サーナさんの屋敷に到着してから一晩たった。十分な休みが取れ、肉体的にも精神的にも癒された。
クラン「いろんなとこを廻ったけど、やっぱりここが一番落ち着くなぁ」
サーナ「ふふ、嬉しいわ。そういえば、昨日は聞かなかったんだけど、ルルトはどうしたの?」
クラン「うっ、えーと、ちょっといろいろと・・・・・・」
フロウ「痴情のもつれがあったんです」
フェア「あー、私のこの印を見て察してください」
サーナ「あらあら、まあまあ。クラン、あなたやっぱりにぶちんさんだったのね。女ばかりの環境で育てたのがよくなかったかしら?」
クラン「やっぱりって」
やはりサーナさんにはいろいろとお見通しだったようだ。ルルトももしかしたらサーナさんに相談していたのかもしれない。だが、それを聞くと野暮と言われそうなので言わないことにする。
サーナ「ふふ、それで、こちらの方々の紹介もお願いしようかしら。クランの口から紹介してあげて」
クラン「ええっ!?挨拶と自己紹介はしただろ!?」
サーナ「私、クランがみんなのことをどう思ってるのか聞きたいなー、なんて」
フェア「確かにちょっと気になる」
フロウ「わくわく」
ミヤビ「声に出てますよ。私は出会ってから2ヶ月ほどですからそこまで印象に残ることもないでしょう」
ルー「?」
クラン「あー、うん。じゃあ新しい順でミヤビから」
ミヤビ「あら」
クラン「彼女はアマノミヤビ。吸血鬼で、とある村で共に龍に立ち向かった仲間だ。今ついてきてるのは異国の風景を故郷に持ち帰りたいとのことからだよ。日差しが出てると弱っちゃうけど、そうじゃないときは俺じゃまったく歯が立たないほどに強いんだ」
ミヤビ「一つ付け加えさせていただくと、「ノ」は名に入っておりませんので」
サーナ「クラン。ジパングは姓と名の間に助詞である「の」が入ることがあるの。私たちの文化ではないものだから、勘違いしちゃったんだと思うんだけどね」
クラン「え、そうだったんだ」
ミヤビ「とはいえ、今まで通りミヤビと呼んでいただければ幸いです」
クラン「ああ、わかった。んで、こっちがフェア=ティターニア。名前の通りティターニアで、妖精の森の姫。紆余曲折あって契約しました、はい」
フロウ「お兄ちゃんを結婚騒動に巻き込んだあげく無理矢理契約してルルトお姉ちゃんとの深い軋轢を残すというカルマを残したお方です」
フェア「・・・・・・いや、惚れたのはガチだから仕方ないって」
サーナ「ちなみに、クランのどんなところに惚れちゃったの?」
フェア「えっ、あー、うん。自分でもマズいって思う私の料理を、おいしいって言って全部食べてくれたとこかな」
フロウ「えっ、そんなことあったんですか?お兄ちゃんかっこいい!そりゃ惚れちゃうよ!」
クラン「あーうん。で、そのあとルルトと修羅場になって強烈な電撃を喰らったと」
サーナ「ルルトはねー、あの子はそういうのから逃げてたからねー。ちゃんと料理とかを教えたかったんだけど・・・・・」
クラン「で、このちっこい野次馬がフロウラルフロスト・フレイアムフロウ。ニックネームはフロウで、ジャックフロストながら熱魔法を使うヤバイ子」
フロウ「ヤバイってなんですか!」
クラン「そんなことがあって集落では忌避されてて、そのあとなんやかんやあって連れ出した子」
フロウ「あのときのお兄ちゃんは情熱的でした。惜しむらくはあれを見ていたメンバーがルーちゃんしか残ってないことです」
サーナ「ふふ、ルルトが言っていた助けてあげたい子ってのはあなたのことだったのね。寂しがりな意地っ張りって言ってたわ」
フェア「私はその辺のことよく知らないけど、うちに来てたのもそれ関連だったわよね」
フロウ「その節は大変お世話になりました」
クラン「で、最後にこのカワイイ子がルー。この子は教会に襲われたセルキーの集落の唯一の生き残りで、その時のショックで声が出せなくなってるんだ」
フェア「声は出せないけど表情豊かで感情はわかりやすいし、言いたいこともなんとなく伝わるわよね」
ルー「(*‘∀‘)」
クラン「そして、結構無鉄砲な子。一般の人間相手に手は出さないけど、人外相手だとバリバリに攻撃を仕掛けていく思ったより攻撃的な子。意外性って点では一番高いかな」
