テトラ「さて、改めて久しぶりだな、クラン。そしてはじめまして、クランの友人たちよ。クランから聞いているかもしれいないが、私はテトラという者だ」
テトラと再会してすぐに、俺たちはテトラたちのいる教会へと移動した。そこで空き室を借りれることになったので、宿の心配もすることなく今は客間で改めて自己紹介をしているところだ。
ファイス「では私も、改めましてハルシオンのファイス・セイクリッドです。この教会に勤めて5年になります」
ルルト「僕はルルト・サンダーバードだよ。名前の通りサンダーバードさ。クランとは7年ぐらいの付き合いかな?『ずっと同じ家に住んでた』からね!」
テトラ「そうなのか?後でその話も聞かせてほしい」
フレイン「私はフレイン・アルラーネよ。彼に一目ぼれして無理矢理ついてきたの」
テトラ「随分と正直だな。そういうのは嫌いじゃない」
クラン「クラン=ソフライムだ。テトラと同じ村の出身で、ルルトと同じくサーナ・アクリヴィアの元で育ててもらった」
テトラ「ああ、知っている。アクリヴィア卿から少し前に聞いたばかりだ。大きくなったな、クラン」
つまり、サーナさんがここを訪れたということか?行先は伝えてなかったはずだけれど、読まれていたか。まあ、それも当然と言えば当然な話なのだが。
テトラ「積もる話はあるのだが、貴方たちは長旅で疲れているだろう。ファイスも含め、一度部屋で休んでくるといい。何か用事があれば敷地内の者に『ヴァイス女史を呼んでくれ』と頼めばすぐに向かう」
クラン「わかった。ありがとう、テトラ」
テトラ「あと、言っておくがここは一応神聖な場所なのでな。貴方達の関係を追及はしないが、部屋は分けさせてもらっている」
フレイン「ふふ、心配しなくてもまだそういう関係じゃないわ」
ルルト「僕はキスしたけどね!」
なんだろう、ルルトがすごく対抗心をむき出しにしている気がする。何に対抗しているのかはわからないが、やけにテトラにつっかかっているようなそんな気がする。
テトラ「ほう、そうか。いやはや、クランも見ないうちに随分と成長しているものだな」
対抗心を向けられている当の本人は全く気にしていないようだが。
それにしても、俺ばかり成長したとか大きくなったとか言われるが、彼女自身もかなり雰囲気が変わっているように思える。よく聞いていた高笑いもしなくなったし、口調もどこか丁寧だ。昔は意識していなかった上品さというものが目に見えてわかるようになった感じだ。
クラン「俺も変わったけど、向こうも変わったってことなんだろうな」
ファイスや他のシスターもそうなのだが、教会で過ごしている人間というのはどこか落ち着いているように見える。何人かと話をしてみたが、全員に穏やかさというかそういったものを感じた。
クラン「いや、穏やかというよりはぶれないって感じか。どこか心根の強さみたいなものがあるな」
信じる者は救われるとは言うが、彼女たちには絶対的に信じていられる存在があるのだろう。それが神であり、彼女たちがぶれない理由なのではないだろうか。それも行き過ぎれば毒となるが、今の彼女たちを見ているとその心配はないだろう。
クラン「なんて、あったばかりの人間が考えることでもないか」
正直、信教者にあまりいい思い出はない。だが、こういった形で人の心の支えとして存在するのであれば、悪くないのかもしれないな。
などと物思いにふけっていると、誰かが部屋を訪ねて来た。ノックに対して入っていいと伝え、相手が入ってくるのを待つ。部屋に入ってきたのは幼馴染であるテトラだった。
テトラ「すまないな、休んでいるところを」
クラン「いや、いいよ。俺はもう十分休んだし」
昔から体力はある方だから、あまり疲れていないというのもある。ルルトと一緒に遊ぶといつもルルトが先にへばっていた。サーナさんも俺の相手をするのは骨が折れるといっていたから、魔人としての体力は相当なのだろう。
テトラ「さて、何から話そうか。いろいろと話したいことはあるのだが、うまくまとまらなくてな」
クラン「はは、そうだな。俺の方も話したいことがたくさんあってここに来たはずなのに、何から話したらいいのかわからないや」
