2021年 3月25日(木)〜 3月26日(金) オンライン( Zoom )開催

アブストラクト講演スライド

 研究会の際の議論を充実させるために、アブストラクトを用意いたします。

中尾 憲一 (大阪市大)

『2020年ノーベル物理学賞:ペンローズ氏の業績について』

2020年のノーベル物理学賞は「Black holes and the Milky Way’s darkest secret」というキーワードで Roger Penrose 氏と Reinhard Genzel 氏、Andrea Ghez 氏の3名に贈られた。このトークでは、Penrose 氏のブラックホールと時空特異点に関連する業績について解説する。

BHM2021-Nakao.pdf

斉田 浩見(大同大学)



『巨大BHの強重力場での相対論検証の現状:PPNアプローチ』



Parametrized Post Newtonian(PPN)の方法で重力理論の検証を実施している。観測量は、銀河系中心の巨大BHの強い重力場の中で運動する星S0-2から届く光の赤方偏移である。重力波で見ようと思うとLISAなど宇宙重力波干渉計が必要なターゲットであるが、光(赤外線)による天文観測なら既に観測できる。現在の測定精度で、1PNオーダーの効果が測れる。そこで、PPN形式の方法で1PNオーダーにおける重力理論の検証(PPNパラメータへの制限付け)を目指した解析を行っている。理論計算と比べる測定データは、我々がすばる望遠鏡で取得したデータと、欧米グループの公開データである。PPN形式に基づく重力理論検証の途中経過を報告する。

BHM2021-Saida.pdf

南部 保貞(名古屋大)

「流体ブラックホールからのHawking輻射の量子もつれ構造」

遷音速流における音速点からは,Hawking輻射と同じメカニズムにより熱分布を持つ輻射が放射されることが指摘されている(analog Hawking radiation).よってBEC等の物性系を用いることで実験室でHawking輻射を検証することが可能である.本講演では流体系におけるHawking輻射の数値シミュレーションならびにHawking輻射とそのパートナー間の量子もつれ構造について紹介する.

吉野 裕高 (大阪市大)

「アクシオン場とブラックホール磁気圏について」

アクシオンは素粒子物理学や超弦理論の文脈で存在が期待されている質量を持つスカラー場である。アクシオンが存在すれば、回転ブラックホールのまわりで超放射不安定によって成長し、重力波放射などの観測可能な現象を引き起こすかもしれない。さらに磁気圏では、磁場との相互作用がアクシオンの成長現象に影響を与える可能性がある。本講演ではこれまで議論されていることを概観し、最近われわれがおこなっている試みについて紹介する。

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孝森 洋介(和歌山高専)



『BZモノポール解の摂動解としての妥当性について』



BZモノポール解はゆっくり回転しているブラックホール周りの定常軸対称force-free磁場の摂動解として知られている。GRMHDのシミュレーションにおいては,BZモノポール解によるBZパワーとシミュレーションの結果を比較するなど,シミュレーション結果をよりよく理解するための物差しとしても用いられている。最近,Grignani et al (2018)において,BZモノポール解の解の存在について議論がなされた。彼らの解析によると,BZモノポール解は遠方でダンプするという境界条件とマッチしない。この発表では,Grignani et al (2018)を紹介し,BZモノポール解の摂動解の妥当性について議論する。

BHM2021-Takamori.pdf

伊形 尚久(KEK)



『高速回転するブラックホールの近傍からの光子の脱出』



ブラックホールの角運動量が臨界値に近づくにつれて、最内安定円軌道(ISCO)の座標半径は、ホライズン半径に近づく。この事実を考慮すると、ISCO上の光源が無限遠から見えるか否か、という問いに答えることは案外難しい。本公演では、この問いに答えるべく、ISCO上の光源から放射された光子の脱出確率や振動数シフトを考察する。最終的に、近臨界ブラックホールのISCOからの光子の脱出確率が50%を超えることや、脱出する光子のエネルギーが青方偏移するという結果を示す。

BHM2021-igata_pw.pdf

瀧澤 奎太 (弘前大)

