千葉県立幕張西高等学校(現幕張総合高校)音楽コース卒業。東京音楽大学、及び大学院作曲科修了。オーストラリア“The Third National Recorder Competition"にて《5 つの練習曲 Cinque studi》が第 1 位受賞。第 6 回日本現代音楽協会新人賞入選。大学院修了後バロック音楽に傾倒し、声楽を牧野正人氏に師事する。2006 年より渡伊。イタリア・ミラノ市立クラウディオ・アッバード音楽院古楽科にてルネッサンス・ポリフォニーをディエゴ・フラテッリ氏の下で学び、2009 年ミケランジェロ・グランチーニ(1605 年~1660 年)研究の論文及びコンサートをもって最高点・褒賞付きで修了。また、自らアンサンブル・グランチーニを結成し、その生演奏はイタリア公共放送”Rai Radio 3”にて放送された。2008 年《ドン・ジョバンニ》が初演されたプラハのエステート劇場にてモンテヴェルディ《オルフェオ》の牧人役でデビュー。その後、イタリアの主要な古楽グループと共演を重ねる。同時に指揮科にも在籍し、エミーリオ・ポマーリコ、レナート・リヴォルタ、杉山洋一の各氏に師事。
2012 年に帰国し、イタリア・バロック音楽を中心に演奏する古楽アンサンブル《エクス・ノーヴォ※》を立ち上げ、主宰及び指揮者として活動。そのオリジナリティー溢れるプログラミングと質の高い演奏は注目を集め、高い評価を得ている。NHK-E テレ《デザインあ》〈ガマンぎりぎりライン〉コーナーでは作曲を担当。エクス・ノーヴォが演奏を担当している。また、後期ルネッサンスから初期バロックにかけての音楽理論に精通し、当時の理論書からひもとく音楽理論セミナーを多数実施。千葉バッハ合唱団、合唱団フレンズ、成田フィルハーモニー管弦楽団指揮者。日本イタリア古楽協会会長。日本音楽学会、千葉市音楽協会、日本ヘンデル協会会員。洗足学園音楽大学非常勤講師。
※エクス・ノーヴォ ホームページ:https://exnovo.jp
2025新春特別インタビュー(インタビュー日 2025年1月5日)
Q:2013年に千葉バッハ合唱団の指揮者に就任されて12年がたちました。この12年間を振り返ってどのように感じていますか。
福島先生:12年前に創設者の伊藤博先生から受け継いだ時、先生からは好きなようにやってくれと言っていただきました。私としては、もし自分も年を重ねて音楽活動できなくなったら、次の指揮者へバトンをつないでいって、団体としては継続していくようなイメージで始めました。
当初はバッハのモテット《Jesu meine Freude》、《Komm, Jesu, komm》や、合唱が主体のカンタータを演奏しました。それもできる範囲で大体やり尽くしてしまって、次にゼレンカやアレッサンドロ・スカルラッティなどバッハ周辺の作曲家を取り上げるなど、ヨーロッパの宗教作品をずっと演奏してきました。
この間、合唱団のメンバーも緩やかに変化しましたが、2023年3月に行われた千葉市音楽協会主催の「春の訪れコンサート」をきっかけに新しいメンバーが増え、今は新しい段階に入ったという感じを抱いています。
Q:ここ数年はバッハ以外のプログラムが続きました。バッハの曲とその他の曲をやることで相乗効果もあるかと思いますが、その辺はいかがでしょうか。
福島先生:今まで演奏していないバッハの作品でプログラムを構成すると、やはりカンタータを取り上げることになりますが、カンタータを3つ4つ取り上げても合唱は歌うところが少ないので、年に1度しかない定期演奏会にしてはコンサートで椅子に座っている時間が長すぎます。既に合唱中心のカンタータは取り上げたので、《ロ短調ミサ》、《クリスマスオラトリオ》、《マタイ受難曲》、《ヨハネ受難曲》などの大曲も視野に入れ、何かの節目に挑戦できればと思います。その他の作曲家についてですが、合唱団のメンバーが楽しめる作品を常に探していて、その中で実現可能なものを自分の興味に照らし合わせながらピックアップしている感じですね。みんながコンサートで充実感を得られるようなプログラムを優先して、その中にバッハも含まれればいいと思っています。バッハは先人達の作品を写譜して学んでいたことが良く知られていますが、バッハより前の時代の様々な国の作曲家の作品に触れることは、バッハ演奏を豊かにしてくれますし、それ以上に、様々な音楽に触れることは現代の私たちしか持っていない特権でもあります。