テトラ「お互いに、離れていた期間が長かったからな。・・・・そうだな、お前がいなくなってからのことを話してみようか」
テトラ「クランが捕らえられ、そしていなくなったあの日。知っての通りスワンは出立の日だった」
テトラ「いつまでたっても現れないスワンを心配して私が様子を見に行ったら、そこにいたのは茫然自失としたあいつの姿だったよ」
テトラ「お前の姿も見当たらなかったし、私はスワンに何が起こったのか聞いたのだ。そしたらアイツはこう答えた」
スワン『悪魔がクランを連れ去っていってしまった。私は悪魔の術にやられ、金縛りにあっていた』
テトラ「・・・・そういうスワンの手には、大きな剣が握られていたよ。いきなりその悪魔とやらに襲われたのなら、あんなものを持っている方がおかしい」
テトラ「私は問い詰めた。そうしたらヤツはその剣を持っている理由はなんだ。どうしてクランが連れ去られたのか、と」
テトラ「剣を持っていた理由は、浄化を命じられたからだと言っていた。そして、それを命じたのは私の父だった」
テトラ「スワンは、こっそりお前を逃がすつもりだったそうだ。いくら神父の命だとはいえ、血を分けた弟を殺せはしないと」
テトラ「あの剣で縄を切ろうとしたときに、あいつのいう悪魔・・・・・アクリヴィア卿が現れたそうだ」
そうだったのか。それが本当かどうかは確かめようがないが、もし本当だとしたら先に話してくれてもよかったと思う。あの状況を見たらだれだって殺されかけてると思うだろうし、俺だってそう思った。
テトラ「その後、スワンはバチカンまで行って、修行を積み、今は聖地巡礼をこなしているところだ。今頃は北方の国にいるだろう」
クラン「ここよりさらに北か・・・・さぞかし寒いんだろうな」
テトラ「ああ、だろうな。私自身は行ったことないが、北方からの旅人に話を聞いたことがある。なんでも、時期によっては一日中太陽が沈まないくせに吹雪が止まない日もあるそうだ」
クラン「白夜、か。いいね、それ。ちょっと見てみたい」
テトラ「気になるなら行ってみるといい。今のお前は自由の身なんだろう?」
クラン「まあね。よし、次の行先が決まった。ここからさらに北にある聖地へ向かって、姉さんに会う」
そして、あの日の真意を問いただす。あのまま別れたのは向こうとしても納得のいかない結果になっているはずだ。だからこそ、俺は姉さんに会い、彼女と直接話をする。
テトラの話が一通り終わった後、今度は俺の話をすることになった。サーナさんに連れて行ってもらったこと。大きな屋敷、ルルトという少女、契約、旅立ち、熾天使との戦い、フレインとの出会い。離れていた7年間の話を思いつく限り話した。
クラン「あ、そうだ。一つ聞きたいことがあったんだ」
テトラ「ん、なんだ?」
クラン「あのとき村を追われ、新天地へ旅立っていった俺たちのもう一人の幼馴染―アリスのことだ」
クラン「アリスが、フレデリアの家がどこへ向かったとか、その辺りを知らないか?」
テトラ「ああ、もちろん知っているとも。スワンが村を去り、私が一人で過ごしていたころにヤツからの手紙が届いた。いや、正確には手紙を見つけたといった方が正しいか」
クラン「見つけた?」
テトラ「ああ。よく共に遊んでいた水場があるだろう。あそこに埋められていた手紙があってな、どうやらフレデリア卿は遥か東の、黄金の国『ジパング』。そこへ向かうと書いてあった」
クラン「ジパング・・・・ああ、確か読んだことがある。東方見聞録だったかな」
今よりおおよそ300年前の本ではあるが、あの本を読んだ当時の俺はものすごくワクワクしていた記憶がある。こうやって旅に出てるのも、もしかしたらそれに影響されている節があるのかもしれないな。
テトラ「陸路で向かうとしたらシルクロードを通っても1年以上かかる旅路だ。行くにせよ行かないにせよ、準備はしっかり整えておくんだ」
クラン「もちろんだよ」
アリス・・・・今は16歳になっている頃か。姉さんに会って、それから向かうとなると今の俺と同い年くらいにはなってそうだな。フレデリア夫人はものすごく美人な人だったから、アリスもおそらく相応な姿に成長しているだろう。はたしてその時に俺が見つけることができるのかという問題が起きるな。対処についても考えておかないと。
