熾天使ワグラエルの襲撃を受けてから、1日たったころ。俺たちは未だに教会にお世話になっていた。
クラン「・・・・なあ、テトラ。そろそろここを出たいんだけど・・・・・」
テトラ「いいや、まだダメだ。まだ近くに潜んでいる可能性がある。向こうから撤退したとはいえ、余力はまだまだ残しているように見えた」
テトラとファイスの手も借り、俺たちは熾天使ワグラエルを退けた。・・・・いや、退いてくれたというべきか。
ワグラエル『あ~、いいね~、強いね~。このままじゃやられちゃいそうだし、退散退散~』
ワグラエルの行動はどうにも不可解なことが多い。俺たちを殺しに来ているはずなのに、殺す気が無いように見える。俺たちを痛めつけるわけでもなく、ある程度戦闘をこなしたら去っていった。あのとき出された聖法も、おそらく直撃したとしても死ぬほどのものではなかったはずだ。
クラン「・・・・あの天使様はいったい何を考えているんだろうな」
テトラ「さあな。ファイスのことも知っていたようだし、基本的に頭の固い天界の住民としては異質に見える」
クラン「え、そうなの?」
テトラ「知っての通り、私はヴァルキリーだ。母の里帰りについていったことも何度かある。天界はすごいぞ。まったく面白味が無いからな」
そんなことを言われると逆に興味が湧いてきたな。一度行ってみたいとは思うのだが、まあまだまだ先の話だろう。
ルルト「クーラーンー!ひーまー!」
クラン「知ってる」
フレイン「そんなことわかりきってるじゃないの」
ルルト「むー、2人はいつまで武器選びしてるのさー」
先の戦闘に関して、テトラに言われたことがある。『どうして俺たちは武器を使わないのか』だ。ワグラエルには魔法が効きづらく、体術も向こうの方が上だ。ならば、戦いの手段として武器を使えば戦力差が縮まるかもしれない。なぜその発想に至らなかったのかはわからないが、今はこうやって自分の手になじむ武器を探させてもらっている。
クラン「しっかし、やっぱりしっくりこないな。昔は槍術とか剣術の訓練をした気がするけど、今じゃ全然だ」
結構真面目に取り組んだはずなのだが、いかんせん空白期間が長かった。このまま武器を使っても振り回されるのがオチだろう。
フレイン「私も、そもそも刃物に触ったことすらなかったわね。現状使えそうなのがツルの先につけられる針ぐらいかしら」
ルルト「僕はもうこのまま素手でいくしさー、慣れないもの使うぐらいならそっちの方がいいって」
たしかにそうではあるのだが、それだとやはりこのままな気がする。人間である以上、俺の身体能力は魔物や天使を超えることはない。だから、今までに培ってきた体術が廃れずに、自分の戦闘スタイルとも合い、なおかつ手になじむ武器。そんな理想的なものがあればいいのだが―
ファイス「みなさん、お疲れ様です。果物を持ってきたのでよければ一度休憩にしませんか?」
クラン「ん?ああ、ありがとう。そうしようかな」
ファイス「それじゃあ剥いちゃいますね」
するするとリンゴの皮をむいていくファイスの手つきは慣れたものだ。聞くところによると、彼女は攻撃の魔法や聖法を一切使うことができない代わりに、治療や防御に特化しているらしい。ルルトとは真逆で、汎用的な俺とも違うタイプだ。完全なサポート型、いっそそれくらい振り切れたらいいのだが。
だから、というわけではないだろうが、彼女はルルトやフレインと違って家事雑事を何でもこなす。教会の者として必須なスキルではあるのだろうが、それでもその手つきは普段戦闘というものから無縁な生活を感じさせられる。世が世なら配偶者としての引く手はあまただろう。まあ、俺もあれぐらいならできなくはないが・・・・ん?
