フレインがついてくるようになり、森を抜けだしてから5日ほどたった。現在、大変な問題に直面している。
クラン「路銀が尽きた」
ルルト「えっ?」
フレイン「?」
クラン「サーナさんからもらった路銀がすっからかんだ。どうしよう」
ルルト「そんな!じゃあこれから宿とかはどうなるの!?」
フレイン「野宿でいいんじゃないの?」
ルルト「やっぱり基本的にはベッドで寝たいよ」
フレイン「ふーん。わがままなのね」
クラン「まあとにかく、宿や食事以外でもお金は使うんだ。どこかで稼ぐ必要があるね」
ルルト「稼ぐって言ったって、ねぇ」
フレイン「私は森から出たことないからそのあたりに関しては詳しくないわよ?」
クラン「まあ期待はしてなかったけど」
ルルト「それで、どうするの?もう無一文で旅するの?それともなんとかしてお金を稼ぐの?」
クラン「それをどうしようか考えているんだ・・・・まあ急ぐ旅でもないし、じっくり稼いでもいいと思うけど・・・・」
どちらにせよ、今は大きな町からは遠い所にいる状態だ。こんな道のど真ん中で考えていても仕方ない。とりあえず進むしかないか。
などと考えていた矢先、ふいにフレインが何かに反応する。
フレイン「・・・・だれかが待ち伏せしているわね。あなたたち、誰かに恨みを買うようなことしてるの?」
ルルト「え、もしかしてあの天使だったり?」
クラン「いや、それはないだろう。一回しかあってないけど、あの天使が来るなら正面から堂々と来るはずだ」
フレイン「1,2,3,4・・・5人ね。5人があのあたりに隠れている」
クラン「となると、盗賊だろうか?こんな道端で複数人で旅人を襲うとなるとそれくらいしか思い当たらないな」
ルルト「んー、じゃあどうする?」
クラン「相手は盗賊・・・・となると、お金を貯めこんでいても不思議じゃないな」
フレイン「あら、渡りに船ね」
ルルト「いただいちゃおうか」
クラン「んじゃ、作戦を伝えるから聞いてくれ。まずは―」
クラン「やあやあやあ、そこのお方たち。そんなところに隠れて何をするつもりなんだい?」
まず、相手のアジトの情報を引き出さないといけない。あわよくば案内してもらいたい。ってことでとりあえずフレンドリーに話しかけてみることにした。いや、目的は別なんだけど。
盗賊A「ちっ、バレてちゃしょうがねぇな」
盗賊B「おい、お前ら。有り金と金目のもの全部おいていけ。そうすりゃ命だけは助けてやらんでもないぞ」
ルルト「そうは言われても、僕たちすかんぴんなんだよ。ほら、お金ももう残ってないし」
わざとらしくルルトが小袋を振るう。金が無いのは本当なので、これは演技でも何でもない。
フレイン「見ての通り荷物と言っても数日分の食料しかないわ。これがお金になるかどうかはわからないけど」
盗賊C「ちっ、使えねぇやつらだ。だが、あんななりでも一応女だ。売れば金になるだろう」
ルルト「むっ」
フレイン「こんななりで悪かったわね」
二人とも女性らしい体つきではないから、そこを指摘されると多少イラつくようだ。屋敷にいたころは俺もルルトに怒られたことがある。サーナさんにもそこは怒られた。
盗賊D「そういうこった。男の方だけは助けてやるよ」
盗賊E「痛い目見たくなかったら抵抗するんじゃねえぞ」
クラン「よし、ここまで来たらもう正当防衛だ。ルルト、フレイン。やるぞ」
ルルト「オッケーイ」
フレイン「恨むのなら自分たちを恨みなさいよ」
盗賊連中を魔法でさくっと片付けた後、とりあえずみぐるみをはがしてみる。しかしながら・・・・
クラン「うーん、大したもの持ってないんだな、お前ら」
ルルト「拍子抜けだよ。もうちょっと腕が立つかと思ったのにー」
