『あっ、おかえりなさーい。・・・・あれれ?サーナ、その人だれ?』
『僕はルルト。ルルト・サンダーバードさ。見ての通りの可憐なサンダーバードだよ』
『あ、じゃあ僕が部屋に案内してあげるよ。こっちこっち!ついてきて!』
『ああ、ごめんごめん。ついうれしくって放電しちゃった』
『そんなこと言われてもさー、僕頭で考えるより体で感じる派だからさー。正直勉強は苦手・・・』
『仲良くしようね、クラン!』
どうして、こんなことを思い出すんだろう。
『おー、僕がやるときは1週間かかったのに。見ただけで出来るってすごいなぁ』
『えー、もう?もっとできるんじゃないの?』
『きゃあっ!く、クラン!?僕、水浴び中なんだけど!?』
『エッチ!変態!出てって!』
『わわわわっ、う、浮いてる!僕浮いてるっ!?わっ、なんか椅子とか机とか行ったり来たりしてる!?』
『うう~、頭打った~・・・・クランのバカ~・・・・』
『おいしいよ、うん、おいしい。そっかー、これクランが作ったのかー』
『くーらーんー、ひーまー』
『あっ、ごめん、嬉しくってつい・・・へへ』
きっとあの頃が、一番楽しかった
『・・・・・・やるよ、契約。今すぐ』
『クラン。さあ、契約を』
『クラン・・・・これからも、よろしくね』
『その紋様、見たことある。いや、僕はそれを生まれた時から知っている。クラン、それは『サンダーバード』と契約した証だ。君は、僕らサンダーバードの力を取り込んだ』
『さーて、どうしてだろうね?』
僕には、クランだけでよかったのに
『クラン、これからも末永くよろしくね!』
きっともう、取り戻せない
ルルト「クランの、クランの・・・・・」
ルルト「クランのバカーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
少し眠ると、ある程度身体は楽になっていた。この森の魔力の多さで回復力が向上しているのだろう。そして、隣のベッドには・・・・
オーブ「・・・・・・」ムスー
クラン「どうして君までここに?」
オーブ「ボクもボロボロだからって医務室に放り込まれたんだよ」
クラン「ま、そうか。割と本気で打ったからな」
オーブ「・・・・・・・笑えよ。あれだけ大口叩いておいて、結局のところボクはなにもできやしないんだ」
オーブ「森の民たちは皆もう納得している。・・・・・・ボクも、自分で言ったことを覆すようなことはしないさ」
オーブ「フェアはお前のものだ。悔しいけどな」
クラン「あー・・・・・・ええとだね、そのことなんだけど、その、非常に申し訳ないんだが、俺自身にその気は一切なくてだな・・・・」
オーブ「はぁ?」
ここに来てやっとこいつに俺たちがここを訪れた目的を話すことができた。
オーブ「つまり、お前たちは要は場所さえ借りることができたらそれでいいってことなんだよな?」
クラン「そう。今回の騒動は完全にフェアに巻き込まれた形になってて・・・・」
オーブ「なんだよそれ・・・・じゃじゃボクのあれはいったいなんだったんだ・・・・」
クラン「暴走」
オーブ「そうだよ、わかってるよ、クソッ!」
フェア「おまたせー!スープ、作ってきたわよー!」
オーブ「えっ」
クラン「ああ、ありがとう。待ってたよ・・・・・やけに手がボロボロだけど、どうしたの?」
フェア「ちょっと野菜を切るときに失敗しちゃって」
もしかしたらあまり料理には慣れていなかったのか?だとしたら申し訳ないことをお願いしたな。
オーブ「おい、お前。このスープは飲まない方がいい。これは善意の忠告だ、やめておけ」
クラン「ん?」
どうしたんだろう、オーブがやけにおびえているような・・・・
フェア「あんたもボロボロなんだから飲みなさい!」
オーブ「ま、ちょ、やめ、おえええっ」
※しばらくお待ちください
オーブ「はぁ、はぁ・・・・・わ、わかったか?こいつは、料理が下手なんだ・・・・・とても食えるものじゃない。うぷっ・・・・」
フェア「もう、ひどいじゃない!ちょっと苦手なだけなのに!」
