。

Room2

『わくわく・ぺらぺらー楽しみながら覚える日本語オノマトペー』のインターアクティブ・テキストのイン・ザ・メーキング中の教育価値の持つディスカバリーについて 🎦

ブルガリア

ジブコバ ステラ(ソフィア大学)

 本発表では,初級後半~中級後半の大学生の学習者を対象した日本語におけるオノマトペを教えるための先端的リソースの作成をたどります。視覚性と双方向性を好むZ世代の学生のニーズを満たす教材として完成を目指しています。現段階はまだイン・ザ・メーキング(作成中での)なので、いくつかの問題点を論じ、日本語に欠かせない描写・表現性高い擬音語・擬声語・擬容語・擬態語の効果的教授・習得法を探っています。


Room3

スロベニア人初級・中級・上級日本語学習者コーパスの作成と分析について 🎦

スロベニア

パウロヴィチ・ミハ(元気センター)

 現在、スロベニアのリュブリャーナ大学院アジア研究学科日本語専攻にて研究している『スロベニア人初級・中級・上級日本語学習者コーパス』を発表する。本研究では、スロベニアのリュブリャーナ大学で日本語を学習している学部生を対象に学部生の1年生を初級、2年生を中級、大学院生の2年生を上級に分けてデータを収集している。データとしては上記の学生が書いた作文を用いる。集めた作文をMSエクセルに書き写し、文法的誤りを記す。それから記した誤りをいくつかのカテゴリーに分別し、それぞれのカテゴリーの数字を出して最も多い誤用タイプを決める。以上の過程は初級・中級・上級、それぞれの段階別で行っている。その後、レベル別の分析結果を比較することで、学習者は日本語知識が増えて初級レベルから中級レベルになっても残ってしまう誤用タイプを明らかにする。なぜなら、日本語の知識が増えても残る誤用タイプは学習者の今後の日本語学習に大きく影響してくるだろうと考えているからである。現在のところ、初級・中級のデータは集めてあるが、上級のデータはまだ分析中である。そのため、本発表では、初級・中級の調査結果に焦点を当てて発表する。

【Session 14:05~14:30

Room1

教材の地域化実践報告とシラバス試案 🎦

クロアチア

松野直行(クロアチア日本語教師会)

 語学教育の地域化に関してはグローバルとローカルの観点からの対比の必要性や、日本語教育に関してもインドネシアにおける現地化などの実例が見られる。また現地の各教師も地域に密着した教材を考えていると思われる。

 非母語話者教師を想定した地域教材の検討にあたり、文法シラバスに基づくの日本語教科書の「旅行」の場面をベースに、コミュニケーションに焦点を当て会話内容を目的に合わせ地域化し、場面・機能シラバスを試作した。日本語・文化を学習するための既存教科書に加え、地域化された教材を合わせることによりグローバル(日本・言語)とローカル(地域・内容)を比較統合学習できるようなハイブリッド性を重視した。

 シラバスとしては、CdsをCEFR等から作成し、会話を現地の内容・目的に合わせ変更した。授業はA0からの大学生を対象にオンラインで実施し、文法教科書の定着と理解度の確認に加え地域化された場面での内容学習を行った。

 試作したシラバスのコンセプトであるハイブリッドに基づき実践したが、文法教科書の副教材として単体利用の他、内容(場面)を目的に合わせ変更することや、現地教師によるローカル教材としての中等教育での利用も考えられる。

Room2

ブカレスト大学の日本語教授法の授業における取り組み ―学生の作ったオリジナル教材 🎦

ルーマニア

ベアトリス・マリア・アレクサンドレスク(ブカレスト大学)

 本発表のテーマは「ブカレスト大学の日本語教授法の授業における取り組み ― 学生の作ったオリジナル教材」である。

 教室からオンラインへの移行は観点の変化である。言い換えれば、異なった視点からティーチングの要素を見る必要がある。発表者は日本語教授法の授業を担当している。この授業の目的は、教師になりたい学生たちにさまざまな教授法を提示することである。学生たちは後期の日本語教授法の授業に参加し、評価されるためにオリジナルワークシートと教案を含むポートフォリオを作成した。

 この発表では、2021年にブカレスト大学の二年生が作ったポートフォリオを分析対象とする。そのポートフォリオを作るために、学生たちは自分たちの視点を変えなければならなかった - 彼らはもはや学生ではなく、教師であった。この発表の目的はオリジナル教材の構成とレッスンプランとの関係を説明することである。そのために、教案に含まれる教授法、活動、レッスンの内容、レッスンの目的、必要な教材を検討して考慮する。さらに、オリジナル教材の構成(練習問題、画像、説明)に焦点を当てる。学生たちは視覚的要素とテキスト的要素を組み合わせ、よく構成されたオリジナル教材を作成した。分析の結果明らかになったのは教案にゲーム、歌、シャドウイングのテクニック、ペアワーク、ディスカッション、翻訳など、さまざまな教授法と練習が含まれているということである。それに加えて、その教材はオンライン授業とオフライン授業で使用できるオリジナル教材であるということがわかった。

