魔法。聖法。それぞれ魔力、聖力を使って普通なら起こらないような現象を発生させるものだ。なにもないところから炎を出し、風を起こし、土を唸らせ、水を降らせる。
サーナ「ファイア」
サーナ「ウィンド」
サーナ「アース」
サーナ「ウォーター」
サーナ「これらが四元素魔法の初歩の初歩よ。これは魔力があるのならば誰でも使えるもので、魔法を習う時はまずはこれから始めるの」
クラン「ルルトが使ってる雷は?」
サーナ「あれは四元素から外れた魔法ね。その中でも基本的なものは、サンダー、フリーズ、ライト、ダーク、このあたりかしら」
サーナ「これも基本魔法の内にはいるけれど、苦手な人はとことん使えないものなの」
ルルト「現に僕はダークとかフリーズは使えないよ」
クラン「なるほど。それで、魔法ってどうやって使えばいいんだ?」
サーナ「あなたほどの魔力があれば簡単よ。さ、手を前に突き出して」
言われたとおりに両手をつきだす。あのとき、アリスがやっていたように。そう、あのとき。もし俺が、魔法を使えると知っていたら。アリスをあんな目にはあわせずにすんだのかもしれない。
サーナ「魔法で一番大事なのはイメージ。イメージがそのまま魔法へと変化する」
サーナ「体の奥から、腕を通って、炎を発射する。強くイメージして」
イメージしろ。炎を。熱い炎を。獣を焼き尽くす炎を!体の奥から、やつらを焼き尽くす炎を!
クラン「はあああっ!!!」
ボウッという音と共に、小さな火の玉が俺の手のひらからまっすぐ射出される。そしてそれは壁にぶつかり、音もなく消えた。
クラン「これが、魔法・・・・?」
サーナ「そうよ。ふふっ、よくできたわね。一度見ているからイメージしやすかったのかしら?なんにせよ、この分だと基礎はすぐに習得できそうね」
ルルト「おー、僕がやるときは1週間かかったのに。見ただけで出来るってすごいなぁ」
褒められると悪い気はしない。魔法という超常的な力に戸惑ってはいたが、実際に自分でやってみると現実なんだという実感がわいてくる。
サーナ「さ、じゃあ今日はここまでにしましょうか。食事の準備をしてくるから、ゆっくりしていて」
クラン「え、もう終わり?」
ルルト「えー、もう?もっとできるんじゃないの?」
サーナ「ふふ、焦らなくていいのよ。なんせ時間はたくさんあるんだから」
この場所での生活はすごく快適で、とても楽しい物だった。サーナさんは母親のように俺たちに接してくれて、彼女の料理は一日の楽しみだ。魔法の訓練以外にも、こちらが望めば算術や歴史の勉強、体術の訓練なんかもしてくれる。本当に、どうしてここまでしてくれるのかわからないくらいによくしてくれるのだ。たまに『お母さん』と呼ぶと照れながらも嬉しそうな反応をする。もしかしたら、彼女の過去にもなにかあったのかもしれないな。
クラン「サーナさん、手伝うよ」
サーナ「あら、いいの?ありがとう」
クラン「それはこっちのセリフだよ。こんなによくしてもらってるんだから、これくらいはさせてほしい」
サーナ「なら、そっちにある野菜を切ってもらえるかしら。皮はむいてあるから、一口サイズにしてちょうだいな」
クラン「わかった。任せてくれ」
サーナ「うふふ、いい子ね、クラン」
クラン「止めてよ、お母さん」
サーナ「も、もうっ。私はお母さんじゃないわよ」
俺の母親は、聖人としての俺と姉さんを育てるのに精一杯だったからか、こういう親孝行をさせてくれなかった。だから、こういうやりとりはすごく新鮮だ。
ルルトは年が同じということもあって、ウマが合う。お互いの種族のことを話したり、人間と魔物での文化の違いとかで結構話が盛り上がる。聞くところによると、ルルトは赤ん坊のころからここにいるらしい。サーナさんが母親代わりとして女手一つで11年間育てて来たそうだ。だからというか、お転婆な行動の端々にも行儀のよさが見えてくる。
ルルト「きゃあっ!く、クラン!?僕、水浴び中なんだけど!?」
クラン「うん?そんなの見りゃわかるけど、何か問題あった?」
ルルト「大ありだよ!ってなんでクランも脱いでるのさ!」
クラン「なんでって、俺も水浴びを」
ルルト「エッチ!変態!出てって!」
クラン「ええ・・・・?」
ルルト「う~、なんで困ってるのさ・・・・君は女の子の裸をみてもなんとも思わないの?」
クラン「そうは言われても、狩りの後はよく姉さんやテトラとも水浴びしてたし、アリスと近くの湖で水遊びもしてたし?」
ルルト「そうだったぁ、クランは女の子に囲まれて育ってるからそのあたり全然だったんだ・・・・とにかく、出ていって!」
