九州地方

九州大学

有機宇宙地球化学研究室「有機物の起源を探る」

寄稿者 : 宗石啓輔さん

【有機宇宙地球化学研究室について】

有機宇宙地球化学研究室は、九州大学理学部地球惑星科学科及び九州大学理学府地球惑星科学専攻に属する研究室です。研究室は、九州大学のメインキャンパスである伊都キャンパスにあります。本研究室が所属する理学部は2016年に移転を完了したばかりなので、建物や設備は新しく、とても綺麗です。近くには海や山が広がり、自然あふれるキャンパスです。静かな、落ち着いた環境で研究に取り組むことができます。

有機宇宙地球化学研究室には3名の先生方がいらっしゃいますが、その中でも特に奈良岡浩 先生がアストロバイオロジーに関連した研究をなさっています。研究内容は主に“地球外物質 (隕石など)の有機物分析とその起源の解明”です。地球上の生命は炭素を主な成分とする物質である“有機物”からできています。では、最初の生命のもととなった有機物はどのように合成されたのでしょうか?もちろん、地球上で有機物が合成された可能性もありますが、宇宙で有機物が合成され、それが隕石などにより地球上にもたらされたという仮説もあります。隕石の中でも特に始原的な炭素質隕石には多くの有機物が含まれており、私たち生物が用いているアミノ酸や、DNAに含まれる核酸塩基も見つかっています (Butron et al., 2012; Glavin et al., 2018)。それらが地球上にもたらされ、生命誕生に使われた可能性があるのです。そのため、地球外物質を分析することで、宇宙にはどのような有機物が存在し、それらがどのように合成されたのかを知ることが、生命の起源を解明する手掛かりになるかもしれません。本研究室教授の奈良岡先生は、貴重な隕石試料の分析を積極的に学生に経験させてくださり、それが新たな隕石アミノ酸のグループの発見にもつながりました (Koga & Naraoka, 2017)。そして、本研究室では世界でもトップクラスの分析装置が揃っており、隕石有機物を研究する上でこの上なく素晴らしい環境となっています。さらに、隕石の他にも、2019年11月に小惑星リュウグウを出発したはやぶさ2が地球へと持ち帰ってくるサンプルも、本研究室で分析予定であり、どのような有機物が含まれているのか、私自身もワクワクしているところです。その他にも、隕石の元となった天体を模擬した実験や、隕石に含まれる有機物と隕石を構成する鉱物にどのような関係性があるのかを調べる研究も行っています。広大な宇宙に生命の起源を求める、とてもロマンあふれる研究だと思います!


【奈良岡先生との出会い】

私が高校生の時に、福江翼さんが書かれた「生命は、宇宙のどこで生まれたのか」 (祥伝社新書)という本と出会い、その本で初めてアストロバイオロジーという学問があることを知りました。私たち生き物には一つの起源 (共通祖先)があり、それを解くカギは宇宙にあるかもしれないという内容に感銘を受け、心がワクワクしたのです。そこで、アストロバイオロジーを学べる大学について探すと、九州大学理学部地球惑星科学科を見つけました。受験勉強の末、やっとのことで入学できたのですが、当時は“こんな研究がしたい!”という具体的な目標はなく、“宇宙”や“生命の起源”に関することがしたいなぁとぼんやりと考えていました。そして学部一年生のとき、研究室紹介で、奈良岡先生から詳しい研究のお話を聞き、自分の興味がある分野はここだ!と感じたのです。その後も学部の講義を通して奈良岡先生のお話を聞くことがあったのですが、どのお話も興味深く、ますますこの研究室に入りたいと思うようになりました。そして学部4年生で有機宇宙地球化学研究室への配属を叶えました。これまで研究を通して、宇宙化学に触れることができ、充実した日々を送っています。