さて、この教会に来て1週間ほど、ルルトやフレインは教会の人たちとかなり仲良くなったようだ。詳しくは聞いていないからわからないが、シスターたちがルルトが話すところに興味津々に集まり、ルルトの話にフレインが訂正を入れていくという光景がよくみられる。なんだかんだで相性はよさそうだ。俺は俺でテトラやファイスと話をしていたり、旅の支度を整えたりなど忙しかったが、楽しい時間だった。
路銀に関しては当分は困りそうにないので問題ないとは思うのだが、これからさらに北に行くにあたって防寒を考える必要がある。もちろん魔法で体を温めたりすることは可能だが、天使や聖人に見つからないようにするためにも極力魔法の使用は避けたいのだ。そう思い、ルルトやフレインを外に誘い出しては防寒具を揃えているのだが・・・・なぜだか片方を誘うたびにシスターたちから歓声が上がる。修道女というものはよくわからないな。
クラン「よし、これで大丈夫かな」
ルルト「うんうん、問題ないと思うよ。まあ何かあったらまた買い足すなりすればいいし」
フレイン「ここよりさらに寒いところに行くなんて・・・・」
ルルト「嫌なら巣に帰ってもいいんだよ?なんせ勝手についてきてるだけなんだから」
フレイン「お断りよ。たとえ地の果てだろうが魔界だろうが天界だろうがついていってみせるんだから」
クラン「それじゃあ、名残惜しいけどそろそろここを出ようか」
ルルト「だね。早く行かないと足がくすぶっちゃうよ」
フレイン「あら、あなたも嫌ならここにいていいのよ?」
ルルト「誰も嫌なんか言ってないだろ!」
ワグラエル「ちなみに、どこに行くの~?」
クラン「ここより北の聖地、姉さんがいる場所までいくつもりだよ」
ルルト「聖地って魔物が行っても大丈夫なところなのかな?こう、いきなりダメージ受けたりしない?」
ワグラエル「聖地って言っても空気中の聖力の含有率が高いだけだしちょこっと魔法が撃ちにくくなる程度だよ~」
フレイン「へぇ、そうなのね。・・・・・・誰?」
クラン「っ!お、お前は!」
ワグラエル「うわ、気付くのおそ~い。どもども~、こんなところでこんにちは~。魔人様の心の恋人、熾天使ワグラエルちゃんで~す」
フレイン「なっ、こ、こいつが!?」
やられた。完全に虚をつかれた。向こうは天使なんだから、教会に出入りしても全くおかしくない存在だ。だからこそ、細心の注意を払うべきだったのに!
クラン「・・・・なあ、ここでおっぱじめるつもりか?さすがの俺も借り部屋を荒らすのは気が引けるんだがな」
せめて広い場所で、戦いやすい場所に誘導できないか試してみる。相手も物分かりのいい天使だ、了承してくれるとは思うが・・・・
ワグラエル「ん?あ~、そうだね~。それじゃあみんなでワープワープ~」
ルルト「はっ?」
フレイン「えっ?」
パン、と彼女が手をたたいた瞬間、俺たちは街の外へと移動させられていた。転送だなんて高度な聖法を使うとは、さすが熾天使といったところか。
ワグラエル「それじゃ、前回と同じくおすきなところからかかってきなよ~」
フレイン「随分と余裕なのね」
ワグラエル「そりゃもう相手が格下ですからね~。えっと、魔人が一人に雷鳥が一人、植物が一人。うん、余裕余裕~」
フレイン「その余裕がいつまで持つか見ものだわ!アーススパイク!」
ルルト「雷脚!」
クラン「インサイド!」
フレインとルルトが真正面から攻撃をしかけ、俺は相手を重力で引き寄せる。これで双方向からの力が加わって威力も上昇する、のだが
ワグラエル「エンジェルラダー~」
ルルト「ぐぅっ!?」
クラン「ルルト!」
向こうの強烈な一撃でフレインの魔法も、ルルトも吹き飛ばされてしまった。そして間髪入れずに向こうは攻撃を仕掛けてくる。
ワグラエル「オーバーレイ~」
フレイン「ヴァインネット!」
クラン「ダーク!」
細い光の針のようなものが高速で飛ばされる。光を相殺するには闇が効果的だから、俺は闇魔法を展開し威力を弱める。フレインは自らのツルを網目のように張り、攻撃を受け止めている。
ワグラエル「あれれ~、大丈夫~?そのツルって手足みたいなもんだからそんなにボロボロだとすっごい痛いんじゃない~?