フレイン「ま、旅人を襲う輩なんてこの程度でしょ」
相手が悪かったな、盗賊共。お前たちが相手にしたのは普通の人間が到底かなうはずもない魔物と魔人だったんだよ。
盗賊A「わ、悪かった!俺たちが悪かったから、い、命だけは!」
クラン「ふーん。じゃ、有り金全部くれよ。そうしたら助けてやらんでもないな」
盗賊A「お、俺がそんな金持ってるように見えるか?なっ、なっ?」
クラン「集団で行動、しかも待ち伏せしてたってことは近くにアジトがあるってことだよな。そこまで連れていけ」
ルルト「あっ、逃げようとしても無駄だよ。僕より速く動ける自信があるならやってみたらいいさ」
盗賊A「ひぃっ!わ、わかりました!連れて行きます、連れて行きますから!」
フレイン「ふふ、ちなみに嘘をついていたらすぐに絞め殺すから。人間と違って植物は素直なのよ」
盗賊A(ダメだ、もう逃げられねぇ・・・・・お頭、許してください・・・・)
盗賊の案内をうけつつしばらく歩き、たどり着いたのは洞窟のような場所。どうやらここを根城にしてあくどいことをしているようだ。
クラン「んじゃ、宝物庫まで案内よろしく」
盗賊A「む、無理です!そんなことしたらお頭から殺されちまいます!」
ルルト「んー、どうする?」
クラン「じゃあそのお頭ってやつに聞いてみるか。ってことでそこまでね」
フレイン「洞窟ね・・・・土の魔法が上下左右どこからでもつかえる素敵な場所だわ」
そうしてさらに案内を受けて、途中わざと別の場所に行こうとした盗賊の腕を一本折ってようやく噂のお頭の元へたどり着いた。
お頭「んん?なんだぁ、テメェら。なにもんだ?」
クラン「俺たちは彼含む盗賊たちに襲われそうになった者だ」
ルルト「あと僕らは売り飛ばされそうになったね」
フレイン「殺されそうにもなったわね」
お頭「おい、ふざけてんのか?ここがどこか知って―」
話が長くなりそうなのでとりあえず両足を折る。こっちはさっさと金が欲しいんだ。無駄話に付き合ってる暇はない。
ルルト「まあ僕たちちょっと旅の途中にお金が無くなっちゃってさー。ちょーっとだけ分けてもらえたらなーって思ってて」
フレイン「次は右腕?それとも左腕?指を一本一本でもいいわね」
お頭「わ、わかった!わかったから!好きなだけ持っていってくれ!だからもうやめてくれぇ!」
クラン「と、お墨付きをもらったところで案内してくれるかな?」
盗賊A「悪魔だ・・・・こいつら、悪魔にちがいない・・・・」
お前たちがやってきたことも悪魔と変わりない所業だろうに。まあ奪う側から奪われる側になってこれからは行動を慎んでくれたらいいんじゃないかって思う。
そうして盗賊たちが持っていた金貨や銀貨を手に入れ、ついでに売られる予定だった人たちも解放して外に出た。その中の一人に、あきらかに修道女の格好をしている人がいたので、テトラについて何か知っていないか聞いてみることにした。
修道女「助けていただいてありがとうございます。あなた方の助けが無ければ、どうなっていたことか・・・・」
ルルト「いやいや、こっちも別に人助けするつもりで入ったわけじゃなかったし、そんなお礼を言われるようなことでもないよ」
フレイン「そうそう。いろいろとたんまり手に入ったからお礼とかされても持ちきれないだろうし」
修道女「まぁ、なんと謙虚な方たちなんでしょう。主よ、彼らの往く道にご加護を・・・・」
ルルト(ほんとのこと言ってるだけなんだよなぁ)
フレイン(むしろ神様が見てたらぶち切れそうな案件なのよねぇ)
クラン「えっと、ちょっといいかな?聞きたいことがあるんだけど」
修道女「はい、なんでしょう」
