関東地方

東京大学

市橋研究室 「人工細胞を用いた生命の起源と進化の解明」

寄稿者 : 萩野勝己さん

はじめまして!東京大学総合文化研究科修士課程1年の萩野勝己と申します。私の所属する市橋研究室の紹介をさせて頂きたいと思います研究室選びの参考や自宅学習の暇つぶしになれば幸いです。

市橋研究室について】

市橋研は東京大学総合文化研究広域科学専攻に属する研究室です。研究室は教養学部のある駒場キャンパスの隣にある駒場リサーチキャンパスにあります。渋谷や下北沢が近く、仙台の山奥キャンパスからきた私には全てがキラキラして見えます。

研究内容はざっくり言うと“人工細胞を用いた生命の起源と進化の解明です”。生命の起源と進化は未だに分からないことだらけです。現在立っている一番有力な仮説は原始地球のどこかで自己複製可能な分子(RNAなど)が誕生し、それが進化を経て現在の生物になったというものです。しかし、このような生物の誕生を再現した人は誰もいません。その理由のひとつに現存する生物があまりにも複雑すぎることが挙げられます。現在、培養可能な最も単純な生物であるマイコプラズマでも500以上の遺伝子を持っており、Craig Venterが開発した最小ゲノムを持つ人工細胞でも473個もの遺伝子が必要です(Gibson et al 2010)。こんな複雑なものがいきなり出現し得ないのは想像に難くないはずです。つまり、もっと単純な生物のような振る舞いをする分子が存在したはずです。そこで当研究室では限りなくシンプルな人工細胞モデルを実験室内で作製し、進化させてみる事で生命の起源と進化の謎を解明しようとしています。この実験手法を用いて、翻訳タンパク質を栄養として与えるだけで自己複製し進化するRNAを持った人工細胞モデルの開発に成功しています(Ichihashi et al 2013) 。そのほかにもシミュレーションによる模擬進化実験や自己複製DNAの構築 (私のテーマ)なども行なっています。めちゃめちゃ面白くないですか?

【市橋先生との出会い】

私は東北大学農学部で応用生物化学を専攻していました。この学科では微生物や植物を用いて産業に関わるような研究を中心に行なっていました。生物に関わる何らかの研究をしたいと考えていた私にとってこの学科での学びはとても刺激的でした。しかし、学年が上がるにつれて最新の分子生物学的手法を用いてもっと基礎的な研究をしたいと考えるようになりました。

ある晩、いつものようにベッドに寝そべりTwitterで情報を漁っていたところJAMSTECの高井研先生がKeio Astrobiology Campの宣伝をツイートしていました。これを見た私は春休みの暇つぶしにはなるかと参加を決めました。これが私とアストロバイオロジーとの最初の出会いです。しかし、この合宿は暇つぶしどころか私の心の全てを奪い去りました (カリオストロのルパンばりに)。それ以降、アストロバイオロジーの虜になった私は大学院から生命の起源を研究したいと考え研究室探しを始めました。しかし、実際に研究室探しを始めると思いのほか自分のやりたいような研究室が見つかりませんでした (自分の調査能力の低さが主な原因)。そんなある日、私は高井先生がツイートしたある書評を見つけました。その本こそ、市橋先生の書かれた協力と裏切りの生命進化史です。この本に感銘を受けた私はすぐにアポをとり研究室を訪問しました。そして、大学院を受験しこの春から晴れて市橋研のメンバーとなりました。今思えば全て高井先生の掌の上で踊るような進路の決め方でした。まだ、お目にかかったことはありませんがお会いできる機会があればお礼を言いたいと思っています。

市橋研究室の受け入れ体制

市橋研は東京大学総合文化研究科広域科学専攻生命環境学系に属しています。従って、大学院から入るためには総合文化研究科の入試に合格する必要があります。院試の情報 (募集要項や過去問)生命環境学系のHPを参照してください。学部からは東京大学教養学部後期過程統合自然科学科から卒業研究で参加できます。研究内容に興味ある方はHPに詳細な情報が載っているのでこちらもご覧ください。連絡を頂ければいつでも見学できると思います (今はコロナで厳しいかも)。

アストロバイオロジーはかなり学際的な分野なので幅広いアプローチで研究が進められています。そのため、私のように予想もしないところからやりたい研究テーマが見つかるかもしれません。この記事がそのきっかけになれば幸いです。市橋研のテーマにビビッと感じた人・人工細胞を作ってみたい人・非生物を進化させてみたい人は是非一度研究室に遊びに来てください。皆さんと一緒に研究できる日を楽しみにしています