クラン「ファイス。そのナイフ、ちょっと貸してもらっていい?」
ファイス「え?いいですけど、どうぞ?」
―――これだ。これが、俺が求めていた物。バスケットの中の果物を一つ手に取り、軽く切り分ける。ああ、そうだ。これは、よく手になじんでるじゃないか。サーナさんのもとで7年間、ずっと使ってきたじゃないか。
クラン「これだ・・・・これが欲しかったんだ!」
ファイス「え、そんなに果物ナイフが欲しかったんですか?」
ルルト「あれ?今まで使ってたのは?荷物に入ってるよね?」
フレイン「そう言う話じゃないと思うわよ」
ナイフ―俺が使うべき武器は、これだ。
ナイフとの相性は思ったよりもよかった。近接戦闘で使えるのはもちろんのこと、ルルトのおかげで雷の魔法はあるていど得意だからそれを纏わせやすいというのも利点だ。それに―
クラン「グラビティ・インフィニティ」
引力によってナイフを確実に狙った相手に当てることができる。近接だけでなく投擲武器としても使用可能だ。これならば―
クラン「戦い方を研究すれば、あの天使相手にも対抗できるようになるかもしれない!」
そうして、俺はテトラに戦闘用の投げナイフを大量に調達してもらった。通常のナイフだと重心が安定せず、魔法を使っても刃の部分が相手に当たりにくかった。なので、刃の先に重心を置き、仮にまっすぐ手を離したらそのまま刃先が地面に刺さるようにしたものを用意してもらった。正直、至れり尽くせりだ。なぜそこまでしてくれるのかと聞いてみたが、
テトラ「はっはっは!これで貴様の命が守れるのなら安いものだ!」
と言われたのでありがたく受け取ることにした。これも、彼女なりの罪滅ぼしなのかもしれない。
こうして新たな武器を手に入れた俺たちは、別れを惜しみつつも教会を発った。
テトラ「はっはっは!またなにかあれば、いつでも訪ねてこい!私はいつでもここにいるぞ!」
ファイス「皆様に、神のご加護を・・・・というのはおかしいかもしれませんが、せめて道中の無事は祈らせてください」
ルルト「テトラも、ファイスも、ふたりともありがとう!また会いに来るからね!」
フレイン「お世話になったわ。また、会いましょう」
クラン「それじゃあ、行ってくるよ。またな!」
テトラ「ああ、まただ!」
ファイス「はい!また会いましょう!」
最後まで見送ってくれた2人を背に、俺たちは歩き出す。目指すはさらに北方の教会。俺の姉、スワン=ソフライムの元だ。
さて、旅がなにごともなく続くというわけもなく、俺たちはまた新たな厄介に遭遇していた。
フレア「燃える炎のフェニックス!フレア!」
カレア「白く輝くカラドリウス、カレア」
フレア「我ら、不死鳥旅団!参上!」
ルルト「いや、2人だけじゃん」
フレイン「恥ずかしくないの?」
フレア「うるさーい!人数が少ないのはわかってる!これから増やすんだ!」
クラン「そうか、がんばってくれ。それじゃ」
ルルト「ばいばーい」
カレア「さようならー」
フレア「おう!じゃあなーっ!・・・・ってちがーう!カレア!お前も送り出すな!」
このお笑いコンビは、不死鳥旅団というグループだそうだ。今のところは彼女たちふたりだけがメンバーで、同じく不死鳥の一員であるルルトを勧誘しに来たらしい。どこから噂を聞いてきたのやら。
フレア「おい、そこのお前!あたしと勝負しろ!」
クラン「だってさ」
カレア「え、私ですか?」
フレア「違う!そっちの男だ!ていうかカレアはこっちにもどってこい!」
クラン「なんだ、俺か」
フレア「そうだよ!わかってただろ!いいか、あたしが勝ったらそっちのサンダーバードはあたしたちの仲間だ!」
クラン「じゃあこっちが勝ったら全財産もらうからね」
フレア「え」
フレイン「全財産だから身に着けているものも含めて全部よ」
フレア「ちょっと」
ルルト「まあこっちは魔物一人かけさせられるわけだし、それ相応のものは必要だよね」
フレア「それは」
カレア「フレアちゃん、世の中は等価交換なんだよ。だから諦めて全裸になろ?あ、私は関係ないので脱ぎませんよ」
フレア「なんであたしが負ける前提なんだよ!てか、全裸はだめだ!え、まさかお前そういう趣味なのか?変態ロリコン?」
クラン「俺が欲しいのはお前の財産だけだ」
ルルト「わー、すがすがしいほどのクズっぷりー」
フレイン「そういうゲスなところも嫌いじゃないわ。むしろ好きよ。結婚して」
ルルト「それはない」
フレア「だー、もー!話が進まないだろ!しょうがねえな、あたしが負けたらこれをやるよ!」
そういって、目の前のアホはスカートの中から大きな宝石を取り出す。
クラン「え、臭そうだしいらないです」
フレア「臭くねーよ!」
カレア「そうですよ!フレアちゃんはこうみえて毎日水浴びも溶岩浴びもしてるし、フェニックスだから全身を燃やして体を綺麗にできるんですからね!」
フレア「そこじゃねーよ!」