クラン「テトラっていう娘がいる教会を知らないか?テトラ=ヴァイスっていう緑色の髪をした女性を探しているんだけれど」
修道女「テトラ・・・・ええ、もちろん知っていますよ。なんせ私、テトラと同じ教会に住んでいますから」
ルルト「おっ?」
クラン「おお!」
正直、あまり期待はしていなかったけどこれは嬉しい。そうと決まれば早速案内してもらおう。
修道女「申し遅れました、私はファイスと申します。道中よろしくお願いしますね」
ルルト「よろしくねー」
フレイン「よろしく」
クラン「案内を引き受けてくれてありがとう」
ファイス「いえ、助けてもらった御恩もありますし。ふふ、それにしても、テトラって結構有名なんですね。私、びっくりしちゃいました」
クラン「うん?有名ってどういうこと?」
ファイス「1年ほど前でしょうか、あなたたちのようにテトラを訪ねて来た人達がいたんですよ」
ルルト「へぇ。それって、もしかしてクランが言ってたアリスって子じゃないの?」
フレイン「案外全く関係ない人だったりね。本当に有名人なのかも」
クラン「んー、どうだろう。どんな人たちだった?名前とかは覚えてる?」
ファイス「はい、もちろんですよ。だって、訪ねて来た人もすごく有名な方でしたから」
ファイス「彼女は」
ファイス「聖人・スワン=ソフライム。生まれた時より聖人として過ごし、聖地へ赴く前に魔女を故郷から追い払ったという功績もある聖人様です」
なんだって?聖人スワン?故郷から魔女を追い払った?おいおいおい、姉さん。随分と立派な功績を残しているじゃないか。
ルルト「クラン・・・・」
クラン「・・・・その聖人様は、家族について何か話してたりしなかったか?」
ファイス「ええ。といっても、私も詳しくは聞いていないのですが、どうやらバチカンへと発つ当日に弟さんを誘拐されたとのことで、聖地巡礼と並行して各地で探しているとのことです」
ファイス「なんでも、その弟さんは魔女によって操られていて、浄化を実行する直前に突然現れた悪魔に連れ去られてしまったとか」
クラン「くっくっく・・・・あっはっはっは!」
なんだよそれ、笑えるじゃねえか。随分と都合よく話が伝わってるみたいだな、おい。まるで聖人様が悪魔にさらわれた弟を助けようとして旅をしているみたいに聞こえるじゃないか。
ファイス「えっ?えっ?私、なにかおかしなこと言いましたか?」
クラン「いや、わるいな・・・くくく、君は悪くないんだ。ただ、おかしくってさ」
フレイン「私もピンと来ていないんだけれど、どういうことなの?」
クラン「ふふ、そういえばしっかりと名乗ってなかったな。改めて名乗らせていただこう」
クラン「俺はクラン=ソフライム。聖人スワンの実の弟にして魔女に操られ、悪魔にさらわれたって噂の人間だよ」
それを聞くとファイスはきょとんとして、次第に目を丸くしていった。そりゃそうだ。聖人様が探していた相手が、自分の目の前にいるんだからな。しかも聖人様の弟の話をたっぷりとした相手がその本人だったってオチだ。そりゃあ誰でも驚くだろう。
ファイス「まあ!まあまあまあ!そうだったんですね!申し訳ありません、長々とあなた自身のことを・・・・」
クラン「いやなに、面白かったからいいさ。それで、どうする?」
ファイス「どうする、とは?」
クラン「目の前には魔女に操られ、悪魔にさらわれて育てられた男がいるんだ。シスターならこのあとどうするかぐらいわかってるんじゃないか?」
ルルト「クラン、それは・・・・」
神を信仰している者にとって、俺みたいなやつは速やかに浄化しないといけない対象のはずだ。たとえ相手が恩人であろうともそれは変わらない。まあ、なにもせずやられるつもりはないがな。
