クラン=ソフライム。僕と同い年で、人間の男の子。今は僕と一緒にサーナさんの元で暮らしている。
ルルト「・・・あれっ?今日の料理、なんかいつもと味が違うね」
サーナ「今日はクランが全部作ってくれたのよ」
クラン「どう、かな?美味しく出来た自信はあるんだけど」
ルルト「おいしいよ、うん、おいしい。そっかー、これクランが作ったのかー」モグモグ
サーナ「とってもおいしいわ。頑張って勉強したのね」
クラン「うん、いつまでもサーナさんにばかり任せるのも悪いからさ」
サーナ「あら、私はいいのに。でも、その気持ちは嬉しいわ。ありがとう、クラン」
ルルト「うー、僕も作れた方がいいの・・・・かな?」
だけど正直、料理とかそういう細かいのは苦手だ。どうしても途中で面倒になって大雑把になってしまう。とはいえ、僕も女だし、覚えていかないといけない気がする・・・・。
僕はあまり勉強が好きじゃない。本に向かって黙々としているのはどうも性に合わない。だから、勉強するより身体を動かしたいんだけれども、クランはそうでもないみたいだ。
ルルト「くーらーんー、ひーまー」
クラン「俺は暇じゃないんだ。ルルトもその辺の魔導書とか読んでおいたらいいんじゃないか?」
ルルト「だってぇ、字ばっかり見てると眠くなるんだもん・・・・」
クラン「はぁ・・・・わかったよ」パタン
ルルト「おっ、乗り気になってくれたね!さあ、行こ行こ!今日も特訓だー!」
クラン「わかった、わかったから、腕を引っ張らないでよ。ビリビリする」
ルルト「あっ、ごめん、嬉しくってつい・・・へへ」
クランはなんだかんだ僕のやりたいことに付き合ってくれる。正直僕はわがままな方だと思うから、それに付き合ってくれるクランはすごく優しいんだと思う。
クランは人間だから、魔力は多くてもどうしても魔法の威力が上がらない。僕は魔力の量がそんなに多くないかわりに運動能力が高い。お互いの欠点を補う方法を探していると、面白いものをクランが見つけて来た。
クラン「ほら、これ。この本に書いてあるんだ」
ルルト「えっと、"契約"?」
クラン「そう。『人間は異性の魔物や天人と契約を行うことで、お互いの魔力や聖力を底上げすることができる。この契約を行うことで、我々はさらなる高みへと昇り詰めることができるであろう』・・・・だってさ!」
ルルト「おおー!それでそれで、それってどうやるの?」
クラン「ええっと、待って、『契約の方法は簡単だ。お互いの魔力を通わせながら、口づけをする。これだけだ。魔力を通わせる最も簡単な方法は、向かい合わせに両手を握り合い、相手の名前を呼ぶだけでいい』おお、本当に簡単だ」
ルルト「へぇー・・・・くっ、口づけ!?」
クラン「うん、なにか問題でもある?」
ルルト「いやいやいや、異性同士で口づけって、つまりその・・・・・え、もしかしてしたことあるの?」
クラン「んー、姉さんとかアリスとかテトラとは何度かあるかな」
ルルト「・・・・・・やるよ、契約。今すぐ」
クラン「え、今?」
ルルト「そう。今。ここで。やるよ」
クラン「う、うん。じゃあ、えっと、まず魔力を通わせるために、向かい合って両手をつないで・・・・」ギュッ
ルルト「こうだね」
クラン(こうやって正面からじっくり見つめ合うのは初めてな気がする・・・・あ、そんなことなかったな。結構詰め寄られてるし)
ルルト(クランの手、あったかいな・・・・)
クラン「そして、お互いの名前を呼ぶ、と。ルルト?」
ルルト「く、クラン」
クラン「・・・・通った感じがしないな。もう一回。ルルト」
ルルト「クラン」
クラン「ルルト!」
ルルト「クラン!」
何度も名前を呼び合い、身体が熱くなる。その瞬間、クランと繋がったことがわかった。腕を通って、熱が全身に広がっていく。とても熱くて、重い。これが、クランの魔力・・・・。
クラン「うっ、なんだか体がビリビリする・・・・いつもみたいなビリビリじゃない、身体の奥から感じる・・・・これがルルトの魔力か」
ルルト「クラン。さあ、契約を」
クラン「うん。あとは、口づけだけだ。ルルト」
ルルト「クラン・・・・これからも、よろしくね」
二人の唇が触れ合う。クランはきっと、これをなんてことないと思ってるんだろうけど、生憎僕はそうじゃない。クランはそういうのに疎いみたいだけど、僕はこの契約がどういうものなのかなんとなく想像がついている。ただの契約に口づけなんかするもんか。異性同士で口づけをする契約。それは、つまり・・・・・。
ルルト「・・・・契約完了かな、クラン」
クラン「ん・・・・なんだろう、あんまり変わった感じはしないけど、身体の奥からビリビリが湧き上がってくるような・・・・」
ルルト「ふふ、ねえ、クラン。君の足を見て」
クラン「うん?・・・・うわ、なんか紋様が浮き出てる。なんだこれ?もしかして、契約したから?」