ルルト「え、だってスカートのなかから出したでしょ?じゃあそれしまうところなんか下着のなかぐらいしかないでしょ?」
フレア「ちーがーいーまーすー!これは腹に直接くくりつけてあったんですー!服の構造上スカートの下からしかこの場で取れなかったんですー!」
フレイン「で、それはなんなの?」
フレア「ふっふっふ、聞いて驚け!この宝石はなんと、『フェニックスの魂』だ!」
フレイン「いや、知らないわね」
ルルト「聞いたこともないね」
フレア「なんだとっ!?」
カレア「やっぱりフェニックスってマイナーな魔物なんじゃない?」
フレア「えっ、そ、そうなのか?あたしたちって実は全然有名じゃないのか?」
クラン「フェニックスの魂・・・・本で読んだことがある。たしか、魔物の中には自身の魔力を結晶に変える種族がいると。フェニックスのような高位の魔物は、魔力によって大きな宝石を作り出し、それを信頼できるパートナーに渡す、と」
ルルト「へーっ。じゃあ僕も作れるのかな?」
フレア「さあ?これあたしも母ちゃんからもらったやつだし」
クラン「それぞれの宝石は、魔力を通すだけで強力な魔法が放たれるという。例えばウンディーネの宝石は魔力を通すだけであたり一面に洪水をおこすほどだとか」
フレア「え、これそんなにヤバい奴だったのか・・・・?」
フレイン「どうして持ってる本人が知らないのよ」
フレア「いや、いままでただデカくてきれいなだけの宝石だとしか思ってなくて」
やっぱりこいつアホなんだなってつくづく思う。自信満々で取り出したものの価値がわかってないとか。だが、あれは正直ほしいな・・・・。ここはひとつ吹っ掛けてみるか。
クラン「さて、まあなんだ。俺たちとしては・・・いや、俺としてはルルトを連れて行かれるのは大変不本意だ。そもそもそっちからいきなり吹っ掛けてきたことだしな」
フレア「む、まあそうだろうな」
クラン「そこで、だ。勝負の内容に関してはこっちに決めさせてもらえないか?いきなり勝負をしかけられて、内容もそっちが決めてあるって言うのはあまりにも不公平だと思うんだ」
フレア「そうだな。あたしも確かに理不尽なのは好きじゃない。いいだろう、ここは団長としての貫禄を見せつけてやろうじゃないか!」
カレア(フレアちゃん、また墓穴掘ってる・・・・)
クラン「よし、その言葉に嘘偽りはないな?」
フレア「おうともさ!」
クラン「じゃあ身長勝負な。大きい方が勝ち」
フレア「・・・・・・は?」
クラン「ん、聞こえなかったか?」
フレア「いやいやいや!それは勝負って言わないだろ!あたし絶対勝てないだろ!不公平だろ!」
クラン「よし、じゃあ演説勝負にしよう。俺たち二人が演説をして、どちらの方がよかったかあの三人に聞くんだ」
フレア「むむ、ならいいのか、な?」
カレア(フレアちゃん、3人中2人は男の人の仲間だよ)
フレア「よし、それでいい!やるぞ!」
やっぱりこいつアホだ。
さて、当然のことながら結果はというと、
フレア「な、なんで負けたんだ!ちくしょー!」
クラン「いや、そりゃそうだろ」
ルルト「そもそも僕も行く気ないんだからクランにつくのは当然じゃん」
フレイン「あの天使がいつ襲って来るのかわからないのに、戦力が下がるのは勘弁よ」
まあそういうことで俺たちの勝利、なのだが・・・・
カレア「ごめんね、フレアちゃん。やっぱりフレアちゃんの話って中身が無いから面白くなくて」
意外なことにむこうの仲間さんも俺の方に一票を投じてくれた。3-0で完勝だ。
フレア「確かに、確かにこいつの話は面白かったけど!あたしもちょっぴり胸を打たれたからな!」
しばらく遊んでみて思ったのが、この子はまあ悪い子ではないのだと思う。バカなだけで。
クラン「そういうわけだ。全財産かフェニックスの魂を渡してもらおうか」
フレア「ああ!負けは負けだ!持ってけ!ちゃんと持ってろよ!そのうち取り返しに来るからな、クラン!」
クラン「あれ、俺名乗ったっけ?」
フレア「ルルトがさっき呼んでただろ」
ルルト「そういえばそうだね」
フレア「よし、カレア。いくぞ!修行し直しだ!」
カレア「演説の修行?」
フレア「そうだ!」
カレア「はーい。それじゃあ、お騒がせしました」
フレア「首を洗って待ってろよー!」
こうして、不死鳥旅団(笑)はどこかへ飛び去って行った。また会うことになりそうだが、今度はどうやって返り討ちにしようか。
フレアの方は頭が回らないというよりは単純なだけ。カレアの方はその様子をみて楽しんでいた。おそらく、もともと仲良し二人組だったのが友達を増やそうとしてああいう形になっているのだろう。だったら次来た時もしっかり遊んでやらないとな。
とはいえ、貴重なものが思いがけず手に入ったのだ。以後、ありがたく使わせてもらおう。そろそろ気温も下がってくるころだ。じんわり暖かいこの宝石は、持っているだけでも役に立ってくれそうだ。