フレイン「心配、され、なくても!ドリュアス・ルート!」
フレインの個別魔法『ドリュアス・ルート』。土がある場所ならばどこでも自らを回復できる魔法だ。ボロボロだったツルもすぐに全快し、態勢を整える。
ワグラエル「おお~。んじゃ、これはどう防ぐのかな~?アースクラッシュ~」
そう唱えた瞬間、突如地面がはじけ飛ぶ。あまりに突然の、大規模な攻撃に俺もフレインもまともに食らうかと思われたが―
ルルト「おっとっと、僕を忘れてもらっちゃ困るね。あの一撃程度で動けなくなるほど柔じゃないよ!」
ルルトが魔法の範囲外に避難させてくれたおかげでどうにか回避できた。
ワグラエル「それじゃあ、アクアソニック~」
クラン「アースウォール!」
相手の攻撃が水属性であったので、相性のいい土属性で攻撃を防ぐ。魔法や聖法に関する知識はもともとある程度蓄えてある。だから、それを実戦で生かすにはこうやって実践して覚えていくしかない。
ワグラエル「おお~、よく防いだね~。魔法の展開も速いし、雷鳥ちゃんはスピードで、植物ちゃんは耐久で、魔人様は器用って感じかな~。ふーむ、なるほどなるほど~」
ワグラエル「じゃ、これはどうやって防ぐ?」
瞬間、相手の聖力が大きく高まるのを感じた。集中しなくても見えるその力は、六枚の羽に集中していく。白く大きな翼が、神々しく輝き始めると同時に、俺たちはすぐに行動を開始した。
クラン「ダークボール・拡散!」
ルルト「サンダーフォース!」
フレイン「グランド・リベレイト!」
少しでも相手の攻撃を弱め、即座に避けられるように。これが、今俺たちの出来る最善策だったはずだ。
ワグラエル「ルミナス・フラックス~」
その瞬間放たれた光の束は、ルルトが避けられないほど広範囲に、フレインが魔法を使っても耐え切れないほどの威力を持ち、俺がいくら知識を探ろうとも対処しきれないほどの圧倒的で理不尽な力だった。
ダメだ、やられる。そう思った刹那の事だった。
「魔結界!」
「堅固聖壁の法!」
ワグラエル「あれあれ~?」
テトラ「ぐうっ・・・・・これが、熾天使の力・・・・中々の、威力だ・・・・」
ファイス「くっ・・・・オールヒール」
俺たちの目の前には、教会にいるはずのテトラとファイスが俺たちを守るように・・・・いや、守って立っていた。
クラン「テトラ!?それにファイスも・・・・」
ルルト「えっ、えっ?な、なんで・・・・・きょ、教会の人たちが天使に敵対するなんて、そんなのいいの!?」
ファイス「ええ。だってあなた方は私の恩人ですから。罪もなき恩人が殺されそうになっているのを見捨てるなど、神に仕えるものとしてありえません」
ワグラエル「ん~、君は確か、魔物なのにシスターやってる子だっけ~?ちゃんと品行方正にしてるから見逃してたけど~、これはちょっと見逃せなくなるよ~?」
フレイン「そ、そうよ!ファイス、あなたは、天使と敵対なんかしたら・・・・」
ファイス「ええ、構いませんとも。ルルトさんも、フレインさんも、クランさんも。私の恩人であり、友人なのです。友を愛せずして隣人を愛せるものですか!」
テトラ「クラン。かつての私は、臆病で卑怯者だった」
クラン「なにを・・・・」
テトラ「あのとき、アリスがあの村を救ったあの日、私はアリスを逃がすことができたのだ。アリスが磔にされているときも、お前にだけ罪を背負わせるようなやり方をせずとも私が自ら縄を解くことができたのだ」
テトラ「だが、私はしなかった。救うだのなんだの言っておきながら、結局自分の身が可愛いだけだったのだ。お前たちからも、他の者からも恨まれないようなやり方を探して、私はお前を、お前たちを捨てた。己が汚れないようにお前たちを汚れものにした」
クラン「でも、テトラがいたから、アリスは・・・・・」
テトラ「決して私を許してくれるな。私は己のために友を差し出し、のうのうと生きた卑怯者だ。お前たち姉弟を別れさせた大罪人だ。だから、どうか罪滅ぼしをさせてくれ。誰よりも罪にまみれたこの身をもって、生涯をかけて贖罪をさせてくれ」
ワグラエル「ふ~ん。そっちの戦乙女ちゃんも~?」
テトラ「ああ。すでに罪に染まりきった身だ。今更堕ちることなど心配しないさ」
テトラ「我が名はテトラ=ヴァイス!神に仕えるヴァルキリーにして、神聖ローマ帝国第15教会を束ねる者!」
テトラ「教会に住まう私の家族には、何人たりとも手を出させはしない!」
そう言い放ち、右手に持ったパルチザンを掲げる。ああ、わかったさ。お前がそう言うなら俺は決して許しはしない。お前の罪滅ぼしが終わるまで、俺はお前を許さない。だから、お前が自分自身を許せるようになるまでは―
クラン「そこまで言うなら、やってもらおうじゃないか。テトラ、まずは目の前の相手を退けるぞ!」
テトラ「ハッハッハ!お安い御用だ!」
ファイス「攻撃は苦手ですが、回復は得意です!傷はすぐに癒します!」
ルルト「さて、反撃開始だ!なりふりかまわずぶっ飛ばしてやる!」
フレイン「ここまでやられて黙って引き下がれるものですか!」
絶対に死ぬんじゃねえぞ、テトラ。