バクチャーの水質浄化能力は、以下3つの機能による。
多孔質素材*の外表に微生物を住まわせ、汚濁物質を分解させる(いわゆる生物膜法)
多孔質素材*による汚れの吸着
銅による殺菌
1番から順に確認していこう。
この機能は、生物膜法として排水処理の世界で広く知られている。微生物を住まわせるものは担体と呼ばれるが、以下のように多様な素材が担体として利用されている。
砂、石、礫、砕石
セラミック
ゼオライト
プラスチック
炭
アンスラサイト(無煙炭を破砕したもの)
シュロ(ヤシ科植物の皮)・ヨシなどの繊維質
死骸サンゴ
牡蠣殻
興味深い事例としては、ヤクルトの容器が利用されている。1970年代初期に考案され、現在はヤクルトのグループ会社によりシステム化されているという。(鹿児島県の紹介ページ、佐賀大学農学部の染谷孝助教授による解説)
以上の通り、生物膜法はバクチャーに限った機能では決してない。
また、活性炭、砂、アンスラサイトの比較であるが、「生物活性炭における活性炭と微生物の相互作用に関する研究」によると、活性炭では8~10時間で目視によって細菌の付着が確認されたものの砂及びアンスラサイトでは細菌の付着が確認されるまでに1~8日かかった。しかし、最終的には活性炭、砂、アンスラサイトに付着した細菌数に違いがなかったことも合わせて示している。よって、活性炭に即効性が認められたものの、長期的には素材による差はあまりないと考えられる。
多孔質素材には吸着作用がある。細孔が細かいほど吸着能力が高く、細孔が細かい順に、ミクロポア、メソポア、マクロポアに分類される。例えば、活性炭はミクロポアであり、軽石はマクロポアである。(火山砕屑物はサイズによる分類と色、成分、成因等による分類 があり、火山礫は前者による分類、軽石は後者による分類である。)よって、バクチャーはマクロポアレベルの吸着能力しかなく、ミクロポアの活性炭などには圧倒的に劣る。
なお、バクチャーグループは、吸着剤に対しては否定的である。
バクチャーの安全性の考察部分で述べた通り、重金属である銅には殺菌作用がある。バクチャーには多くの銅が含まれているため、バクチャーグループの主張通り、アオコや珪藻の除去、魚の病気の予防、水の防腐などの効果が期待できる。かつてはバクチャーの殺菌効果は商品ページに明記されていた上、注意事項として、重金属除去剤を使用しないように表記されていた。しかし、これは銅の有害性の裏返しであり、銅は藻類や微生物以外にも有害であり、特に水生生物、その中でも無脊椎動物に対して強い毒性を示す。これは魚などに対して問題があるだけではなく、微生物を活性化するというグループが主張する1番の生物膜の効果と相反するため、現在は殺菌効果については一切触れられていない。また、殺菌作用のあるものとバクチャーを併用しないように注意喚起しているが、バクチャー自体が殺菌作用を持っているのである。
バクチャーは1年に一度、交換する必要がある。しかし、1番の生物膜法は、生物膜が主役であるので、交換する必要はないし、生物膜を再度形成する時間が必要なため、交換しない方が良い。交換する必要があるとすれば、2番の汚れの吸着や3番の銅による殺菌のためである。汚れの吸着については、一度細孔に汚れなどが吸着してしまうと、細孔が塞がるため、それ以上の効力を発揮しないためである。銅については、殺菌作用が水に溶出した銅イオンによるためである。水槽などで換水していない場合は別であるが、排水により銅イオンも失われてしまう。
以上から、微生物を活性化させたいのであれば、バクチャーは交換しない方が良い。商業的な理由で不要な交換を勧めているのではないとすると、バクチャーグループの宣伝広告に反して、バクチャーの水質浄化効果が微生物の活性化によるのではなく、吸着作用、殺菌作用によるためとしか考えられない。そうであれば、わざわざ炭素を添加していることも、あえて硫酸銅を使用していることも、なぜか硫酸銅で説明のつかない量の銅が含まれていることも、納得がいく。
公式の説明書によると、バクチャー散布前に、「池の水を全部又は 2/3 以上抜き、たわしなどで掃除をしてください。 」、「水の色が透明になるまで、数回の水換えが必要な場合があります。 」とある。掃除をして、透明になるまで水を換えているのだから、水が綺麗になるのは当然である。しかし、この認識がなく、以下のような劇的なビフォーアフター写真を見せられ、バクチャーに驚異的な効果があると誤解している人が多いのではないかと思われる。
この報告書によると、バクチャー普及研究協議会およびRBCコンサルタントの指導のもと、バクチャー散布前に掃除をし、水を2/3入れ替え、ポンプを導入したにも関わらず、残念ながら「当初想像したような綺麗な水を維持または、綺麗 な水に改善していくまでには至らなかった 」