東京理科大学総合研究院・生物環境イノベーション研究部門は、2015年から5年間活動した総合研究院・アグリ・バイオ工学研究を礎に、さらなる研究推進のために2020年度から設置されました。これまでの「食」の改革を目指した部門のミッションを引き継ぎながら、「環境」を新たな研究課題と設定しました。生命科学と環境科学と融合させた新しい研究領域を開拓するために、東京理科大学の及び外部の生命系の研究者ならびに環境物理学、大気化学分野における研究者が組織横断型に協力し、従来の環境生物学、進化学、生態学の概念や垣根を壊した学術研究分野の創出と、待った無しの地球規模での環境変化の中で人類の存続に資する新しい技術シーズを構築することを目指しています。
生物環境イノベーション研究部門は、急速に変動する生存圏環境において、我々ヒトを含めた生命が適応、多様化、分子進化するための作用機序を紐解き、地球環境・生態系・生物多様性の保全のための基盤構築ならびに我々の食と健康の改善につながる新規技術シーズの開発を目指す研究部門です。
生物環境イノベーション研究部門では、「環境」をテーマに植物、動物、菌といった様々な生物種の環境適応能力とそれらの作用機序の原点となる分子進化のメカニズムを紐解き、環境変動に直面する21世紀中盤において、生態系・生物多様性の保存(=地球環境/エコシステムの健全化)に資するための斬新な基礎知見を集積させることを目的としています。例えば、国内外の植物研究においては遺伝子組換え技術やNBT(New Breeding Techniques)を活用した環境ストレス耐性植物の開発が進められ、これらの組換え作物の一部は広く栽培・流通されています(https://cbijapan.com)。しかし、ヒトを含めた動物および環境化学に関する環境科学研究では、未だ基礎研究か環境モニタリングの域に留まる場合が少なくありません。すなわち、その背景にある分子・生理機構を明らかにすることで、ヒトや動物の健康や、エコシステムの健全化、自然との共生を目指す技術を開発する研究は非常に少ないのが現状です。本部門では、様々な生物種を研究標的とした生物学者と化学・工学分野の研究者が活発な意見交換・共同研究を推進することで、それぞれの分野の長所を活かし、かつ短所を補い合うことで、国際コンソーシアムとの連携や当該研究分野をリードする研究拠点を形成し、「環境保全」に資する技術シーズを提供します。また、生物の進化や多様性に関する知見は人類の知の財産と言っても過言ではありません。本部門は、東京理科大学の思想ならではの、このような学術的な知の探求にも積極的に挑戦します。
本部門は、「環境適応分野」「分子進化分野」「自然共生分野」の3つのサブグループを形成し、研究を推進していきます。
メンバー:有村源一郎、高橋史憲、西浜竜一、松永幸大、朽津和幸、太田尚孝、出崎能丈、橋本研志、坂本卓也
研究テーマ例:
ミント等のコンパニオンプランツ、生物間相互作用因子(エリシター、揮発性化合物)を用いたダイズ、コマツナ、トマトの有機栽培技術を開発する。
植物の病害虫や環境ストレスに適応するための分子メカニズムを紐解く。
ゲノム編集および遺伝子組換え技術を用いた環境ストレス耐性植物(イネ、ジャガイモ、トマト等)を開発する。
環境要因によるDNA損傷に対応する植物遺伝子を同定する。
環境刺激によって引き起こされるエピジェネティクス変化を検出するイメージング技術を開発する。
酸性ストレスに関与する遺伝子の探索と機能の解析および酸性ストレス耐性植物の作出を試みる。
植物の耐病性・耐虫性(免疫力)を高める新規化合物(植物サプリ)を探索・開発する。
メンバー:田村浩二、古屋俊樹、白石充典、櫻井雅之、岡田憲典、相馬亜希子
研究テーマ例:
すべての生命に共通するタンパク質合成系(tRNA、リボソーム相互作用)の作用機序と進化過程を解明し、人工タンパク質合成の技術開発につなげる。
RNA酵素(リボザイム)の機能解明を基盤とした環境制御システムへの応用。
微生物-植物間相互作用に着目した微生物農薬の開発や微生物・酵素機能を活用した有用物質生産技術の開発に取り組む。
ヒト抗体分子の分子認識メカニズム、ならびに疾患に関わる膜受容体の機能について分子・原子レベルでの解明を試みる。
tRNA成熟過程の解析をもとにした生態系進化の解明。
植物の環境ストレスホルモンであるジャスモン酸のシグナル伝達系に焦点をあてた、下等植物の蘚類ハイゴケにおけるゲノム進化ならびに抵抗性二次代謝産物の生産制御の進化過程を紐解く 。
メンバー:宮川信一、佐竹信一、秋山好嗣、斎藤拓也
研究テーマ例:
環境要因(環境化学物質や温度環境など)が動物に作用する影響の評価手法およびバイオアッセイ系を開発する。
機能性高分子と金属ナノ粒子からなる高次構造体を用いた環境汚染物質の高感度検出技術を開発する。
稲作における高カリウムや高リン酸肥料の施肥や農薬が水田域の両生類の発生に与える影響を解析する。
両生類を用いた水質検査方法の開発を行う。
イネ及びイグサなどの圃場上の風のシミュレーションを行い、植え方や倒伏に関しての予測を行う。
植物由来の揮発性化合物(イソプレン、モノテルペン、メチルブテノール)の高温耐性機能や放出特性の種依存性の要因を解明する