Q:アマチュア合唱団はレベルや取り組み方など様々違うと思うのですが、千葉バッハ合唱団をどのような合唱団にしていきたいとお考えですか。
福島先生:地域を中心に、より専門的な知見を持った指導者の下、より深く音楽を知ることができる場として存在できればいいと思っています。ある程度開かれていて、興味を持った人全てが経験できる場であるべきですね。
Q:この合唱団で、将来的にやってみたい企画とか構想はお持ちでしょうか。
福島先生:お金はかかりますが、バッハだったら《ロ短調ミサ》と《クリスマスオラトリオ》。あとは《マタイ受難曲》《ヨハネ受難曲》も。ヘンデルのオラトリオ《エジプトのイスラエル人》もいいですね。3部構成なのですが、第1部だけ独立させて演奏会をできたらいいと。ヘンデルのオラトリオはバッハのカンタータと一緒で、ソロあり、合唱ありというものが多いのですが、《エジプトのイスラエル人》は合唱がメインなんです。合唱の人たちの重要なレパートリーで、贅沢な作品です。モンテヴェルディの《ヴェスプロ》も演奏できればいいですが、男声が重要で、人数がある程度必要です。ブクステフーデのカンタータ《Membra Jesu nostri》はソロも多いけれど合唱もたくさんあって素晴らしい曲です。時代は下りますがデュリュフレの《レクイエム》もやってみたいと思います。
Q:先生が声楽をやる上で重きを置いていらっしゃる要素は何でしょうか。団員に望むことは何でしょうか。
福島先生:私が勉強してきたイタリアのルネサンスやバロックの音楽ですが、当時歌っていたのは教会の聖歌隊です。ただ、その聖歌隊というのは合唱という概念とは少し違っています。いわゆるアマチュアの人たちが集まって歌うという概念がイタリアにはなかったんです。礼拝堂の聖歌隊員は一人一人教会と契約を結んでいる歌手なんです。合唱というよりは個々が歌うという感じ。もちろん、4声の曲を16人位で歌ったりするわけですが、一人一人が自分の技量を持ってきて、ぶつけ合うとか、重ね合うという感じ。だから自分の持っている声を抑えて、隣の人と一緒に薄く歌うということとはかけ離れています。ですから、この合唱団でも各自が自分の声で歌うことを理想としています。一貫して声の美学みたいなものは、やはりイタリアからのアイデアです。イタリア語は母音をつなげるから音が保たれ、ずっと音が鳴っていてそれをつないでいく感じです。その点が歌に向いているからイタリア語のオペラがヨーロッパに流布したのだと思います。
Q:就任当時と比べて、先生はエクス・ノーヴォの主宰とかイタリア古楽協会の会長就任など、活躍の場が広がっています。先生ご自身の今後の活動の目標についてお話しください。
福島先生:エクス・ノーヴォは2025年でモンテヴェルディの《宗教的・倫理的な森》全曲演奏会が終わり、一段落ですが、そろそろCDを出したいと思っています。また、個人的にはフェッラーリという作曲家の歌のCDも作りたいと思っています。あとは、1600年前後に音楽理論書がたくさん出版されたのですが、それらを解説したイタリア語の教本があって、その日本語訳出版というアイデアを温めています。その本を読めばヨーロッパの音大の古楽科で学ぶ基礎的なことが全部含まれているので、日本で古楽を学んでいる人や、留学前に日本語で学ぶことができると大きな助けになると思います。また、エクス・ノーヴォの海外公演、バロックオペラの上演などもやりたいですね。
