バクチャーの安全性と環境リスク

バクチャーの大量使用によりメダカが死ぬ

バクチャーグループ公式の「バクチャーパウダーのヒメダカによる96時間急性毒性試験」では、バクチャーの濃度 1,190 mg/Lで96時間以内にヒメダカが全滅した。なお、96h-LC50(溶解した状態の化学物質に曝露された生物の50%が96時間以内に死亡する濃度 )は、614 mg/Lである。

バクチャー製造には劇物である硫酸銅が使用されている。

特許文書によると、バクチャーは火山礫と黒土を硫酸銅で酸化処理することにより作られている。硫酸銅は劇物であり、強い滅菌、殺虫能力を持つため、農薬や防腐剤にも使われている。国連環境計画(UNEP)、国際労働機関(ILO)及び世界保健機関(WHO)の協力のもとで運営されている国際化学物質安全性計画(IPCS)によると、「水生生物に対して強い毒性がある」食物連鎖において、たとえば魚類で生物濃縮が起こることがある」「環境中に放出しないように、強く勧告する 」とされており、ヒメダカの96h-LC50は、0.476 mg/Lである。

バクチャーには異常な量の銅が含まれている。

バクチャーの成分分析表から、硫酸銅では説明のつかない量の銅原子(Cu:1.63%)がバクチャーに含まれていることにが分かる。硫酸銅(CuSO₄)の化学式から、CuとSは1:1の割合であり、Cuの原子量は63.546、Sの原子量は32.065であるので、おおよそ2:1となるべきだが、実際はおよそ32:1の割合で含まれており、非常に不自然である。バクチャーの酸化処理は10 Lに硫酸銅4570 gを溶解させた硫酸銅溶液を、適宜割合の火山礫と黒土との混合物に容量比で1.52.0倍程度加えて行うことから、Sの量は妥当な量であり、Cuの量こそが異常に多いと言える。

1.63%というと一見大したことないようにも思えるが、バクチャー1 kgあたり16.3 gである。一般的に銅は土壌中に微量存在する。当然、土壌により差はあるだろうが、一例としての土壌中の銅濃度は20 mg/kgである。これと比べるとバクチャーには815倍もの銅が含まれている。また、農用地汚染防止法では、田んぼの土壌に含まれる銅の量土壌1 kgにつき125 mgを限度としているが、バクチャーの銅含有量は130倍である。

バクチャーが土、炭素、少量の硫酸銅から製造されていることを考えると、異常な量の銅が含まれていると言わざるを得ず、意図的に銅が添加されている、または銅を異常に多く含んだ土が使われていることが分かる。「バクチャーは銅に汚染された汚泥を硫酸銅で隠蔽して全国にばら撒いて分散廃棄するために存在するのではないか」という疑念が脳 裏をよぎった。
そもそも特許によると、硫酸銅を使う理由は火山礫と黒土を酸化処理するため、とのことであるが、硫酸銅の酸化力は強くなく、酸化処理をするのであれば、一般に酸化剤とされている(酸化力の強い)物質を使うべきであろう。

重金属である銅は、動植物必須微量元素である一方で、過剰摂取により毒性を示す。特に水生生物、その中でも藻類や微生物、無脊椎動物(甲殻類や軟体動物など)には銅イオンが強い毒性(殺菌作用)を示す。IPCSによると、「長期的影響により、水生生物に非常に強い毒性 」「食物連鎖において、生物濃縮が起こることがある 」とされている。硫酸銅以外の化合物の一例としては、酸化銅(I)のゼブラフィッシュに対する96h-LC50は75μg/Lである。銅による人体や環境への悪影響を防ぐため、以下のような規制や基準が存在する。

  1. 水産用水基準

  2. 農業用水基準

  3. 水道水質基準

  4. 水質汚濁防止法

  5. 下水道法

  6. 農用地汚染防止法

その中でも、水産用水基準と農業用水基準を確認してみよう。以下では、バクチャーを用法用量通り使用した水を「バクチャー使用水」と呼ぶこととし、バクチャー濃度は30 mg/Lであり、銅濃度は0.489 mg/Lとなる。バクチャーグループは、バクチャー使用水を「活性水」と呼んでいた。また、その銅濃度は0.060000 mg/Lと公表していたので、この値をバクチャー使用水に溶出した銅濃度とする。

なお余談ではあるが、「活性水」は一般的な用語ではなく、様々な使われ方をしているとともに、トラブルのあった用語である。Wikipediaで検索すると、「磁気処理水」に転送されるが、同ページによると、磁気処理水には取扱業者が謳う効用がないと国民生活センター及び東京都が指摘し、公正取引委員会が景品表示法違反により排除命令を発した。
これまた余談ではあるが、かつて「水質浄化活性液バクチャーM」という商品が販売されていた。名前とは裏腹に、この商品自体には浄化能力がない。また、ラベルにはなぜか「Back to the future」と書かれている。

バクチャー養殖の銅濃度は、水産用水基準を大きく超える

バクチャーは、ウナギやアワビの養殖、飲食店のイカの生け簀に使われており、バナメイエビの養殖も試しているようである。法的規制ではないが、公益社団法人 日本水産資源保護協会が定める水産用水基準がある。

水質の銅の基準値は、淡水域で0.0009 mg/L、海域では検出されないこと、となっている。バクチャー使用水に溶出する銅濃度は0.06 mg/Lであるので、淡水域基準の約67倍の量となり、海域の基準もゆうに超えていることになる。

底質についても基準があり、水質基準の十倍を下回ること、と定められている。つまり、底質の銅基準は淡水域で0.009 mg/L、海域で検出されないこと、となる。養海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に定められた溶出試験方法があり、バクチャーは無機性であるので、水を加えた混合液(単位ミリリットル)と固形物(単位グラム)の重量体積比3%とした試料液で検査することになる。つまり、バクチャーの濃度は、0.03 g/mlであり、これは30,000 mg/Lである。銅の含有率は、1.63%なので、銅の含有量は、489 mg/Lである。溶解していない銅は約88%で、429 mg/Lとなる。これは基準のおよそ47,667である。

また、懸濁物質(水中に浮遊し、水に溶けない固体粒子をいい、沈殿物も含まれる。)についても基準があり、人為的に加えられる懸濁物質は、河川で5 mg/L以下、海域で2 mg/Lである。バクチャー使用水のバクチャー濃度は30 mg/Lであり、バクチャーが全く水に溶けないとすると、それぞれ基準の6倍、15倍となる。

なお、底質と懸濁物質については浄化槽を区切っていれば問題ない。

バクチャーの銅濃度は、農業用水基準を超える

これも法的な基準ではないが、農林水産省が水稲を対象に農業用水基準を定めており、銅の濃度は0.02 mg/L以下となっている。バクチャー使用水に溶出する銅は0.06 mg/Lであり、基準の3倍である。また、溶出していない銅も含めると、0.489 mg/Lとなり、24.45倍となる。

銅の水生生物に対する毒性に関する参考文献