Avogadro 1.x の選択機能には、
・メニューバーの「選択メニュー」
・ツールアイコンの「選択ツール(Selection Tool)」(黒い矢印ボタン)
の2系統があります。
多くのデスクトップアプリでは、メニューの機能をツールバーでも表現していて、これらの機能は同じということが多いのですが、Avogadroではそれぞれ別のタスクを行います。
まず、使用頻度が高いと思われる、ツールアイコンの「選択ツール(Selection Tool)」の方から説明をします。
ツールアイコンから「選択ツール(Selection Tool)」の黒矢印アイコンを選択すると、左下のサブウィンドウが「Selection Settings」に変わります。
ビューでは、ソースコード付属のtestfilesから、1CRN.pdbを表示しています。
クランビン(Crambin)という、アビシニアンキャベツ( Abyssinian cabbage )の種子に含まれる46アミノ酸、327原子の小さなたんぱく質です。X線回折実験ではよく用いられるそうです。
ちなみに、クランビンのFASTAシーケンスは「TTCCPSIVARSNFNVCRLPGTPEAICATYTGCIIIPGATCPGDYAN」です。
選択ツールの、基本のマウス操作ですが、
・左クリック・・・原子や結合の選択
・コントロールキーを押しながらの左クリック・・・複数の選択
・分子以外を右クリック・・・選択解除
・分子上を左ボタンでダブルクリック・・・分子全体を選択
となります。
また、選択モードには「Atom/Bond」「Residue」「分子」の3種類があります。
選択モードが「Atom/Bond」の場合、原子(ボール)や結合(スティック)を左クリックすることで、選択できます。
わかりづらいのでビューを拡大しましたが、ボールの上を1回クリックして、炭素原子を1個選択した状態です。
このように、選択された原子は、水色の水玉のようなものに覆われて表示されます。
また、左マウスボタンをドラッグして四角選択をすることで、四角の領域内の原子や結合を一度に選択することもできます。
選択を解除するには、ビューの中の何もない部分を右クリックするか、またはメニュー「選択(Select)」→「選択解除(Select None)」を選びます。
選択モードが「Residue」の場合、たんぱく質内の1個の原子を左クリックするだけで、それを含むアミノ酸単位(残基、residue)を選択できます。
DNA/RNAの場合、原子1個のクリックで、それを含むヌクレオチド単位を選択します。
選択モードが「分子(Molecule)」の場合は、原子を1個選択しただけで、分子全体を選択できます。
「Add Center of Atoms」ボタンを押すと、全原子位置の平均の位置に、小さな灰色ボールが出現します。
この例はエタノールの例です。(testfilesにあるethanol.cmlです)
「ビルド」メニュー→「Cartesian Editor...(カルテシアンエディタ)」で見ると、Xxという名前の原子が追加されたように見えます。
「Add Center of Mass」ボタンでも、同じように「重心」の位置に名前「Xx」のボールが出現します。
次に「選択メニュー」の説明をします。
上から順に。
分子全体を選択します。
「選択ツール」で分子上をダブルクリックしたり、「選択モード」を「分子」にして任意の原子を選択した場合と同じです。
選択を解除します。
選択中の原子/結合を選択解除し、選択されていない原子/結合を選択します。
SMARTSパターンで選択します。
たとえば、[a]で芳香族を選択、[A]で脂肪族を選択、などです。
下のように[a,A]ならば、「芳香族または脂肪族」なので、これまた「すべてを選択」と同じです。
「周期表」が現れるので、元素を選択すると、その元素のみが選択状態になります。
以下は、1CRN(クランビン)で酸素を選択した状態です。赤色の酸素原子が、水色の選択状態になっています。
たんぱく質中のアミノ酸を「大文字の三文字表記」で選択します。
以下は、1CRN(クランビン)中のILE(イソロイシン)を選択した場合です。
これはPDBファイル中の水を選択します。「溶媒」とはありますが、できるのはこれだけです。
次の例は、Protein Data Bankからの7ARF.pdbです。
「ネットワークフェッチ機能を使って分子構造を取得する」で登場した「7K3T.pdb」と同じく、またも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のメインプロテイネースですが、前回と違って水が除かれていません(またチオグルコースが結合しています)。
「溶媒」を選択すると・・・
うーん、ちょっと微妙ですが、一部に水色に選択されている水分子があるのがわかるでしょうか。(赤色の酸素原子が水色になっている)
選択した状態を保存できます。
下の例は、エタノール(testfiles/etanol.cml)の酸素を選択した状態を、「O」という名前で保存している例です。
ところで・・・
この「名前付き選択の追加」ですが、「追加」はできても、「呼び出す」ことが、どうもできないようなのです。
そこで次の「おまけ」を準備しました。
Windows版のAvogadro 1.2 0nだけに追加できる機能となります。
(ソースコードも付けましたので、ソースからビルドができる方であれば、Mac、Linuxでも追加できますが・・・)
a 下のダウンロードボタンから、「Avo120n_restore_named_selection.zip」をダウンロードし、zipを展開します。
b インストール済みのAvogadro 1.2.0nの「selectextension.dll」を無効化します。
方法はなんでもいいですが、ここでは拡張子を変更します。ただし、selectextension.dllのファイルの削除は危険ですから、おすすめしません。
install_dir\Avogadro
├─ bin
├─ include
├─ lib
| └─ Avogadro
| └─ 1_2
| ├─ cmake
| ├─ colors
| ├─ engines
| ├─ extensions
| | ├─animationextension.dll
| | :
| | ├─selectextension.dll → selectextension.dll.org など
| | :
| |
| ├─ tools
| └─ cmake
└─ share
c 展開したzipファイルにあるselectextension.dllをその代わりにコピーします。
lib\avogadro\1_2\extensionsフォルダが次のようになっていればインストール完了です。
インストール後、Avogadroを再起動すると、「選択」メニューの中に「Restore Named Selection...」が追加されています。
例はエタノールです。末端の炭素を選択した状態をC1という名前で保存します。
次に酸素を選択した状態を「O」という名前で選択します。
「Add Named Selection...」メニューを選ぶとダイアログが現れ、「C1」と「O」が保存されていることがわかります。
いずれかを選択して「OK」ボタンを押すことで、選択状態を呼び出すことができます。
選択状態を保存と言ってきましたが、実際はファイルに保存されるわけではありません。
Avogadroを終了すると「名前付き選択」も破棄されます。
ただし、「閉じる」ボタンなどで分子を閉じても、「名前付き選択」は残っています。
↓Avo120n_restore_named_selection.zipのダウンロード