クラン「わ、分かったよ。悪かったって」
たまに喧嘩もするけど、たいていすぐに仲直りする。俺は結構常識みたいなものに疎いみたいで、それが原因で機嫌を損ねることは多い。その辺りも現在勉強中だ。
基本的にこの屋敷から出ることはない。最初来たときは全てが室内で、気が滅入るかと思ったのだが、そんなことは全くなかった。屋敷の中には大きな庭がある。湖もあるし、花畑や森もある。下手をすれば俺のいた村より広いんじゃないかというくらいの広さだ。どの場所にも扉がついており、何か危ないことがあったらすぐにサーナさんが駆けつけてくるから安心だ。森の中でルルトと一日中遊んだりだとか、花畑で昼寝してみたりだとか、やれることは尽きない。
クラン「サーナさんは、いつからこの屋敷にいるんだ?」
ルルト「あー、それ僕も気になる」
サーナ「さて、いつからだったかしら。私の記憶では、初めてここを出た時には大きなトカゲが平原を走っていたわね」
クラン「大きなトカゲ?」
サーナ「そうよ。私たちなんかよりももっと大きいトカゲよ」
ルルト「へぇー、想像できないなぁ」
サーナ「いつのまにかいなくなってしまっていたけれど、あのお肉はそれなりにおいしかった記憶があるわ」
ルルト「・・・なんだかお腹が空いてきちゃったよ」
クラン「俺も」
サーナ「あら、じゃあおやつにしましょうか」
どれくらい昔からサーナさんがここにいるのかはわからないけれど、ルルトや俺が来る前はずっと1人だったのかもしれない。1人でこんな広い屋敷で暮らすなんて、正直気が狂いそうだ。そう考えると、俺たちをここに連れて来たのは寂しかったからなのかもしれないな。
魔法の訓練も1年ほど続き、基本的な魔法は使いこなせるようになったころ。サーナさんから特別な魔法についての話を持ち掛けられた。
サーナ「さて、クラン。前にも話した通り、魔法っていうのは2種類あるということ、覚えているかしら?」
クラン「うん。汎用魔法と、個別魔法だろ」
サーナ「そうよ。汎用魔法は今まであなたが訓練してきた魔法のこと。そして個別魔法は、その人自身にしか使えない魔法のこと」
サーナ「そして、個別魔法っていうのは1人につき1つしか作れないの。そして、一度作った魔法はもう取り消すことができない」
ルルト「そうなんだよねー。僕は気が付いたら自分でやってたからさー」
サーナ「ルルトの言うように、たいていの魔物は幼いころに勝手に習得するものなの。無意識に作っている、といった方がいいかしら」
サーナ「だけど、クランが魔法を自覚したのはここに来てからのことだし、私は徹底して基礎魔法しかやらせていないわ。だから、あなたはまだ個別魔法を持っていない状態」
クラン「ってことは、ついに俺も作る時が来たのか!」
サーナ「ええ。基礎魔法を先にやらせたのは、魔法がどんなものかを実感してもらうため。そして、魔法を作るための準備をしてもらうため。絵を描くための絵の具を用意したようなもの」
サーナ「そして、あなたがもっているキャンバスはまだ真っ白。だから、あなたは自分で思ったように魔法を作ることができるわ」
クラン「例えば、どんなことでもできる魔法とかも?」
サーナ「うーん、できなくはないんだけど、魔法の基礎はイメージだから『イメージ出来ない魔法』は作れないわ。あなたがこの世の全てを知っていて、それを再現したいというのなら別なのだけれど」
ルルト「そんなのサーナさんしか無理じゃん!」
サーナ「あら、私もまだまだよ。この世の全てなんて知ることは出来ないわ」
クラン「そっか。やっぱり、自分がイメージしやすい魔法にしなきゃいけないんだね」
サーナ「ええ。大事なのは、『その魔法で自分がなにをしたいか』ということ。どんな魔法があれば、どんなことができれば・・・・それを基に作ってみるといいわ」
どんなことができれば、か。魔法であるからには魔力を使う。だから、身の丈に合わないものを作っても魔力不足で使えないのが関の山だ。俺は、どんなことをしたいんだ?どんな魔法を使えれば・・・・
そこまで考えた時に、ふと俺がここに来る前の日の事を思い出した。もし、あのときあの獣が襲ってこなかったら・・・・いや、俺が追い払えていたら・・・・。もし、あのときアリスを、誰にもばれないように助けられていたら・・・・。
どうすれば追い払える?簡単だ。引き離せればいい。どうすれば助けられる?簡単だ。引き寄せればいい。イメージしろ。自分からものが離れていく様子を。自分の元にものが吸い寄せられる様子を。イメージしろ。あのときを。強く、強く!