成田研究室 「太陽系外惑星の観測的研究

アストロバイオロジークラブ本部 : 森万由子

東京大学理学系研究科天文学専攻博士1年(2020年5月現在)の森万由子です。ここでは、今年度から東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系に新設された成田憲保教授の研究室についてご紹介します。

【研究室概要】

成田研は駒場リサーチキャンパスにあります。総合文化研究科広域科学専攻はその名の通り「広域」で、さまざまな学問領域の研究者の方がいます。成田研のお隣の研究室はなんと生命科学の市橋研だそうです。学際的な学問であるアストロバイオロジーを研究するにはぴったりの環境です。成田先生の研究テーマは「太陽系外惑星の観測的研究、観測装置の開発、アストロバイオロジーの学際的研究」です。

成田研は日本で太陽系外惑星(以下、系外惑星)の観測的研究ができる数少ない研究室の1つです。系外惑星とは、太陽以外の恒星の周りを回っている惑星です。宇宙に生命を探すとき、太陽系内の惑星や衛星よりもさらに外側に目を向けるとすれば、それは系外惑星ということになるでしょう。2020年5月現在、4000個を超える系外惑星が見つかっています。成田研では主に、それらの惑星やその候補天体を地上望遠鏡を使って観測し、質量・半径や軌道、大気などの特徴を詳しく調べています。

成田先生のチームはMuSCAT (Multicolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanets) という多色撮像カメラを複数開発していて、岡山の1.88m望遠鏡にMuSCAT、スペインのテネリフェ島の1.52m望遠鏡にMuSCAT2が搭載されており、現在ハワイのマウイ島の2.0m望遠鏡にMuSCAT3を設置しようと準備中です。MuSCATシリーズでは、系外惑星が中心星の手前を横切る現象「トランジット」を観測することで、惑星の大きさや大気について調べることができます。MuSCATシリーズの観測は毎晩のように行われており、海外の装置の観測も日本からリモートで行えます。学生の段階から、実際の観測・解析を一人で行えるまでになります。

現在、成田先生のチームはNASAのトランジット惑星探索衛星TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite) で発見された惑星候補の追加観測に力を入れていて、太陽系の近くにある新しい系外惑星(特に生命居住可能惑星や面白い性質を持つ惑星など)の探索を行なっています。そのため、MuSCATシリーズによるトランジットの観測に加えて、すばる望遠鏡を使った惑星の質量や軌道、大気を調べる観測もたくさん行われています。学生の研究テーマは、新しい惑星の探索、惑星の大気や軌道の観測、星の周期的変光の観測、観測の高精度化のための装置開発など、多岐に渡ります。

【研究生活】

私は学部生の頃から成田先生に指導していただいています。「宇宙のどこかには、私たちと同じように空を見上げている生命がいるのではないか?」…そんな漠然とした疑問を抱いて理学を志していた私は、理学部の説明会で「アストロバイオロジーをやるなら何学科でしょうか?」と質問して、その場にいた教授のどなたかに「やっぱ天文学科じゃないですか?」と返答いただいたことで天文学科進学を決めました。今考えれば、アストロバイオロジーにはさまざまな切り口があるので、かなり安直に選択したなぁと思います(自分がどんな切り口でアストロバイオロジーに興味を持っているか整理して考えたい人はトップページの「自分がワクワクするアストロバイオロジーは?」の図を眺めてみてください)。けれど、足を踏み入れてみた天文学の世界はとても楽しく、特に私にとって「観測」とは魅力溢れるものでした。

はじめて岡山のMuSCATの観測に同行したとき、自分が打ち込むコマンドで大きな望遠鏡やドームが音を立てて動くことに感動したのを覚えています。天文学の観測は、大きな望遠鏡になると、実際の操作はプロに任せることが多いのですが、自分自身の手で研究に必要なデータをとり、生データから解析をしていくというのは喜びの大きい仕事です。今は月に1~5夜程度、MuSCAT2のリモート観測を担当していますが、いかにして観測をセッティングし良いデータをとるか、と試行錯誤するのは、なんだか職人技のように感じます。学生のうちから観測や装置運用のための出張が多いのも成田研の特色だと思います。私はこれまでに、岡山と、ハワイ島、テネリフェ島、南アフリカのサザーランドに滞在しました。様々な地域の人と出会いながら、研究の世界にどっぷりと身を浸すことのできるとても良い経験でした。