「ブラックホールによる重力レンズの有限距離の枠組みにおける定式化」

重力による光の曲がりに関する従来の議論の多くは, 天体間の距離が無限遠であるとの近似もしくは極限操作を用いていた. しかし, 実際には天体間の距離は有限であり, 特に, 銀河中心のような, 重力レンズ源がブラックホールなどのコンパクト天体で, 光源がすぐ近傍に位置するようなレンズ系においては, 有限距離の効果が顕著になる可能性を指摘できる. さらに, Event Horizon Telescopeチームがブラックホールの撮影に成功したように, 今後の強重力場における現象の理解はさらに深まることが期待され, より厳密な理論予測のための定式化を与えることは重要である. 本講演では, 銀河中心のブラックホール候補天体をレンズ天体とする系での重力レンズ効果を有限距離の枠組みで取り扱う「厳密な定式化」を論じる. そして, 光の大角度散乱に対する定量的評価も与える.

BHM2021-Takizawa.pdf

西山 正吾 (宮教大) 

「2020年ノーベル物理学賞:銀河系の中心にある大質量コンパクト天体の発見」

2020年ノーベル物理学賞を受賞したR. Genzel、A. Ghezの研究を紹介します。研究は1990年代の3m級望遠鏡から始まり、8m級のKeck、VLTの観測で測定精度が飛躍的に向上しました。単に望遠鏡の口径が大きくなっただけでなく、大気ゆらぎの影響を抑えて空間分解能を上げる技術も発展しました。どのような観測手法でどんな結果が得られ、銀河系中心の大質量天体の発見に至ったのか、また今後はどのような研究が進められるのか、歴史を振り返りながら紹介したいと思います。


BHM2021-Nishiyama.pdf

三好 真  (国立天文台) 

NGC4258の高速水蒸気メーザと大質量コンパクト天体」

1993年、野辺山45m電波望遠鏡の観測から、銀河本体の視線速度に対して±1000km/secの速度差をもつ水メーザスペクトルが銀河NGC 4258の中心部分に発見された。これは中心核大質量ブラックホールの周りを高速回転する分子ガス雲からのものであった。水メーザのVLBI観測から、中心天体の質量が計測され、ブラックホールの有力候補となった話をする。

参照: https://www.asj.or.jp/jp/activities/geppou/item/114-2_129.pdf

BHM2021-Miyoshi4258.pdf

三好 真  (NAOJ/JASMINE Project)



『The jet and resolved features of the central supermassive black hole
 of M87 observed with EHT(仮)』



We report the result of our image reconstruction of the center of the giant elliptical galaxy M87 from the public data released by the Event Horizon Telescope Collaborators (EHTC). Our result is quite different from the image published by EHTC. Differences include (a) we found the jet structure which is consistent with previous lower-frequency observations in the scale of a few mas, while EHTC reported none detection of any jet component, and (b) we did not find any ring-like structure at the core, but just two features with the separation of 89 micor-asec. The two features may be a binary of SMBHs. Further EHT observations are required for identification. We could obtain the ring-like structure similar to that reported by EHTC by limiting the field of view to a narrow box, but which is very fragile. The absence of the jet and the presence of the ring in EHTC result are both artifacts due to their insufficient calibrations and the EHT array's u-v sampling bias effect.

BHM2021-Miyoshi2.pdf

水田 晃 (理研

「ブラックホール降着流シミュレーションのためのGRMHDコードの開発

M87ブラックホールシャドーの観測の報告により、今後10年ほどで活動銀河核ジェットの根元の物理の研究が大きく進展することが期待される。ブラックホール磁気圏の活動性を数値的に実験できるブラックホール降着流のシミュレーションは、今後益々重要となってくる。安定で長時間計算を目指し、3D-GRMDHコードの開発を行っている。その開発状況を紹介する。

野田 宗佑(揚州大学/都城高専)

ブラックホール磁気圏内におけるアルフベン波によるエネルギー伝播について』

回転するブラックホール周辺の磁気圏が角運動量を持っている場合, 磁気圏の角速度とブラックホールの角速度との大小関係に応じて磁気圏によるブラックホールの回転エネルギー抽出が起こる(Blandford-Znajek機構)。実は, この機構はアルフベン波の増幅散乱現象(superradiance)と関係していることがBTZ black string時空における解析により示唆されている [Noda etal, Phys. Rev. D 101, 023003 (2020)]。