やはり、フェアは料理には慣れていなかったのか。とはいえ、俺が自分で頼んだんだ。飲まないなんて選択肢はもとから無い。
クラン「じゃあ、いただこうかな」
オーブ「なっ!?ボクの忠告を聞いていたのか!?おえっ、それはこの世に存在していいような味じゃないんだぞ!」
クラン「それが、どうした!」
痛む身体に鞭を打ち、スープを一気に飲み干す。ああ、たしかにひどい味だ。オーブの反応もうなずける。だけどな、
クラン「・・・・・・ああ、おいしいよ。おかわりはあるか?」
フェア「えっ!?」
オーブ「なっ!?」
クラン「全然足りないんだ。ある分全部持って来てくれ」
フェア「わ、わかったわ!すぐに!」
オーブ「何を血迷ったことを!お前、舌がおかしいんじゃないか!?それとも、ただの馬鹿なのか!?」
ひどい味だけど、まずいわけじゃない。そうさ、まずいわけがないんだ。
小さい頃の話だ。はじめて自分で狩った獣を、自分で調理してみたかった。だがそれは、調理というにはあまりにも粗末すぎるもので、はっきりいってまずかった。そんなことは自分でもわかっていた。
テトラ『うっ、これは、ど、独創的な・・・・いや、はっきり言おう。まずい』
スワン『あなたは男なんだから、こんなことをしなくてもいいのよ。大丈夫、誰にだって苦手なことはあるんだから』
クラン『う、うん・・・・・』
だけど
アリス『・・・・・・・』モグモグ
クラン『アリスも、こんなの残しちゃっていいんだよ?無理に食べなくても・・・・』
アリス『・・・・・・・』モグモグ
クラン『アリス?』
アリス『残すなら、ちょうだい』
テトラ『えっ?』
スワン『はっ?』
アリス『お兄ちゃんが一生懸命作った料理だもん。まずくなんかないもん。おいしいもん。だから、私が食べる』
クラン『アリス・・・・・』
誰が見ても、その言葉が強がりなのはわかっていた。アリスの目には涙がにじんでいて、一口ごとに水もたくさん飲んでいた。
テトラ『・・・・・ああ、そうだな。まずいと思ったのは勘違いだ。私にもよこせ!』
スワン『もう、しょうがないわね。私も付き合うわよ』
その次の日、みんなでお腹を壊したのはいい思い出だ。あの出来事があったからこそ、今の俺がある。
フェア「ぜ、全部持って来たわよ!」
クラン「鍋ごとでいい!渡してくれ!」
フェア「は、はい!」
無理にでも、喉の奥に流し込む。具材も飲み込める大きさに噛み砕いたらスープと一緒に流し込む。とても一人で飲むような量ではなかったが、飲み切らなくてはならなかった。
クラン「・・・・・フェア!おいしかったよ!」
フェア「あっ、う、うん・・・・・」
オーブ「馬鹿げてる、そんなこと、なんのために・・・・」
クラン「あたりまえだろうが。フェアが、俺のために一生懸命作ってくれたスープだ。おいしくないわけがない」
苦手なことなら改善すればいい。慣れてないなら慣れればいい。否定して道を断ってしまう、それが一番ダメなんだ。
クラン「ありがとう、また作ってくれ、フェア」
そうしたら、心の底からおいしいって言わせる料理を作りたくなるんだ。
料理だとか、そういうことは全部召使いがやってくれた。だから、私自身は苦手だった。そんなことわかっている。
一度勝手にキッチンを使った時はひどく怒られたりもした。そのときできたものはお世辞にもおいしいとなんて言えなくて、誰もがまずいだとか食べられたものじゃないとかそんなことしか言わなかった。
この森で、姫として、女王として暮らす以上はそんなことはしなくていい、そう言われた。だけど見返してやりたくて、何度も挑戦した。
フェア(はじめて、言われた)
そのたびに、まずいと言われた。段々と食べてくれる人が減っていって、最終的に誰も食べてくれなくなった。
フェア(はじめて、してくれた)
だけど、だけど、クランは違った。
フェア(おいしいだなんて、はじめて言われた。はじめて、私の料理を残さず食べてくれた)
クランの料理はとてもおいしい。だから、クラン自身が味音痴なんてことは絶対にない。そして、料理の出来はオーブの反応を見たらどうだったかぐらいわかる。