ちなみに私は、低温の赤い星、「赤色矮星」を回る小型の惑星に着目し大気の存在を調べています。これらは観測可能な「生命居住可能(=惑星表面に水が存在できるかもしれない)」な惑星として注目を浴びている惑星です。基本的にはパソコンと向き合い続け、統計手法を用いて撮ってきたデータを解析しています。行き詰まることもありますが、そんな時は周りの学生や研究者の方とディスカッションしながら、より良い解析手法を模索しています。

【受け入れ体制】

成田研に入るには東京大学の総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系の院試に合格する必要があります。大学院入学案内や過去の試験問題は広域システム科学系のホームページでみることができます。学部からは東京大学教養学部後期課程学際科学科広域システムコースから卒業研究で参加できます。

成田研は今年度新設された研究室なので、現在学生を大大大募集中です。まずはぜひ成田先生にコンタクトをとって(オンラインでも!)研究室訪問をしてみてください。成田先生の研究や系外惑星という研究分野自体に興味を持った方は、ぜひ先生の著書『地球は特別な惑星か? 地球外生命に迫る系外惑星の科学』(講談社ブルーバックス)も手にとってみてください!

菅研究室「人工リボザイムによるRNAワールドの構築を目指す」

アストロバイオロジークラブ本部 : 村山華子

東京大学理学部生物化学科4年 (2020年7月現在)の村山華子です。ここでは、私が昨年の夏に2ヶ月弱インターンでお世話になった東京大学理学部化学科の生物有機化学研究室(菅研究室)についてご紹介します

【研究】

今地球上に存在している生物は、遺伝情報をDNAに保存し、それをRNAが仲介することによりタンパク質を作る仕組みを持っています。つまり、タンパク質を作るにはDNAが必要です。では、DNAはどのようにして作られるのでしょうか?DNAはDNAポリメラーゼによって複製されます。そして、DNAポリメラーゼもDNAの情報に基づいて作られたタンパク質です。つまり、タンパク質がないとDNAは作られず、DNAがないとタンパク質が作られないわけです。まさに鶏が先か卵が先かの問題です。どのようにして今のDNAとタンパク質の関係ができたのでしょうか?科学者たちはまだこの問いに対する答えにたどり着いていませんが、そのヒントになりうるものとして、RNAワールド仮説があります。これは、現生生物が誕生する前に、RNAが遺伝情報の保持を行うとともにタンパク質の役割である触媒も行っていたとするものです。実際、今の生物からも触媒能力を持つRNAであるリボザイムは複数発見されています。しかし、現存するリボザイムは、RNAの切断や連結など、リン酸関連の反応を触媒する機能に限られています。40億年にわたり進化してきたタンパク質触媒により、多彩な機能を持ったRNA触媒は淘汰されてしまったのかもしれません。ならば、そのようなRNA触媒を人工的に創成してしまう、というのが菅研究室の主題のひとつです。

菅研究室ではリボザイムの中でも特にtRNAにアミノ酸をアシル化する機能を持つリボザイムの研究を行っています。現生生物ではこの役割はアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)というタンパク質が担っているので、まさにタンパク質の触媒が昔はRNAだったのではないかという仮説に基づいた研究です。菅研究室で成功した人工リボザイムの代表例が、tRNAにアミノ酸をアシル化する機能を持つ「フレキシザイム」です。2001年にプロトタイプが開発されて以来、改良が重ねられ、今では3種類のフレキシザイムがあります1)-4)。最近では、細菌が持っている、tRNAと結合するRNAであるT-box リボスイッチに注目し、それを改良することにより、tRNAをアミノアシル化できる新たなリボザイムを作成することにも成功しました5)。このリボザイムはtRNAのアンチコドンを認識するという点においてよりARSに近い機能を持っていると言えます。

フレキシザイムは次のような方法で創薬技術にも応用されています。まず、フレキシザイムを用いてタンパク質には含まれていない特殊なアミノ酸を任意のtRNAにアシル化することにより、特殊なアミノ酸を遺伝暗号に組み込みます。この改変された遺伝暗号を使った試験管内翻訳系により、1本の試験管中に1兆種類もの特殊ペプチドを作ることができます6)。これをmRNAディスプレイ法と組み合わせることによって、ライブリーの中から薬の候補となる特殊ペプチドを見つけることができます7)。このように、フレキシザイムといくつかの技術を掛け合わせることにより新しい創薬のプラットフォームができ、次世代薬剤開発の技術として注目されています。

菅研究室は独自の技術を使った翻訳系の実験、有機合成、細胞実験、など様々な手法を用いて基礎的な研究から応用的な研究まで幅広い研究をしています。施設が大変充実しており、プロトコルやノウハウが伝承されている上、国内外の様々な研究室と共同研究をしているため、自分の興味の趣くままに自由に研究することができます。「宇宙の他のどこかにいる地球外生命の姿」、「別の世界線に存在する地球生命の姿」あるいは「地球生命の過去の姿」を探る研究はまさに宇宙生物学の最大のテーマの1つであり、とてもワクワクする研究ですね。

【雰囲気・特徴】

菅研究室にいて感じたことや、菅研究室のメンバーにインタビューしたことをまとめました!