ルルト「わわわわっ、う、浮いてる!僕浮いてるっ!?わっ、なんか椅子とか机とか行ったり来たりしてる!?」
サーナ「クラン!そこまでよ!」
サーナさんの声が聞こえて、はっと目を見開く。見ると、周囲がぐちゃぐちゃになっていて、ルルトが逆さ吊りになっている。俺の目の前にあった机は壁際まで移動しており、遠くにあった花瓶が俺のすぐ下に落ちている。
サーナ「なるほど、とんでもない魔法にしたみたいね」
クラン「あの、サーナさん・・・・これ、俺が・・・?」
サーナ「ええ。これが、あなたの魔法。遠くにあるものを引き寄せ、近くにあるものを引き離す。引力を操る魔法」
ルルト「降ろしてー!服が変な所に引っかかってるんだよー!」
クラン「ええっと、こう?」クイッ
ルルト「わぎゃっ!」ガンッ
サーナ「あらあら、しばらくは制御の訓練をしないといけないかしら」
ルルト「うう~、頭打った~・・・・クランのバカ~・・・・」
クラン「ご、ごめん」
こうして、俺は唯一無二の魔法を手に入れた。とはいえ、まだまだ制御もままならない危険なものだ。当分はサーナさんのいるところ以外では使うことを禁止して、訓練に励むことになった。
クラン「そういえば、ルルトの個別魔法ってどんなのなんだ?」
ルルト「僕?僕はね、こう、全身を雷に変えてすごいスピードで動けるようになる魔法だよ」
ルルト「っていってもあんまり長く持たないから、普段は使わないんだけどね。暴発も怖いし」
サーナ「あら、なら一緒に特訓すればいいじゃない。いい機会だし、ルルトも鍛えてみたら?」
ルルト「うーん、そうしようかな・・・・」
クラン「サーナさんのは?」
サーナ「私?私は知っての通り、扉と扉をつなげる魔法よ。どんな扉だろうとどこにでもいけるの」
クラン「じゃあ、扉が持ち運び出来たらすごく便利だね」
サーナ「もしかしたら世の中にはものをしまう魔法を持っている子もいるかもしれないわね。もし会えたら是非お願いしてみたいわ」
ルルト「え、サーナさんの魔法ってそれだったんだ。てっきり言葉の方かと・・・・」
クラン「言葉?」
サーナ「これはただの技術よ。話す時に声の波長を整えて、あいての本能に訴えるようにするもの。だから、やろうと思えばだれでもできるの」
クラン「へぇ、そんなのが。ああ、だからさっきもすぐに俺を止められたのか」
サーナ「そうよ。クランも覚えてみる?」
クラン「ぜひ」
サーナ「ふふ、後継者ができてうれしいわ。でも、これを身に着けるのは大変だから・・・・やめたくなったらいつでも言ってね」
クラン「わかった。よろしく、お母さん」
サーナ「もう、だからお母さんじゃないってば・・・・・ふふ」