Room3

日本語学習者によるアカデミックライティングのための使用語彙調査
漢語サ変動詞を対象として
🎦

スロベニア

守時なぎさ(リュブリャーナ大学)

 日本語非母語話者を対象にしたアカデミック・ライティングに関しては、近年数多く優れた教科書や教材が出版されている。このような教材を見ると、論文の構造、引用の表現、接続の表現に注目したものは数多くあるが、論文やレポートというレジスターで用いられる語彙や表現に関して論じた教材はまだ少なく、日本語学習者は、アカデミック・ライティングで使用する語彙や表現については体験的な学習の積み重ねや、辞書や類語辞典の丁寧な読み込みなど学習の方法は限られている。

 そこで本発表では、アカデミック・ライティング指導のための第一歩として、日本語学習者の漢語サ変動詞の使用実態に関する調査を行い、その傾向を明らかにする。対象とするのは、リュブリャーナ大学レポジトリで公開されている 日本研究専攻の学生による卒業論文・修士論文の日本語要旨で、そこで使用されている漢語サ変動詞の種類と頻度を調べる。そして、この日本語学習者による漢語サ変動詞の使用を推定日本語母語話者による使用と比較することにより、日本語学習者が必要とする語彙・表現の傾向を明らかにし、今後の指導のための第一歩とすることを目的とする。

【Session 14:35~15:00

Room1

翻訳授業での悩み 🎦

ハンガリー

若井誠二(カーロリ・ガーシュパール・カルビン派大学)

 発表者が担当する「一般翻訳技術Ⅲ」は、学生が卒業後にハンガリー語から日本語への技術翻訳を行うことを想定したコース設定を行っている。外国語から母語への翻訳と違い、母語から外国語に翻訳する際には、辞書などを利用して翻訳した文章が本当に正確な内容を伝えているのかを判断するのが難しい。このため「一般翻訳術Ⅲ」では、コーパスを利用した翻訳ルールの作成や、翻訳プログラムやGoogle検索テクニックを利用した翻訳自己校正方法を学んでいる。また、実際の翻訳作業を想定し、授業だけではなく試験においてもオフライン・オンラインリソース(授業資料・アプリ・サイト)の使用を可としている。ただ、ここ数年翻訳ツールの進化が著しく、授業活動やテストの採点の在り方に再考の必要に迫られている。本発表では、現在発表者が抱えている問題、今後の方針について説明を行い、参加者の方々にご助言いただきたいと考えている。

Room2

日本語をクリエイティブに教えてみました 🎦

スロバキア

マイェレホヴァー・アンナ(Banzai.sk)

 主に10代の若者に日々日本語を教える中で、よく「先生、日本語が難しい」と言われ、どうすれば、学生が難しいと思ったものも楽しく、丁寧に教えることができればのでしょうと、よく考えることがあります。そこで、ゲームやクリエイティブな活動が好きな私は、学生のアイデアを聞いて、一緒にいろいろな言葉のゲーム(楽しいクロスワード)、簡単なアプリ(ジャバスクリプトを使用)、絵を書くアクティビティなどを作って来ました。そのプロセスや学生のフィードバックは面白く、教師として期待しなかったことも起きます。教材またはゲームの作成アイデア、教師として得た経験を皆さんとシェアしたいと思います。キーワードはゲミフィケーション・間隔反復・色・絵・想像力・「五感を使用しましょう!」等です。

Room3

チェコ、マサリク大学の日本研究学科における日本語教育と教養の紹介 ー日本研究のための日本語教育 🎦

チェコ

ユラ・マテラ(マサリク大学)

 21世紀以降、世界の日本語教育界において「コミュニケーション」がキーワードになり、日本語教育の実践と展開にとって重要な動機付けとなったようだ(野田2005、2021等参照)。一方、中東欧における多くの教育機関においては、20世紀の文献学の伝統に倣い、日本語がコミュニケーションだけでなく、日本研究・日本学のツールとしても教えられてきたと言える。

 本発表では、チェコにおける日本研究専攻課程のある機関の例としてマサリク大学(MU)を挙げ、その日本語教育の現状を紹介する。まず、チェコの日本語教育機関におけるMUを位置付け、2018年の課程改新後の現状をそれ以前と比較しながら簡単に述べる。次に、当課程における「交流会」、「TAプログラム」と「日本語学サロン」の三つのプロジェクトを取り上げ、MUの特徴として紹介する。最後に、コロナのこの2年の遠隔教育の影響を考察するとともに、今後の発展と課題を述べる。

諸連絡 15:00~15:10