【有機宇宙地球化学研究室の受け入れ体制】

有機宇宙地球化学研究室は九州大学理学府地球惑星科学専攻、及び九州大学理学部地球惑星科学科に属しています。学部からは、地球惑星科学科に合格し、その後の研究室配属で、学部4年生から本研究室に配属されれば、卒業研究から参加することができます。また、大学院から入るためには地球惑星科学専攻の入試に合格する必要があります。院試の情報は地球惑星科学専攻のHPを参照してください。また、研究内容については、研究室のHPに詳細な情報が掲載されているのでご覧ください。

地球外物質のサンプルは非常に貴重で、研究したいと思ってもなかなか簡単に研究できるようなものではありません。有機宇宙地球化学研究室はそのような貴重な経験ができる数少ない研究室です。宇宙化学に興味がある人、宇宙における生命の起源に興味がある人はぜひ、本研究室へお越しください!

鹿児島大学

地球外知的生命探査 (Search for Extraterrestrial Interigence: SETI)

寄稿者: 宇野友理さん

初めまして、鹿児島大学修士課程を卒業した宇野友理と申します。アストロバイオロジーが学べる大学のひとつとして鹿児島大学を紹介したいと思います。まず、どうして私が鹿児島大学へ進学したかをお話しします。私はもともと東京の私立大学に通っていました。そこで電波天文学が専門の先生から地球外知的生命探査(SETI)について教わりました。SETIは簡単に言うと「宇宙人探し」の研究です。私がSETIを知ったとき、私は学部の3年生でした。つまり、進路を決める大切な時期でしたが、私は「宇宙人探し」というパワーワードを前に為す術なく、研究の道を選びました。私の宇宙人探しが始まります。


Wikipediaで地球外知的生命探査のページ (日本語)を開くと、そこには「日本人によるSETI観測」という項目があります。そこで私は指導教官のお名前を拝見し、メールでコンタクトを取りました。幸い学生を募集中であり、その後指導教官の研究グループがある鹿児島大学理工学研究科物理・宇宙専攻(現:鹿児島大学理工学研究科理学専攻物理・宇宙プログラム)に進学しました。


現在日本にSETIを専門としている研究グループはありません(筆者が知る限り)。SETI研究者になるための一番の近道はSETIの研究グループがあるアメリカの大学(UC Berkeley, UCLA, Penn State University, Harvard Universityなど)に留学することです。しかしながら、アイデア次第で日本でもSETI研究またはその関連研究を行うことが可能です。そこで鹿児島大学ではどのようなSETI関連研究ができるのかを3つのポイントに絞り紹介したいと思います。

  1. 3D天の川銀河地図の作成を目指す、電波望遠鏡群「VERA」の運用に参加できる

  2. 世界最大の電波望遠鏡計画Square Kilometre Array(SKA)と繋がりがある

  3. アストロバイオロジーの集中講義がある


【3D天の川銀河地図の作成を目指す、電波望遠鏡群「VERA」の運用に参加できる】

VERAは全国4ヶ所に設置された直径20mの電波望遠鏡群です。それぞれ遠く (数千km)離れた複数の電波望遠鏡を1台の大きな電波望遠鏡に見立てる技術を超長基線電波干渉計 (VLBI)と呼びます (世界初のブラックホール撮像にも使われた技術です)。VERAプロジェクトでは、VLBI技術とVERAに備わっている特殊な2ビーム機構を合わせた天体の位置測定による高精度の3D天の川地図の作成を目指しています。


宇宙人からの信号を専門用語ではテクノシグネチャー (technosignature)と言います。テクノシグネチャー探索には主に電波観測技術が使われます。鹿児島大学は国立天文台水沢VLBI観測所が管理するVERA電波望遠鏡群のうちの1台が置かれている入来局観測所の運用をしています。この運用に参加することでテクノシグネチャー探索に必要な電波観測技術を身につけることができます。