Q:どうもありがとうございました。
指揮者就任時インタビュー(インタビュー日 2013年8月30日)
Q. 伊藤先生の跡を受けてバッハ合唱団の2代目指揮者となったお気持ちは
福島先生:やり甲斐のある仕事だと思っています。というのも、私が知る中では千葉で古楽器を使いながらバッハの作品を継続的に歌う団体は他に無いと思います。そして、その様な団体が千葉にも当然あるべきだと思いますし、その伊藤先生の意図を受け継ぎたいという思いが強いです。私は6年間イタリアで活動していたのですが、その間にイタリアの音楽はもちろんのこと、バッハの作品を歌う機会も非常に多かったのです。昨年、帰国しまして、これから日本でイタリアのバロック音楽を中心に演奏することにはなりますが、心の中ではバッハの作品にも常に触れていたいという気持ちもありましたので、喜んでお引き受けしました。
Q. どのような合唱団にしていきたいと思いますか
福島先生:出来れば20人から25人位の合唱団にしていきたいと思っています。あまり少ないと、それぞれにかかる負担が大きすぎますし、多すぎると、音楽に直接関わっているという感覚が希薄になってモチヴェーションを保つのが難しいと思います。千葉では、マタイ受難曲やロ短調ミサなどを大合唱団で歌う試みはされてきましたが、やはり質を求めるともっと小さな編成で演奏するべきでしょう。根底にはアンサンブルの感覚が絶えずあって、カンタータやモテット、コラールなどを通じて常にその感覚を鋭敏にしておく必要があると思います。
Q. 今後、どのような曲を取り上げていくことになりますか
福島先生:バッハに関しては、やはりカンタータやモテットを中心に据えていくでしょう。必要に応じてその他の宗教曲も演奏していくつもりです。また、バッハの他にもシュッツやブクステフーデ、私がイタリアで知ったアレッサンドロ・スカルラッティとドメニコ・スカルラッティの宗教曲も是非取り上げたいと思います。また、ルネッサンスの音楽を演奏することも合唱団にとっては非常に重要なトレーニングになるとおもいますので、パレストリーナやヴィクトリアなども取り上げていきたいです。
Q. 合唱あるいは声楽をやる上で、特に重きを置く要素は、また合唱団員に望むことは何でしょう?
福島先生:歌手というのは歌うことに喜びを感じています。それは、何年経っても変わりません。私は伊藤先生が20年前に起ち上げたモンテヴェルディ倶楽部というヴォーカル・アンサンブルで歌い始めたのですが、その当時、毎回の練習が待ち遠しかったのを覚えています。私は昔よりも声楽の勉強を重ね、歌というものが本当に難しいものであると痛感していますが、それでも、歌う喜びは全く消えません。歌は身体が楽器ですし、もし、喜びを感じられないようであれば、長続きしないでしょう。私は常に合唱団の方にも、その喜びを共有し大事にして欲しいと願っています。
発声については千差万別で、色々な人が色々なことを主張します。私としては、いかにシンプルにしゃべる声の延長で歌えるかどうか、ということがテーマです。毎回の練習時に発声練習を行います。
Q. 将来に渡って主だった活動の見通しや目標は何かありますか
福島先生:例えば5年に一回とかの周期で、クリスマス・オラトリオなどの大曲にもチャレンジしていくのもいいと思います。ブクステフーデの”Membra Jesu nostri”やモンテヴェルディの”Vespro”も候補に入るでしょう。
Q. 先生は歌手や古楽器奏者など他の音楽家の方たちとの交友も広く、数多く共演もしていらっしゃいます。そのご縁でいずれ私たちもそうした方々と接する機会があればと期待しています。
福島先生:そうですね。やはり優秀な音楽家と共演するのは非常に刺激にもなりますし、勉強にもなります。ですから、必要に応じて、素晴らしい音楽家を呼んで、共に音楽を作っていきたいと思います。