<とても自由>

研究テーマや研究スケジュール、研究室に行く時間帯など全て自分で決めることができます。拘束されることがないので自由に実験計画をたてて実験できますが、その分、自分の考えをしっかり持って行動に責任を持つ必要があります。自由度が高い分、個々人の意識に左右されますが、積極的な学生にはこの上ない環境だと言えます。一方で、求めれば手厚い指導を受けられて、向上心次第で得られることが非常に多いです。菅教授のもと、さらに准教授や助教のグループにつき、その中で直接的な指導を受けますが、先生との実験の相談などは声をかけたらだいたいすぐに時間をとってもらえます。また、研究室のメンバーはみんな優しくてアカデミックなことや今後の将来ことなど親身になって聞いて相談に乗ってくれます。先輩後輩問わず気兼ねなく質問でき、居室、実験室問わず、ディスカッションが常に活発に行われています。

<とても多様>

菅研究室は人数が多い上、様々なバックグラウンドをもつメンバーで構成されています。外国人が多く、日本語・英語・中国語の3ヶ国語が日常的に飛び交っていて、言葉だけでなくメンバーの文化的背景も学べるチャンスがたくさんあります。世界中の有名な研究室と共同研究しており、海外からインターンシップの学生を受け入れることも多く、留学することもできます。また、途中で社会人経験をした人や、もともとの専門が違うメンバーも多いので、研究に対してのアプローチがそれぞれ少しずつ違っていて、考え方の幅が広がりとても勉強になります。

<交流が盛ん>

各自研究に没頭しますが、時々肩の力を抜いてメンバー同士で楽しく会話ができて、研究室以外でもメンバーのことを知るきっかけがたくさんあります。ラボ旅行、ソフト大会・サッカー大会、ボードゲーム会、飲み会、有志による富士登山など、様々な課外活動が学年や年齢の垣根を越えて行われています。参加不参加も自由なので、各々が無理することなく楽しむことができます。研究室メンバー同士の距離感が、プロフェッショナルだけれど、カジュアルなところもあってバランスが良い雰囲気の研究室だと思います。


【受け入れ体制】

東大生であれば進振りで理学部化学科を選択することで卒業研究に参加できます。また、修士・博士からの研究は理学系研究科化学専攻の院試に合格することで参加できます。詳しくは専攻のサイト(学部・修士・博士)をご覧ください。また、菅研究室はHPがユニークなことでも有名です。研究内容などの詳細な情報が載っているのでぜひ一度訪れてみてください。

【文献】

1) Saito, H., Kourouklis, D. & Suga, H. An in vitro evolved precursor tRNA with aminoacylation activity. EMBO J. 20, 1797–1806 (2001).

2) Murakami, H., Saito, H. & Suga, H. A versatile tRNA aminoacylation catalyst based on RNA. Chem. Biol. 10, 655–662 (2003).

3) Murakami, H., Ohta, A., Ashigai, H. & Suga, H. A highly fexible tRNA acylation method for non-natural polypeptide synthesis. Nat. Methods 3, 357–359 (2006).

4) Niwa, N., Yamagishi, Y., Murakami, H. & Suga, H. A fexizyme that selectively charges amino acids activated by a water-friendly leaving group. Bioorg. Med. Chem. Lett. 19, 3892–3894 (2009).

5) Ishida, S., Terasaka, N., Katoh, T. & Suga, H. An aminoacylation ribozyme evolved from a natural tRNA-sensing T-box riboswitch. Nat. Chem. Biol. 16, 702-709 (2020).

