コロナの影響調査結果
2020年7月-8月に、「社会の変化に伴うペットと人の関係の調査」をGoogle Formによるアンケートを用いて実施しました。その結果をまとめた論文が、2023年7月にAnimalsという国際誌に「Effects of COVID-19 pandemic on behavioral tendencies of dogs and cats in Japan 」として掲載されましたので、結果の概要をお伝えいたします。オープンアクセスですので、どなたでも論文をご覧いただけます。ご協力くださった皆様、誠にありがとうございました。
背景・目的
2020年1月30日のCOVID-19のアウトブレイクは、世界中の人々に影響を与え、様々な問題をもたらしたました。日本では、2月27日に全国の小中高に臨時休校が要請され、多くのこどもが在宅するようになりました。4月7日から5月25日にかけて日本政府が発令した「緊急事態宣言」(内閣官房, 2020)による外出自粛の要請により、多くの会社も在宅勤務へシフトし、家に人のいる時間が長くなりました。このような環境の変化は、家で過ごすペットにも影響を与えたと考えられます。
そこで本研究では、COVID-19による社会の変化が、ペットと人の関係にどのような影響を与えたのかを、オンラインアンケートを通じて調べました。
研究手法・成果
Google Formsを用いたオンラインアンケートを作成し、SNSを通じて拡散しました。調査期間は2020年7月-8月で、有効回答数はネコ612件、イヌ577件でした。アンケートには、以下の項目が含まれていました。
アンケート回答者の基本情報(性別・年齢・家族構成・COVID-19によって生活形態が変化したかなど)
同居家族の基本情報
飼育しているペットの基本情報(性別・年齢・体重・品種など)
回答者の心理ストレス状況や運動量、運動機能
WHO-5 精神的健康の評価
International Physical Activity Questionnaires-Short Form(IPAQ)身体活動の評価
The Motor Fitness Scale(MFS) 運動機能の評価
ペットへのかかわり方が変化したか
触れ合う頻度
おやつをあげる頻度・・・など
ペットの行動 COVID-19前後(Fe-BARQ、C-BARQ)
結果
- 勤務形態の変化は、ペットへの接触頻度に変化をもたらしたのか?
「勤務形態が変化した群」と「変化しなかった群」、「在宅勤務をしている群」と「出勤している群」で比較をしました。さらに、より詳細に分析をするために、以下の4種類にも分類して比較をしました。
以前と変わらず出勤(出勤/変化なし 群)
出勤の頻度が下がった(出勤/変化あり 群)
以前と変わらず在宅勤務(在宅/変化なし 群)
在宅勤務に変更になった(在宅/変化あり 群)
【ネコの結果】
出勤している群よりも、在宅勤務している群のほうが接触頻度 増加↑
勤務形態に変化がなかった群よりも、変化があった群のほうが接触頻度 増加↑
【イヌの結果】
変わらず在宅勤務をしていた群・変わらず出勤していた群よりも、在宅勤務に変化した群・出勤頻度が下がった群のほうが接触頻度 増加↑
出勤頻度が下がった群よりも、在宅勤務に変更になった群のほうが接触頻度 増加↑
- 勤務形態の変化は、ペットの行動に変化をもたらしたのか?