フェア(それでもクランは、おいしいって言ってくれた。私のことを褒めてくれた。また作って欲しいって言ってくれた)
一目惚れ、なんてただの方便だった。ただ結婚なんてものから逃げたかっただけ。だから利用した、それだけのつもりだった。
フェア(でももう、それも終わり)
このまま、彼は目的を達成したらここを出て行くだろう。私はそのときどうなるのだろうか。もう二度と、彼と会えなくなるのだろうか。そんなのは嫌だ。
フェア(私の体が、心が、彼を、クランを求めている。私は、この人と結ばれるために生まれてきたんだ)
そう思うと、身体が自然に動いていた。笑顔の彼に向って、勝手に足が動いていく。あまり動かすことができない彼の顔を、両手でしっかりと捕まえる。
クラン「え、フェア、何を」
フェア「んっ―」
私は、彼の唇を奪った。
熱い。フェアの両手から、魔力が流れてくる。俺の魔力も吸い出されている。いや、これは交換されている。フェアと、俺の魔力が混ざり合って、繋がって―
ルルト「クランー!ただいま、帰ってきたよー!」
チュパッ
ルルト「・・・・・・え?」
フェア「契約、完了ね」
俺は、フェアと契約をしてしまった。
嫌だ
ルルト「なっ、クラン、えっ、その子、だれ、それに、今」
クラン「あ、ルルト、無事に帰ってきてくれてよかった」
嫌だ
ルルト「けいやくって、僕と、だけじゃ、僕と、クラン、だけの」
絆が
ルルト「あ、まりょく、が・・・・・」
奪われて
ルルト「クランの、クランの・・・・・」
僕の、僕だけの
ルルト「クランのバカーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
フェアと契約をし、ルルトが戻ってきて、ルルトに怒られて・・・・・それ以降の記憶がない。
クラン「ところどころビリビリする・・・・・ルルトの電撃か・・・・」
最後に見たのは、強く放電しながら叫ぶルルトの姿。そして、彼女の涙だった。
フレイン「気が付いたのね、クラン」
ベッドの傍らには少し怒ったようなフレインと、心配そうな顔でこちらを見ているフロウとルーの姿があった。
エア「フェア様も巻き込まれてるし、オーブは・・・・まあいいか」
フレイン「で、なにがあったの?ルルトが泣きながら飛んで行ったんだけど」
フェア「クランは悪くないわ。悪いのは私」
向かいのベッドに寝かされていたフェアが、代わりに事のあらましを語ってくれた。契約のこと、ルルトがその場面を見てしまったこと、そして魔法の暴走。
フェア「他にも契約者がいたのね・・・・だから雷の魔法を使えたわけか。ていうか、仲間がもう一人いただなんて・・・・」
フレイン「はぁ、そういえばあなたには話してなかったわね。あなたの両親には話したんだけれど」
フロウの件をお願いするときに、確かに話をしたはずだ。フェアはそのときはどこか別のところにいたんだったか、とにかくタイミングが悪かった。
フェア「ま、今はいいわ。それよりも、フロウちゃんのやつを先に」
「よくない!!!!」
同じくベッドに倒れていたオーブが、声を荒げる。
オーブ「フェア、お前人間との契約がどういう意味なのか、わかってるのか!?」
フェア「わかってるわよ。わかってなきゃこんなことしない」
どういうことだ?なにをそんなに怒っているのか。
クラン「待ってくれ、契約ってただ単にお互いの力を強化するものじゃないのか?本にはそれしか書いてなかったけど」
オーブ「そんなわけないだろう!?お互いの魔力を交えて口づけまでするんだぞ!」
フレイン「あー、クランはそういう色恋には疎い、というか知識が多分ほぼゼロなのよ。だから、ここでちゃんと説明してあげるわ」
色恋?いや、たしかにその経験は全くと言っていいほどないが・・・・
フレイン「まず大前提として、私たち魔物が人間を求める理由。それは繁殖力の違いからよ」
クラン「繁殖力?」
フェア「魔物って、繁殖力がものすごく低いの。同じ種族同士でも子供を作ろうとすると場合によっては数十年単位でできなかったりすることもあるぐらい」
