幹細胞とは多分化能と自己複製能を有している未分化な細胞のことを指します。例えば、胚性幹細胞 (Embryonic Stem Cells: ESCs) が幹細胞にあたります。また、成体においても体性幹細胞 (Adult Stem Cells: ASCs) という恒常性維持に重要な役割を果たす未分化な幹細胞集団が存在していることが知られています。興味深いことに、このような「未分化性」を有する細胞は、がん細胞の集団の中にも認められ、こうした幹細胞様の細胞集団ががんの悪性度を規定することが知られています。我々はこれまでに、ASCsからがん化を引き起こした転移性胃がんモデルを独自に開発し、その発がんの分子機序を調べてきました。ASCsから誘導されたがん細胞は未分化な特徴を有していることがわかり、その幹細胞性を制御する責任因子を同定しました。現在、同定因子が新規の分子標的治療薬の創薬ターゲットになり得るかを解析しています。
分化している細胞が未分化性を獲得することを脱分化と呼びますが、人工多能性幹細胞 (induced Pluripotent Stem Cells: iPSCs) への細胞初期化 (リプログラミング) が可能であることが報告されて以来、細胞の可塑性についての研究が進められるようになってきました。我々はこれまでにリプログラミング技術を活用し、マウスにおいて組織再生能を亢進し、個体老化を抑制できる可能性を示しました。この研究成果をさらに発展させるべく、リプログラミングによる影響を分子レベルで調べ上げ、そうした知見を集積し、細胞および個体の「若返り」をもたらすような手法開発を究極の目標として研究を進めています。
MAPキナーゼカスケードは、増殖因子や細胞ストレスなどの刺激によって活性化される細胞内情報伝達系であり、細胞の増殖・分化や細胞機能の制御に重要な役割を果たしてます。私たちは,これらの情報伝達機構を解明するために、MAPキナーゼの標的タンパク質(生理的基質)を探索・同定して解析しています。私たちが発見したMnkはMAPキナーゼによって活性化されるプロテインキナーゼです。Mnkはタンパク質合成の翻訳開始を制御すると考えられており、その活性制御機構や生理機能の解析を進めています。また、CRISPR/Cas9法による培養細胞の多重遺伝子ノックアウト技術を利用して、MAPキナーゼ経路の様々なシグナル分子の網羅的機能解析を進めています。
私たちは、発痛物質であるプロスタグランジンの前駆体であるアラキドン酸の産生に係わるホスホリパーゼA2(PLA2)、細胞のアポトーシスを誘導するセラミドの産生に係わるスフィンゴミエリナーゼ(SMase)、LPA産生などに関わるオートタキシン(ATX)などのリン脂質加水分解酵素を生体から精製、もしくは、大腸菌を用いた発現系を構築して精製し、酵素反応速度論に基づいて種々の実験を行いました。その結果、PLA2はHis48を触媒基とし、SMaseはHis296を触媒基とすることがわかりました。また、それぞれの酵素は、種々の金属イオンによって酵素活性が調節されていることを明らかにしました。このような触媒機構の解明に関する研究を行っています。
抗菌薬のターゲットになる可能性を秘めたイソコリスミ酸合成酵素、健康食品として知らているナットウキナーゼなどの機能性タンパク質を精製し、その酵素学的な特性を調べる研究を行っています。