【ネコの結果】
「注意をひく行動」
緊急事態宣言前から後にかけて増加↑
「訓練性」
変わらず在宅勤務をしていた群・出勤頻度が下がった群よりも、在宅勤務に変化した群のほうが低い↓
【イヌの結果】
「飼い主への攻撃性」
勤務形態が変化した群のほうが高い↑
「知らない人への攻撃性」
在宅勤務に変更になった群よりも、以前と変わらず在宅勤務をしていた群のほうが高い↑
変わらず在宅勤務をしていた群よりも、変わらず出勤していた群の方が高い↑
「イヌへの攻撃性/恐れ」
在宅勤務に変わった群・出勤頻度が下がった群・変わらず出社していた群よりも、変わらず在宅していた群のほうが高い↑
「親しいイヌへの攻撃性」
生活が変化した群(飼い主がより家にいるようになった群)のほうが高い↑
「知らない人への恐怖」
在宅勤務に変化した群・出勤頻度が下がった群・以前と変わらず出勤していた群よりも、以前と変わらず在宅勤務をしていた群のほうが高い↑
「接触に対する敏感性」
生活が変化した群のほうが高い↑
「エネルギー」
以前と変わらず在宅勤務をしていた群よりも、在宅勤務に変更になった群のほうが高い↑
変わらず在宅勤務をしていた群よりも、出勤頻度が下がった群のほうが高い↑
※ただし、ほとんどの項目でCOVID-19前後では変化がない点に注意が必要です。
- ペットへの接触の変化と、ペットの行動に関連性はあったのか?
緊急事態宣言によりペットへの接触頻度が「増加した群」と「変化なし/減少した群」の2群に分けて、ペットの行動の変化との関連性を分析しました。
【ネコの結果】
「活動性」
接触頻度が変化なし/減少した群のほうが高い↑
「注意をひく行動」
接触頻度が変化なし/減少した群のほうが高い↑
緊急事態宣言前から後にかけて増加↑
「新奇物への恐怖」「過剰な自己グルーミング」「その他の強迫行為」「薄明薄暮の活動性」
接触頻度が増加した群のほうが高い↑
【イヌの結果】
「飼い主への攻撃性」「親しいイヌへの攻撃性」「物体への恐怖」「接触に対する敏感性」「愛着/注意をひく行動」「エネルギー」
接触頻度が増加した群のほうが高い↑
- 飼い主のメンタルヘルスと、ペットの行動に関連性はあったのか?
【ネコの結果】
「飼い主に対する攻撃性」「イヌに対する攻撃性」「分離に関連した行動」
飼い主のメンタルヘルスが低いほうが高い↑
【イヌの結果】
「訓練性」
飼い主のメンタルヘルスが高いほうが高い↑
「物体への恐怖」「接触に対する敏感性」「分離に関連した行動」「興奮性」
飼い主のメンタルヘルスが低いほうが高い↑
※ただし、全ての項目でCOVID-19前後では変化がない点に注意が必要です。
まとめ
COVID-19により社会の在り方が変化し、様々な場面での影響がみられました。
在宅勤務により家の滞在時間が増えることで、ペットへの接触も増えた人が多いことがわかりました。
一方で、普段よりもペットに対して多く接触することは、ネコ・イヌ両種にとってストレスになり得ることが示されました。
【ネコの結果】
COVID-19の流行以前よりも、ネコから飼い主側への働きかけが増えた可能性が示唆されました。
この増加は接触頻度が変わらない/減少した群で多くなりました。これは、飼い主がネコをかまわない方が、ネコが自らコミュニケーションを取りにくる、ということを示唆しているのかもしれません。
飼い主のメンタルヘルスが良好なほど、不安やイヌに対する攻撃行動が少ない可能性が示唆されました。
【イヌの結果】
勤務形態の変化により、イヌの攻撃性や不安などの行動が増加した可能性が示唆されました。
飼い主のメンタルヘルスが良好なほど、人の指示が通るようになり、不安行動が減少することが示唆されました。
本研究の限界点と今後の展望
事前登録などを行っていない探索的な研究であり、結果が信頼できるのかは追試が必要です。
2020年7月-8月時点にアンケートの収集を行い、その時点で回顧的に過去のペットの行動を回答してもらっています。その点で、過去のペットの行動が正確に測定できていない可能性があります。
書誌情報
Takagi S, Koyasu H, Hattori M, Nagasawa T, Maejima M, Nagasawa M, Kikusui T, Saito A. Effects of the COVID-19 Pandemic on the Behavioural Tendencies of Cats and Dogs in Japan. Animals. 2023; 13(13):2217. https://doi.org/10.3390/ani13132217
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campnyantokyo[@]gmail.com まで。