ルルト「その紋様、見たことある。いや、僕はそれを生まれた時から知っている。クラン、それは『サンダーバード』と契約した証だ。君は、僕らサンダーバードの力を取り込んだ」
ルルト「きっと、今まで以上に魔力が強くなって、雷の魔法も得意になったんじゃないかな」
クラン「そう、かも?まあやってみないとわからないし、ちょっと森まで行こうか」
ルルト「うん!」ギュッ
クラン「・・・・どうして、腕を絡めるの?」
ルルト「さーて、どうしてだろうね?」
そんなこと、教えるわけないじゃん。だって、気付いてほしいんだから。だから、気付いてくれるまではこのままだよ。
サーナさんに契約の話を報告することにした。僕らの間のこととはいえ、隠すこともないだろうと。
サーナ「契約?・・・・本当に?」
クラン「うん。ほら、これがその証らしい」
サーナ「あら、それは・・・・確かに、本当みたいね。でも、よかったの?その契約は取り消せないのよ?」
ルルト「いいの。だって、僕たちこれからもずっと一緒だからね!」
クラン「うん?まあ、そうかな?」
サーナ「あらあら、うふふ。そういうことなら、私からは何も言うことはありません。それにしても、若いっていいわね。私は天人でも魔物でもないから契約はできないけれど」
ルルト「そうなんだね。狭間人っていろいろと大変そう」
クラン「契約なんかしなくてもサーナさんは十分強いじゃないか。俺、サーナさん以上に強い人を見たことないよ」
サーナ「まだまだクランは世間を知らないからね。もう少し大きくなったら、一度世界を見てまわるのもいいんじゃないかしら」
クラン「世界を、か。いいね、それ」
ルルト「そのときも僕が一緒だからね!」
外の世界、か。思い返せば、僕はたまにサーナさんとお買い物しに出るくらいで、ほとんど見たことが無いな。僕も、クランと一緒に世界を見て回りたい。どれくらい広いのか、何があるのかわからないけれど、クランといっしょならなんだってできる。そう思うんだ。
あの契約をしてから6年。僕たちは、18歳になって、身体もすっかり大人らしくなった。はず。クランはすごく大きくなって、来たばかりのころは僕の方が大きかったのに、いつの間にか僕が見上げるくらいになっていた。僕の方は、身長も、胸も、あんまり育ってないような・・・・。
クラン「サーナさん。俺、ここの外を、俺が元いた世界を見て回りたい。俺が生まれた世界はどれくらい広くて、どんなものがあるのか。本だけじゃなくて、実際に見て、聞いて、嗅いで、触って、味わって、感じてきたい」
サーナ「・・・・・そう」
クラン「だから、ここを出るよ。荷物はもうまとめてある」
サーナ「・・・・・ええ、そうね。あなたたちは、ずっとここで留まっているような子じゃないものね」
ルルト「サーナさん・・・・」
サーナ「・・・・外の世界は、危険です。ここのようにずっと平穏な日々が続くわけじゃない。いつでも食べ物が手に入るわけじゃないし、柔らかいベッドも、暖かい暖炉も、きれいな水もあるとは限らない」
サーナ「もしかしたら、激しい嵐に巻き込まれるかもしれない。もしかしたら、怖い盗賊に襲われるかもしれない」
クラン「・・・・・・」
ルルト「・・・・・・」
サーナ「それでも、あなたたちはそれを乗り越えられる。私はそう思っているわ。どれだけ辛くて、苦しいことがあっても、大丈夫。私は、そうやって育ててきたはず」
サーナ「だから、気をつけていってらっしゃい」
クラン「サーナさん・・・・・!」
ルルト「サーナさん、ありがとう。今まで、ずっと育ててきてくれて。あなたのおかげで、僕はこんなに大きく育った」
サーナ「ええ。クランも、ルルトも。とても大きくなったわ。もう私の手には収まらないくらい、大きくなったわ」
クラン「サーナさん。お世話になりました」
ルルト「お世話になりました!」
サーナ「私はいつでもここにいるから、いつでも帰ってきていいわ。もしも、どうしても困ったことがあったら、頼って頂戴」
サーナ「『2回角を曲がってから、3つ目にある扉を5回たたいて7秒待つ』これが、ここへの帰り方よ」
ルルト「えっと、3回曲がって、4つ目の扉を・・・?」
クラン「大丈夫、俺が覚えたよ。サーナさん。また、帰ってくるよ。だから、行ってきます」
ルルト「クランには僕がついてるから!だから安心して!それじゃ、行ってきます!」
サーナ「ええ。いってらっしゃい」
こうして、僕らは外の世界へ踏み出した。これから先、どんなことがあるのか、何が起こるのか。それは何もわからないけれど、クランといっしょならどんなことでも乗り越えられる。そう思うから、だから―
ルルト「クラン、これからも末永くよろしくね!」
クラン「こちらこそ、ルルト。これからも、よろしく」
すっと、君の隣を歩いていたいなって、そう思ったんだ。