サーナ「あら、そうなのね。一回試してみましょうか」
ルー「?」
サーナ「・・・・・・ル―ちゃん、よく聞いて。あなたは声が出せるわ。ちゃんと心の底から出したい言葉を、あなたは伝えることができる」
フェア「えっ、なにやってんの?」
クラン「あー、あれは暗示だよ。しかも超強力な」
ルー「・・・・・・!・・・・・・!」
サーナ「・・・・・・だめ、みたいね。やっぱり、一度お医者様に診てもらったほうがいいわ。そのために帰ってきたのよね?」
クラン「ああ。ルーの声を治すために、レイラ・ビオレットという医者がいる街に行きたいんだ」
ピピから聞いたこの名前、サーナさんならもしかしたら知っているかもしれない。
サーナ「レーラ、あの子か・・・・・・ごめんなさい、彼女のことは知っているけれども、居場所はわからないの。彼女は腕のいい医者っていうのもあって、各地を転々として病気やけがの治療をしてるから」
クラン「え、女性なの?」
サーナ「ええ、女性の医者よ。珍しいけどね」
女性でありながら医者をしている人なんて聞いたことがない。いたとしても、まともに取り扱ってくれないだろう。それでも需要があると言うことは、よほど腕が立つということだ。ルーの声を治せるということが現実に近づいて来た。
1週間ほどゆっくりと身を休め、心身ともに十分回復出来た。
クラン「サーナさん、そろそろ出発しようと思う」
フェア「え、もう?」
フロウ「私、まだゴロゴロしてたいですー」
ルー「zzz」
たった1週間でこのだらけっぷり。それだけここを気に入ってくれたということだろう。
ミヤビ「皆さん、居心地の良さに甘えすぎてはいけませんよ。本来の目的を見失ってしまっては元の木阿弥です」
フェア「うー、それもそうよね・・・・・・ほら、ルーちゃん、起きて」
ルー「(p_-)」
サーナ「さて、じゃあどこに繋げましょうか?」
クラン「あー、えっと・・・・・・そうだな。テトラのところへ」
フェア「・・・・・・誰?」
クラン「俺と姉さんと、アリスの幼馴染。アリスについて一度報告もしておこうと思って」
サーナ「わかったわ。行先は神聖ローマ帝国にある教会ね」
クラン「よろしく。それじゃあ、行ってきます、サーナさん」
サーナ「ええ。いってらっしゃい、クラン」
サーナさんが開いた扉の先には、見たことのある教会があった。だが、何やら慌ただしい様子だ。
クラン「テトラーっ!俺だ、クランだー!」
教会の中に向かって声をかけるが、返事はない。周囲のシスターの視線も痛い。仕方ない、話しかけるか。
クラン「ごめん、ちょっといいかな」
シスター「ひっ!わ、私は何も知りません!」
フロウ「・・・・・・逃げられちゃったね」
クラン「怯えられるようなことをした覚えはないんだけどな」
フェア「顔が恐かったんじゃないの?」
テトラ「いや、そうじゃないんだ。すまないな、クラン。歓迎できなくて」
クラン「テトラ!」
テトラ「貴様がここを発ってから1年と半年ほどか、時の流れは早いな」
クラン「そうだな。あっという間だ」
テトラ「連れている女も変わっているようだし・・・・・・よもや各地で女をひっかけて回ってるんじゃないだろうな」
クラン「それはない」
テトラと会話をしているとやはり説教時見たことが多くなる。テトラらしいというか、それだけ心配してくれているのだろう。
フロウ「なんだかお兄ちゃん、サーナさんとは違った感じで安心してますね」
クラン「ん、そうか?ならそうなんだろうな。なんだかんだ見知った仲だし」
テトラ「ここが貴様の休める場所であるというのは嬉しいな」
フェア「あの、テトラさんとクランの関係って・・・・・・」
テトラ「ん?ああ、心配しなくていい。ただの幼馴染だし、クランは私の弟分だ」
クラン「まあそういうことさ」
紆余曲折はあったものの、今でもテトラの事は姉のように慕っているつもりだ。実の姉に(一応)命を狙われているということもあって、頼りになるという点ではサーナさんと双璧を成すと思っている。
クラン「それで、だ。アリスについて」
テトラ「ああ。どうだったんだ?」
クラン「残念ながら見つからなかった。どうも、乗っていた船が難破したって話だ」
テトラ「・・・・・・そうか」
クラン「ただ、知っての通りアリスは魔女だ。そう簡単にくたばるとは思わない」