フレイン「だけど、子孫は残したい。だから私たちは人間を交わることを求めているの。ただ、何もせず人間と交わるということもできなくて・・・・」
フェア「魔力の波長がずれてたら子供が作れないのよ。だから【契約】でお互いの魔力を交わらせて波長を合わせるの」
フレイン「そうすることによって契約相手との子供が作れるようになる」
クラン「なるほど、一種の生存戦略か」
そう言われてみれば、魔力を交換する意味もわかる。お互いの魔力を交換し合えば、勝手に魔力の波長が重なっていくのだから。
オーブ「ただし、代償として一度【契約】をした魔物は契約相手としか子供が作れなくなる。だから、【契約】をすることは結婚することと同義なんだ。力の強化なんてただの副次効果だ」
クラン「・・・・・ルルトは、それを」
フレイン「わかっていたわ。魔物は本能的に【契約】を理解している。そもそも異性同士でしかできない上に口づけするのだから気付かない方がおかしいんだけど」
さらっと貶された気がする。確かに気付かなかったけどさ・・・・
クラン「ルルトと契約したのは、6年半ぐらい前か。じゃあルルトは、あの時から・・・・」
フェア「えっ、本当に?子供産む気満々じゃない!あ~、本当に悪いことしたわね・・・・・」
フレイン「まったくよ。ルルトの行方がわからないから、もうどうしようもないけれど」
つまり、あのころからルルトは俺のことが多分異性として好きだったわけで、それを知らないことを言い訳にする気はないが、他の魔物とも契約していいとか考えてた俺って・・・・
クラン「・・・・・もしかして、俺かなりの好色って思われてたんじゃ」
フレイン「事情を知っている私たちならともかく、男一人女複数の旅なんかそういうやつなんだって思われて当然でしょうね」
クラン「だよな~・・・・・とりあえず、ルルトに会ったら誠心誠意謝ろう。許してくれるかはわからないけど、ちゃんと話はしたい」
それからさらに1日経って、俺も完全復活したところでフロウの儀式だけ終わらせた。儀式自体は簡単で、特に問題もなく終わった。
フロウ「おお・・・・すごい!ジャックプロミネンスを使っても手が溶けないし、痛くない!熱くもない!」
エア「おおー!よかったな、フロウ!」
ルー「(#^^#)」
母「・・・・・・では、もう発つのですか?」
クラン「はい。短い間でしたが、お世話になりました」
フレイン「旅を終えた後にまた来られたらいいわね」
クラン「ああ。本当に素敵な場所だったよ」
父「またいつでも来てください。我々はあなた方を歓迎します」
フェア「んじゃ、挨拶もそこそこにして、行きましょっ!ジパングまでは遠いわよ!」
母「・・・・フェア、本当に行ってしまうの?あなたまで行かなくても・・・・・」
フェア「お母さん、私は決めたの。クランについていくって。だって」
ギュッ
フレイン「あ、こら!」
フェア「クランは私の運命の人なんだから!」
クラン「・・・・・そのつもりはないんだけどな」
とはいえ、契約してしまった以上そうも言ってられないのだろう。少なくともルルトとフェア、この二人は受け入れなければならない。
オーブ「・・・・・・・これを持っていけ」ヒュッ
クラン「これは?」パシッ
オーブ「土の精霊、ノームの魂だ。・・・・・フェアのことは任せたからな」
クラン「・・・・・ああ。任された」
フレイン「ふふ、折角だしついでに私とも契約しておく?」
クラン「やめてくれ、契約はもっと慎重に・・・・・ていうか、これ以上する気はない」
サーナさんが知ったらなんと言うだろうか。あの人なら優しく諭してくれそうではあるのだが、今回は事態が事態だけに・・・・
クラン「またしばらくはサーナさんのところに行けなくなったな。少なくとも、ルルトが戻るまでは」
フェア「私は挨拶しておきたいけどね、クランのお母さん」
フロウ「私もっ!私もっ!」
ルー「(・ω・)/」
エア「じゃああたしも!」
ちびっ子たちの無邪気さには本当に癒される・・・・・。さて、そろそろ切り替えて出発するとするか!