ファイス「・・・・ふふ、おかしな人。何も言わないければ、それで済んだのに。どうして、そんなことをおっしゃるのですか?」
クラン「なんだろうな。そこんとこは俺自身にもよくわからんが、突然豹変されるのも嫌なんでね」
そう。あの日、村の人間全員が豹変し、魔女の死を求めたように。親愛なる姉が、俺に刃をつきつけたときのように。
ファイス「でしたら、なんのもんだいもありません。だって、最初から知っていましたから」
ルルト「えっ?えっ?どういうこと?」
ファイス「あなたが聖人様の弟、というのは知りませんでしたけれど、あなた方が人間ではなく魔の者なのはわかっていましたよ」
フレイン「ふーん。それでもいいの?」
クラン「・・・・わからないな。神に仕える使徒ってのはもっと殺伐としてるイメージがあるんだが」
ファイス「ふふ、あなたたちになら話してもいいかもしれませんね。私、こう見えて魔物なんですよ」
クラン「はっ?」
思わず情けない声が出てしまった。教会に所属し、神に仕える修道女が、魔物?いや、どうかんがえても水と油だ。合わないにもほどがある。
ファイス「証拠をお見せしましょう。人化の魔法を解きますね」
そこに現れたのは、青と白が混ざった大きな翼をもった、美しい修道女。その翼は天使のものとは明らかに違い、魔物だということがわかる。
ファイス「私はハルシオンという魔物です。魔物、といっても聖力も扱えるので定義上純な魔物とは言い難いですが・・・・」
ルルト「おおー・・・・んじゃ、僕も!」
フレイン「私も解こうかな」
二人もファイスに触発されて人化を解き、ルルトは大きな緑色の翼を、フレインは緑色の肌と頭に花を出現させた。
ファイス「お二人ともきれいなお姿ですね」
ルルト「自慢の翼だからね!ほら、クラン。今なら触り放題だよ!」
フレイン「栄養をしっかり摂っているから、綺麗な花が咲くのよ。ほら、クラン。もっとちゃんと見てちょうだい」
クラン「いや、そんなに迫られても・・・・あれ、なんだろう・・・・ルルトのビリビリもいいんだけど、ファイスのはなんていうか、安心感というか・・・・」
ファイス「私の羽は生き物を癒す効果がありますから。回復魔法が常に流れ出ている感じですかね」
ルルト「えーっ!?なにそれ、ずるいー!ほら、クランのすきな翼だよー?もっともふもふしていいんだよー?」
フレイン「哀れね、ルルト。もはや見向きもされていないなんて」
ルルト「なんだと!そっちも他人の事言えないくせに!」
フレイン「残念ね、私はこの花から人をリラックスさせる香りを出せるの。だから今も振りまいているわ」
ルルト「・・・もーっ!もーっ!クーラーンー!」ポカポカ
クラン「いてっ、いててっ」
ファイス「うふふ、仲がよろしいんですね。さあ、見えてきましたよ。あの町が私たちの教会がある街です。あそこに、テトラが」
テトラ「私がどうかしたか?」
ファイス「・・・・・・えっ?」
ルルト「あっ」
フレイン「やばっ」
クラン「えっ?い、いつの間に?」
テトラ「そこのファイスがしばらく帰らないのでな。心配になって探しに出ようとしていたところだ。だが、ちょうどよかった」
ファイス「ええっと、その・・・・」
テトラ「なに、卿のことを気にしてはいない。そもそも私も卿が魔物なことくらいは気付いていた。今更魔物どうこうで騒ぐつもりはない」
テトラ「だから、臨戦態勢をといてくれないか?」
ルルト「・・・・ねえ、クラン。この人が・・・・」
フレイン「あなたが会いたがっていた・・・・」
クラン「ああ。ヴァルキリーのテトラだ。久しぶり」
テトラ「久しぶりだな、クラン。私も会えてうれしいぞ」