本発表では, Kerrブラックホール赤道面近傍のフォースフリー磁気圏内を伝播するアルフベン波を考える。特にアルフベン波のエネルギー・角運動量フラックスを調べて, アルフベン波のsuperradianceの可能性と起こりうる天体現象について議論する。

BHM2021-Noda.pdf

小出 眞路(熊本大学)



『自転するブラックストリングまわりでのアルベン波によるエネルギー引き抜きの
1次元フォースフリー磁気動力学シミュレーション2』



自転するブラックホールのまわりにおいてアルベン波による「超放射」(superradiance)は起こらないと思われていた。しかし、これは波長の短い極限で示されているだけで、有限の波長を持つアルベン波では超放射が起こる可能性がある。実際、S. Noda, Y. Nambu,T. Tsukamono, M. Takahashi (2019)は有限の長さの波長を持つアルベン波では超放射が起こることを線形解析により示した。さらに、S. Nodaら(2019)はこのアルベン波の超放射はBlandford-Znajek機構とも関係することを明らかにした。われわれは、S. Nodaら(2019)によって示されたアルベン波による超放射の存在を確かめるために1次元フォースフリー磁気動力学(FFMD1D)の数値シミュレーションを行っている。FFMD1Dによる追試の結果について、講演で述べる。

BHM2021-Koide-pw.pdf

吉田 至順(東北大学)

『強いトロイダル磁場と弱いポロイダル磁場を持った相対論的な星』

中性子星は強い磁場を伴う一般相対論的なコンパクト星として知られている。中性子星の磁場構造は、放出される電波パルスや付随する高エネルギー現象と深く結びついていて、非常に重要で興味深い問題である。しかし、今のところ、観測から得られる情報は非常に限られている。特に、中性子星内部に於ける磁場の構造に関する情報は全くない。その一方で、重力崩壊の数値シミュレーションで作られる原始中性子星の磁場構造を見るとトロイダル磁場が支配的となっていることが分る。これは電磁流体の差動回転による磁力線の巻き込みを考えると道理にかなっている様に思われる。しかし、これまでの求められている磁場星の平衡解では、このようなトロイダル磁場が支配的となっている解は知られていない。そこで、本研究では、数値シミュレーションで求められている様なトロイダル磁場が支配的でかつポロイダル磁場がゼロではない解を求めるための定式化行い、例として幾つかの具体的な数値解を求めた。中性子星に典型的な磁場の大きさでは、磁気エネルギーは重力エネルギーに比べて非常に小さいため、磁場は静的球対称の磁場がない平衡解についての摂動として扱った。

BHM2021_SYoshida.pdf

高橋 真聡 (愛教大)

「M87 ブラックホール磁気圏と宇宙ジェット」

ブラックホール磁気圏における遷磁気音速流の定常解について考察する。ブラックホール磁気圏には、磁力線の回転による遠心力とブラックホールによる重力が釣り合う領域(separation surface)が存在する。この領域の内側では重力が勝り内向きの降着流が生じる。一方で、その外側では遠心力が勝り外向きの流れ(宇宙ジェット等)が発生することになる。このとき Separation surface の周囲には、内向きの流れと外向きの流れの湧き出し口(プラズマ源)が求められる。プラズマ源から低速で放出される内向きおよび外向きの流れは、アルフェン波や磁気音波の速度を超えて、ブラックホールに降着するあるいは宇宙ジェットをを形成するが、そのモデルとして遷磁気音速定常解を適用する。この定常解には流線(磁力線)に沿っての4つの保存量(全エネルギー、全角運動量、粒子数フラックス、磁力線の角速度)が存在するが、解に求められる境界条件からの制限や観測データ(VLBI による M87 jet の観測)とのフィッティングを試みることで、保存量への制限を明らかにし、ブラックホール磁気圏におけるプラズマ流のパラメータ依存性を探る。また、プラズマ源への制限についても考察する。

BHM2021-Takahashi.pdf