北国に到着して数日たった。いくら準備を整えていたとはいえ、俺たちは北国の実態を全く知らなかった。つまりはというと、ピンチである。
ルルト「さ、ささささむいいい・・・・・・」
フレイン「し、死ぬっ・・・・寒くて死ぬっ・・・・・」
クラン「確かに、この寒さはまずいな・・・・非常にまずい。凍死しそうだ」
正直、北国の寒さをなめていた。端的に言うと死にそうだ。ヤバい。
クラン「はやく街を見つけよう。ちゃんと防寒具を揃えないとマジで死ぬ」
ルルト「ささささんせーい・・・・」
フレイン「あ、なんだか眠く・・・・・」
クラン「寝るな、フレイン!寝たら死ぬぞ!」
ルルト「おきろーっ!」バチバチバチッ
クラン「おっと、魔結界っと」
フレイン「きゃあっ!」ビリビリビリッ
クラン「ほら、フレイン。親切な不死鳥がくれたこの宝石をもっておくんだ」
フレイン「うう、ふたりともありがとう・・・・それと親切な不死鳥さん・・・・」
とても親切な不死鳥のおかげで、俺たちはなんとか凍死せずに住んでいる。これの効果が結構凄くて、持っている者だけじゃなく周囲にもわりと温かさが広がってくれる。ん?ということは・・・・
クラン「ファイアフォース!」
ルルト「おおっ?」
フレイン「あら?」
クラン「なるほど、最初からこうしておけばよかった」
炎属性の身体強化魔法をかけて、寒さを防ぐ。この使い方は考えたことが無かったな、なんせ今まで本当に身体強化意外に使ったことが無かったから。サーナさんの屋敷は年中快適だから、こんなことを考える必要が無かった。
ルルト「これでもう大丈夫だね!防寒具とかもういらない!」
クラン「いや、そうはいかないさ。身体強化の魔法は使っている間ずっと魔力を消費し続ける。俺の魔力が無くなったらこの効果は切れる上に俺が動けなくなる」
フレイン「つまり、今の私たちの生命線はクランの魔力ってわけね。なら余計に速く行かないと」
ルルト「うー、楽できると思ったのに・・・・あれ、この魔法の範囲ってどれくらいだっけ?」
クラン「半径10mくらいかな」
ルルト「ちぇっ、思ったより広いや」
なぜそこで残念そうにするんだ。
フレイン「私は足が遅くてはぐれると危ないからぴったりくっついていくわね」
クラン「動きにくいからやめてくれ」
ルルト「じゃあ僕は速く行きすぎるといけないからね!」
両腕を取られてしまった。ものすごく歩きにくいが、おかげで温かいので我慢しよう。
ルルト「街だーーー!!!やーーっとついたーーー!!!」
フレイン「ああ、やっと暖かい部屋で眠れるのね!」
2人のはしゃぎようがすごいな。それも当然か、なんせ丸二日魔法を使い続けて俺の魔力はほとんど限界。最後の方は二人に引っ張ってもらってたどり着いたからな。ということで
クラン「宿は、まかせ、た・・・・・」
ルルト「わーっ!クランー!」
フレイン「寒っ!寒いわ!はやく、早く宿を!町に着いたのに全員凍え死ぬとか勘弁よ!!!」
騒いでる暇があったら早く行ってくれ。こっちはマジで限界なんだ。ていうか二人もファイアフォースぐらい使えるようになってくれ・・・・。
なんとか宿を見つけた俺たちは、すぐに部屋を貸してもらうことになった。
宿屋の主人「あんたたち、よくそんな装備でここまでこれたね。普通なら凍え死んじまうよ」
ルルト「実際死にそうでした」
クラン「あと1時間到着するのが遅かったら・・・・」
フレイン「正直舐めてました」
宿屋の主人「素直でよろしい。部屋で待ってな、すぐに温かいスープを持っていくから」
本当に願ったりかなったりだ。この人には感謝しないと。俺が死にそうなのを見てすぐに部屋を手配してくれたのだから。暖炉のおかげで部屋中が暖かいのもあり、生き返る思いだ。
クラン「じゃあ、お言葉に甘えて部屋に行こうか」
ルルト「はーい」
フレイン「そうね」
そういえば、教会に泊まっていた時はルルトやフレインとは別部屋だったのをふと思い出した。テトラからうら若き男女が同じ部屋で寝るなどうんぬんかんぬん言われたが、正直ピンとくるところがなかった。
俺にとっては生まれた時から村を出るまでは姉さんと同じ部屋、同じベッドで。アリスやテトラ自身とも一緒に寝ていたし、サーナさんの屋敷でもルルトやサーナさんといつも一緒に寝ていた。もはや一人で寝るという行為自体に違和感を感じるほどだ。
しかしながら、テトラがああいうには何か理由があるのだと思う。ルルトにはよく女心がわかっていないとも言われるし、俺は『男女』というものに視点を向けなければいけないのかもしれない。しかしなぁ・・・・
クラン(どうしても男だ女だというものがよくわからない。ルルトは結構気にしてるみたいだけど、同じ環境で育ったというのにどうしてこうなったのだろうか)
ルルト「うーん、この部屋広いんだけど、ベッドが1つしかないのが・・・・」
フレイン「しかもご丁寧にキングサイズのベッドね。いったい何をしろって言うのかしら」
ルルト「まあ、ベッド一つしかないし、今から部屋を変えてもらうのもあれだし、同じベッドで寝るのは仕方ない、よね?ね?」
クラン「うん?まあそうだな」