テトラ「そう、信じるしかないか。今は私もここを離れるわけにはいかん。今はただ信じよう」
ふと、ここに到着したばかりのときの慌ただしさを思い出す。何があったのか気になったので、思い切って聞いてみることにした。
クラン「そういえば、なにかあったのか?」
テトラ「なにか、とは」
クラン「いや、なんていうか、凄く慌ただしいというか、警戒している感じだ」
テトラ「・・・・・・隠し通せるものでもないか。今、とある事情から人を三人ほど匿っているんだ」
クラン「え?」
テトラ「他言はしないでくれ。どうやら近くで内乱があったようでな、そこから逃げて来た娘たちなんだ」
クラン「内乱?」
テトラ「ああ」
ファイス「私と出会った時のことを覚えていますか?」
クラン「ファイス!」
ファイス「お久しぶりです、クランさん」
クラン「ファイスと会ったのは、たしか賊に囚われていたんだったか」
ファイス「はい。どうやらあれを主導した領主の関係者がいたようなのです」
クラン「それで、領主とその主導した人物が争っているって感じ?」
ファイス「はい。そして、ここで匿っているのは・・・・・」
三人の女の子が地下から出てきて、挨拶をした。
フロリーナ「お久しゅうございます、クラン様。私は領主の娘、フロリーナ・レオミュールと申します」
ディア「リーナの友達のディアよ」
オッド「・・・・・・オッド」
クラン「えっと、久しぶりと言われても、会ったことあったっけ?」
全く覚えがない。ピピやファイスと同じであのときついでに解放した人の中にいたって感じか?
オッド「あなたには覚えがないかもしれないけれど、私たちは覚えている。さっきの話ででてきた賊に囚われていたところを助けてもらった」
ディア「あなたにその気がなかったとしても、助けてもらったってことには変わりないからね。流石に命の恩人の顔と名前は忘れないわ」
フロリーナ「本当ならばお礼をさしあげたいところなのですが、生憎身一つで逃げてきたところですので、何も持っていなくて・・・・・・この体を捧げろと言われれば喜んで差し上げますが」
クラン「そのつもりはないから本当にやめてくれ」
フェア「そうよそうよ!ぽっと出の女がしゃしゃり出ないでくれる?」
フロウ「お前が言うな」
クラン「しかしそうなると、医者探しも難しいよな」
ミヤビ「外を出歩くと戦火に巻き込まれる可能性がございますからね」
ルー「(/・ω・)/」
クラン「ん、ごめんね、ルー。まだ時間がかかりそうだ」
ルー「(・ω・ )≡( ・ω・)」
クラン「え、違うの?」
フロウ「んー、多分ね、ルーちゃんはこの人たちのことを助けてあげて欲しいって言いたいんじゃないかな」
ルー「(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)」
クラン「ルー、あのな、これに関しては俺たちには一切関係ないんだ。わざわざ首を突っ込むようなもんじゃないんだよ。危ないし」
ルー「( ;ω;)」ウルウル
クラン「そもそもこの三人を最初に助けたのだって褒められたような理由じゃない。俺たちもやってたことは賊と変わらないんだ。悪いが、俺は正義のヒーローじゃないんだよ」
ルー「( ;ω;)」
クラン「・・・・・・ああー、もう!わかったよ!行けばいいんだろ、行けば!」
ルー「(*‘∀‘)」パァッ
参ったな。ルーには弱いんだ。いざこざが収まるまで屋敷に戻っていようと思ってたのに、できなくなっちゃったじゃないか。
フェア「あーいかわらずルーちゃんに甘いわねー」
ミヤビ「泣く子と地頭には勝てぬと言いますから」
フロウ「はいはーい!私もがんばりまーす!」
フロリーナ「・・・・・・本当に、よろしいのですか?」
テトラ「これは私たちの問題だ。お前が手を出さなくても・・・・・・」
クラン「一度決めたからにはやるさ。男に二言はない。それに、ルーの前でかっこわるいとこ見せられないしさ」
テトラ「ふっ、そうか。ならばバックアップは任せろ。必要なことは何でもしよう」
ファイス「私たちは彼女たちや、この教会を守るためにもここを離れることができません。どうか、ご無事で」
クラン「よし、じゃあさっさと片付けるか!」