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筋電義手

図1.使用イメージ

目次

概要

背景


義手を使用している障碍者の方が日常生活でどんなことに困っているか話を伺った。そこから魚をしっかり固定することができないため、体に大きな負担がかかり、魚を捌くことが難しいことがわかった。また、義手を装着しているとき、障碍者はのに触れている感覚がわからない。そのため、物をさえたつもりでも固定できているか、周りの人や物に義手がぶつかる不安が日常生活での問題点だと分かった。そこで本チームは、魚を捌く際に魚を押さえやすく、触れた感覚をフィードバックできる筋電義手の作製を行うことにした。

達成目標

本チームが作製した義手を被験者の方に装着してもらい、以下の3点を達成目標とする。

  • 作製した義手が魚をしっかり押さえることができる

  • 物にふれているとき、圧力センサーからの信号から振動モーターを動作させ、触覚のフィードバックを行うことができる

  • 義手に超音波センサーを取り付け、周囲の人間や物の存在をブザーで伝えることができる

製作物について

図2 製作した筋電義手

魚を捕らえる鳥の趾(あしゆび)を構造のモデルとした。鳥類の中で、主に猛禽類がこの趾を使って魚を掴み、固定することができる。その際に、える向きを四方からにすることで、均等に力が加わり安定して魚をつかむことができているのではと考えた。そのため、一般的な5本指の義手ではなく、魚を押さえることに特化するため4本指の機構にした。 

図3.魚を捕らえる鳥

図4-1.筋電義手で魚を押さえるイメージ




図4-2.筋電義手で魚を押さえるイメージ

義手のシステム

図5.筋電義手の構成

①電極

 使用者の前腕欠損部付近の筋電位を計測する。計測する筋電位は、「手を握る・開く」「指を横に開く・閉じる」動作をしたものを使用する。

②筋電位計測回路

電極から読み取った微弱な信号を増幅し、フィルタによってノイズを除去し、整流平滑化をするために半波整流、積分の処理を施す。

③電源入力(バッテリー)

小型化のために、携帯可能なバッテリーから電源を供給する。

④サーボモーター(2個)


圧力センサー・振動モーター

指の先端に圧力センサーを装着し、ものをつかんで指の先端圧力を測定したら、センサーが反応し、振動モーターで使用者の装着部を振動させ、使用者につかんだことを知覚させる。


超音波距離センサー・圧電ブザー

超音波を発して、返ってくる時間により対象物との距離を計測する。またその時の距離がある一定の距離以内であった場合電子ブザーを鳴らすことで、義手が衝突する危険性があることを知覚させる。

Arduinoでの処理内容


2つのモーターの制御

①2種類の筋電位を測定し、筋電回路で処理した信号をそれぞれArduinoに入力する。


② ①の信号(0から5V)がArduinoへ入力され、その信号をサンプリング周波数下でAD変換(1秒間で約1000回)をそれぞれ行い、2つの平均値を求める。


③2つの平均値が任意で決めた2つの条件を満たしているかそれぞれ判定し、

条件を満たすと、[状態1]のときは[状態2]へ[状態2]のときは[状態1]へ遷移する。

初期状態は[状態1]

1つ目のサーボモーター [状態1] +135度 [状態2]+73度

2つ目のサーボモーター [状態1] 135度 [状態2] -19度

サーボモーターの可動域は-135度から+135度

製作物の動作

図6 筋電義手裏面 カバーあり

図7 筋電義手裏面 カバーなし

(閉じた状態)

図8 筋電義手装着


図9 横に開いた状態

 はじめに、使用者の前腕欠損部付近に筋電位計と義手を取り付けたソケットを装着する。ソケットには義手以外にサーボモータと超音波距離センサを配置している。

 義手では、握る動きと隣り合う指との間隔を変える2種類の動作を実現させる。使用者がすべての指を曲げる・親指を曲げる動作をしたときの筋電位により、2個のモーターが動作する。

図10 握った状態

実験

実験方法

 今回製作した義手を被験者に装着してもらう。義手を用いて魚(鯖)を三枚おろしにしてもらい、その時、義手がしっかりと魚を押さえていたかを確認する。それと同時に、義手が魚を押さえている際、振動モーターによる触覚のフィードバックがあるか確認する。また、筋電義手装着時と無装着時でそれぞれ魚をさばくのにかかった時間を計測する。計測はそれぞれ「筋電義手が魚に触れたとき」・「前腕が魚に触れたとき」を開始とし、どちらも「魚を捌き終わり、まな板に3枚おろしにされた魚のみが置かれているとき」を終了とする。

 そして、実験終了後に、被験者に”ものを掴んだ感覚”が得られたか、義手を使った際の疲労感をアンケート形式で尋ねる。


握る.mp4

動画1 筋電義手で魚を握っているようす

義手でつまめない.mp4

動画3 実験の様子

超音波距離センサー3秒.mp4

動画5 超音波距離センサー

義手なし握る.mp4

動画2 義手無装着時

魚をしっかり押さえているところ.mp4

動画4 義手装着時

実験結果・考察

 捌くのにかかった時間は、それぞれ以下のとおりである。

筋電義手装着時:2分38秒

   無装着時:1分39秒

 筋電義手装着時よりも、無装着時のほうが1分程度早く魚を捌けることがわかった。この差は、動作説明後を行ってから1回目の魚の処理であったため、実際に魚を扱うときどのように動くのかを確認していなかったのが要因の一つであるといえる。そのため、1回だけでなく2~5回程度筋電義手を用いて捌くことで、装着時の時間が短縮されると考える。

 また、実験結果と被験者へのアンケート結果から、以下のことがわかった。

(良かった点)

  • 無装着時と比べて滑らずに魚を押さえることができた

  • 魚をしっかり押さえることができ、義手が体に密着していたことから、体への負担が軽減された。そのため、魚を捌く際の疲労感は義手を着けていたほうが少なかった

  • 手掌部が3分割されていることで、押す力を書けると魚にフィットした


(悪かった点)

  • 想定外の動作によって筋電位が計測され、被験者が意図しない動きをすることがあった

  • 手掌部の中心が長いことで義手全体のサイズが大きくなり、多様なサイズの魚には対応しにくい

  • 指の曲がる根元が遠いため、根元の力が弱まってしまい、魚をめくるときにつまむ動作がうまくいかなかった

  • つまむ動作がうまくいかなかったために、魚の身の確認がしにくかった(骨の位置など)


 以上のことから、目標であった「魚を押さえること」は成功したといえる。しかし、圧力センサーが装着している箇所と、魚を押さえている箇所が異なることが原因で握った感覚のフィードバックがうまくできなかったのではないかと考える。


現状の問題点・今後の展望

現状の問題点

  • 糸を巻き取る量と送り込む量に差があるため、糸をうまく巻き取ることがでいない

  • 義手が大きいため、特に小さい魚を捌くのが難しい

  • 実験中圧力センサーによる触覚のフィードバックがうまくいかなかった

  • 義手の指先が滑りにくい構造ではなかったので、魚をつまむといった動きができなかった

今後の展望

  • 特に手掌部の大きさを小さくすることで、様々なサイズの魚に対応できるようにする

  • 圧力センサーを場所を指先だけでなく手掌部にも設置する