室内とはいえ、やはりいくらかは寒い。肌を寄せ合えばマシになるだろうから、そちらの方がいいだろう。
フレイン(んー、やっぱりそういうのには疎いみたいね。ま、私はそっちの方がやりやすいからいいけど)
ルルト(クランと同じベッド・・・ど、ドキドキしてきた・・・・・えっと、最後に一緒に寝たのが4年前だから・・・・)ドキドキ
宿で一日休んだ翌日、店主に案内してもらって装備を整えることにした。防寒具というものは俺たちが思っていたよりもがっしりとしていて、非常に動きづらい。
ルルト「うー、これじゃあんまりスピードが出せないよー」
フレイン「この気温の中ツルは出したくないわね・・・・あの天使が襲ってこないことを祈りましょう」
クラン「うーん、吹雪が起こった時の事とかを考えると、この辺りも買っておいた方がいいんだろうか」
今の時期はブリザードは起こらないと聞くが、非常用に一つは持っておいた方がいいかもしれない。それと、食料も多めに買っておこう。
ルルト「そういえば、いつごろここを出るの?」
クラン「あと2,3日は留まろうと思ってるよ。姉さんの居場所までの道も詳しく聞いておきたいし」
フレイン「そうね、今の内に私も栄養を蓄えておこうかしら」
ルルト「そっか。じゃあ僕はなにしてようかな」
今のところは俺が行きたいところに向かっている旅とはいえ、このふたりは、とくにルルトは基本的になにもしてくれない。ふたりとも料理はてんでダメだし、その他の整理なんかも苦手だ。情報を集めたりだとかも俺がやっているし、なにかできそうなことを割り振れたらいいのだが。
クラン(なんせ街に着くたびに暇だ暇だとぼやいているからな)
ルルトにもできそうな簡単な仕事・・・・なんだろうか?まあそのうち考えておくことにしよう。
ルルト(うー、クランと旅を始めてしばらくたつけど・・・・・)
一向に関係が進まない。普通若い男女が一緒に旅をしていたら何かしら途中であるものだと思うんだけどな。僕自身もちょっとはそういうことを期待してついてきてるわけだし。
ルルト(クランもクランだよ。すぐそばにこんな魅力的な女の子がいるっていうのに、なにもしてこないんだもん)
おまけに途中で変な女もついてくるし。ここは早めに手を打っておくべきじゃないんだろうか。
ルルト(でも、やっぱりそういうのって男の人からしてもらいたいよね)
そんなことを考え続けて早5年ぐらい。一向に進展する様子がないのが実際のところなんだけれど。
ルルト(・・・もしかして、クランって僕に興味が無いの?)
ふと、自分の女としての魅力はなんなのかと考えてみる。僕の理想の女性像はサーナさんだ。物腰柔らかで、行動力があり、武も学も身に着けていて、包容力があって・・・・。
それと比較してみると、物腰は・・・・結構人に突っかかったりしてるし、行動力・・・・はあるよね?勉強は苦手だけど戦闘は得意だし、包容力・・・・・
ルルト(・・・・胸だ。圧倒的に胸が足りない!)
この胸が薄いのは、種族の関係上しかたのないことだ。昔から鳥型の魔物って言うのは空気の抵抗を受けにくくするためになめらかな流線型のボディになるようにしていた。そしてその血が受け継がれている僕の身体は、同じく凹凸が少なく流線型の風を受け流しやすい構造になっている。
ルルト(でもでも、今まで見てきた中で一番胸が大きかったのってサーナさんだよね。だから、割と平均的なんじゃないのかな?)
フレインも結構な子供体形だし、あのテトラっていうヴァルキリーもそこまで大きいわけじゃなかった。ファイスは僕と同じ鳥型の魔物だから言わずもがなだ。教会のシスターの中にはおっきい子もいたけど・・・・。
ルルト「はあ、胸がほしいな・・・・・」
フレイン「・・・・・・」
ルルト「うわっ!?ふ、フレイン、いつからそこに?」
フレイン「今戻ってきたところよ。随分悩んでたみたいだけど、もしかして胸の事?」
ルルト「まあ、そうなる、かな」
フレインはクランが絡まなければなんだかんだいい友人だと思う。喧嘩はよくするが、けっしてウマが合わないわけじゃない。初めての同性の友人だから接し方がわからないというのもお互い様みたいで、お互いに距離感を探りながら話をしている感じが多い。
フレイン「あなたも私も、誰がどう見ても平らだものね」
ルルト「た、平ら言うな!」
フレイン「ま、嘆いてどうにかなることじゃないし。まずはお互いに・・・・」
フレイン「女としてのスキルを磨かないといけないわよね。料理とか」
ルルト「そうなんだよなぁ」
こういった話題で盛り上がれるのも、実はちょっと楽しかったりする。そういえば、クランには男友達はいるのだろうか。そういった話は一切聞いたことないので、もしかしたら女の子の知り合いしかいない可能性が出て来た。
ルルト(もしかして、それが原因のひとつなのかも・・・・?)
あくまでも推測の域を出ないが、そうだとしたらクランの意識を改革するには骨が折れそうだ。
ルルト(だけどま、当分はこのままでいいよね。旅はまだまだ続くんだし)
今はこの関係を楽しんでいよう。友達とも、恋人とも言い難いこの関係。今はまだ、この関係が心地よいのだから。