【世界最大の電波望遠鏡計画Square Kilometre Array (SKA)と繋がりがある】

宇宙には数兆個の銀河があり、それぞれの銀河には数千億個の星があると言われています。宇宙にこれだけ沢山の星がある一方で、宇宙人が見つからないのは可笑しいと言った人が居ます。イタリアの物理学者、エンリコ・フェルミです。彼の名前をとって、宇宙人の確からしさに対して彼らの存在が確認できていない現在の状況を「フェルミ・パラドックス」と呼びます。このフェルミ・パラドックスに対する一つの答えが「私たちはまだ宇宙人を見つけられるほどの技術を持っていないから」です。SKAは世界最大の電波望遠鏡計画で、30光年先の航空レーダーの信号が受信できるほどの高感度を獲得する予定です。SKAの完成により、私たちはやっと宇宙人からの信号を受信できるほどの技術が得られるかもしれません。


鹿児島大学は日本がSKA計画に参加できるように天文コミュニティに働きかけを行なっており、その活動に関連してSKA計画の中心的な研究機関の一つであるInternational Centre for Radio Astronomy Research (ICRAR, 西オーストラリア)と繋がりがあります。私は大学の語学研修制度を利用してICRARに10週間滞在する機会に恵まれました。ICRARでは、テクノシグネチャー探索の鍵を握る深層学習を利用した自動電波源検出技術を学びました。また週末には現地の学生と色々なスポーツをしたり、ピカチュウのモデルと言われるクウォッカの住む島に訪れたりと研究・生活面の両方で充実した日々を送りました。


【アストロバイオロジーの集中講義がある】

宇宙コースの特色として、博士前期課程の学生向けに「宇宙生命学特論」というアストロバイオロジーの集中講義があります。私が受講した年の講義は主に2つのテーマに分かれて行われました。まず宇宙専攻の教員達による生命の起源やハビタブルゾーンについて、次に医師学総合研究科からお招きした先生達による宇宙医学についてです。その授業の中で特に私が面白いと思った内容は宇宙医学に関するネムリユスリカの研究です。ネムリユスリカはアフリカ大陸に生息する昆虫です。ネムリユスリカの幼虫は極的環境に強く、乾燥した状態(含水率が3%程度)でも生存できます。ちなみに人間は13~14%の水分を失うと生きられません。また、何度も乾燥と蘇生を繰り返すことが可能で、乾燥後、最長で17年間経過した後も蘇生ができます。更に、ネムリユスリカは乾燥状態のまま常温で保存ができます。


ネムリユスリカがとても興味深い理由のひとつは、ネムリユスリカの乾燥状態から蘇生できるという特徴が、将来的に長期宇宙旅行の課題克服への切り口になる可能性があるからです。火星移住計画を例に取ります。地球から火星までロケットで約500日掛かると言われています。そのような長期間をロケットの中という閉鎖空間で過ごすことは人にとって大変なストレスなので、火星に着くまで眠ることにします。ここで、人が眠っている間もロケット内の環境を人に適した状態で維持し続けなければならないでしょうか?答えはNoです。もし人がネムリユスリカのように乾燥状態から蘇生することができれば人が眠っている間、人をそのまま宇宙空間に放り出すことも可能になります。先行研究によると宇宙空間は真空で酸素がほとんどなく酸化を免れる為、むしろ宇宙空間の方が生命の維持には好条件だそうです。このように、普段の天文学的観点からは想像もつかないような研究のアイデアに触れることができ大変刺激的でした。



最後に鹿児島の生活についても紹介したいと思います。大学から鹿児島市で一番大きな駅である鹿児島中央駅まで一生懸命に自転車を漕いで10分と、大変利便性が良いです。白熊、黒豚、鳥刺し、鰹、まぜそば、スリランカカレーと美味しい食べ物がたくさんあります。鹿児島の人はとても優しく親切です。家賃も比較的安く、大学近くにはジムとプールが有り、それぞれ1回200円と300円で利用ができ、QOLが高めです。また、市内のどこからでも美しい桜島を眺めることができます。

以上のように、鹿児島大学は主に天文学的アプローチによるアストロバイオロジーの関連研究ができる可能性のある大学です。この記事によって鹿児島大学の魅力が伝えられたら大変嬉しく思います。最後までお読みくださりありがとうございました。


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