6) Goto, Y., Katoh, T. & Suga, H. Flexizymes for genetic code reprogramming. Nature protocols, 6, 779-790 (2011)

7) Yamagishi, Y., Shoji, I., Miyagawa, S., Kawakami, T., Katoh, T., Goto, Y. & Suga, H. Natural product-like macrocyclic N-methyl-peptide inhibitors against a ubiquitin ligase uncovered from a ribosome-expressed de novo library. Chemistry & biology, 18, 1562-1570 (2011)

慶應義塾大学

冨田勝研究/先端生命科学研究所生命現象の包括的理解と宇宙生物学への応用

寄稿者 : 瀬尾海渡さん

【研究室概要】

冨田研は先端生命科学研究会の名にもあるように、慶應の湘南藤沢キャンパス(SFC)で活動する生命科学関連の研究室が合同で運営しています。私は政策・メディア研究科先端生命科学プログラムに所属しており、冨田研の中でもアストロバイオロジーグループで研究を行なっています。本研究グループを中心に、毎年Keio Astrobiology Campを開催しております。

アストロバイオロジーグループでは主にJAMSTEC、ELSI、JAXA、国立障害者リハビリテーションセンターなどといった研究所に赴いて研究活動を行なっており、研究内容は多岐に渡ります。これまでの研究では、液体二酸化炭素に着目した生命の起源研究、土星衛星エンセラダスの模擬熱水環境におけるペプチド合成及び同環境における水素発生、微重力による宇宙飛行士の骨粗鬆症メカニズムを解明するためのマウス実験、新規二酸化炭素還元酵素の探索と二酸化炭素を用いた有用物質生産、たんぽぽ計画における初期分析などがあります。協力体制にある外部研究機関で専門的な研究指導を受けているのが特徴で、各々が自由に、かつ最先端の現場で研究を行なっています。アストロバイオロジーの分野は幅広いため、私たちはそれぞれの専門知識を共有し、日々お互いから学びあっています。

また、私たちは冨田研の中の一グループにしか過ぎません。冨田研では生命科学関連の様々な研究が行われています。アストロバイオロジストとして親しみのある分野であればクマムシの乾眠機構に関連する研究や、古細菌に関する研究、そのほかにも腸内細菌研究、メタボローム技術を用いた食品開発、がん研究、アフリカツメガエルを用いた発生研究、寄生性アリ、睡眠科学、細胞のシミュレーションや都市のメタゲノム解析など、一つずつあげればキリがありません。こうした研究グループが切磋琢磨しつつ時にはお互いの技術を教え合うなどしています。また、多くの研究が山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所で行われていることも特徴です。様々な種類の実験設備や豊かな自然など、研究に打ち込める環境が整っており、鶴岡で授業を受けながら一年間を過ごすプログラムなどもあります。SFCは学部1年生から研究室に入れるため、学部1年から博士課程の学生といった幅広い年代の学生と議論をすることができるというのも特徴で、研究をする上で非常に魅力的な環境です!!

【冨田さんとの出会い】

私は高校時代に慶應義塾大学の付属校に通っていました。当時から生物の研究をしたいと考えていましたが、具体的に研究活動がどのようなものか全く知りませんでした。その時に付属校のプログラムで冨田さんと出会いました。冨田さんの研究にかける思いや、実際に冨田研で自由に研究活動している先輩方の姿を見て、ここだ!と思いました。その後冨田研に入り、現アストロバイオロジークラブディレクターでもある高萩さんや冨田研OBの藤島皓介さんに出会ったことがきっかけでアストロバイオロジーの面白さに目覚め、この道を志すことになりました。学部一年時からのびのびと研究をさせてもらっており、現在は主にJAMSTECを研究先として活動しています。


【冨田研の受け入れ体制】

冨田研は慶應義塾大学の環境情報学部または総合政策学部にの学生であれば学部1年生から所属して本格的な研究指導を受けることができます。大学院生であれば政策・メディア研究科から先端生命科学プログラムに参加できます。入学に関してはSFCのホームページをご覧ください。冨田研では、アストロバイオロジーの分野でも様々な研究に挑戦できます。早いうちから研究を始める分、必要な知識はどんどん吸収しなければなりませんが、それだけどっぷりと研究にのめり込むことができます。アストロバイオロジー研究に興味がある方、冨田研の活動に興味がある方、いつでも連絡してください!

東京工業大学

藤島研究グループ/地球生命研究所「合成生物学によって生命の起源を解明する」

寄稿者 : 西川将太さん

こんにちは、東京工業大学生命理工学院生命理工学系修士課程2年(2020年10月現在)の西川将太と申します。ここでは、私の所属する藤島研究グループをご紹介させていただきたいと思います!

【研究室概要】

私たちの研究グループでは、宇宙生物学と合成生物学を組み合わせることで、生命の起源解明に挑んでいます。合成生物学というのは、「つくって調べる生物学」です。例えば、生命誕生時に存在していた化合物や生体関連分子(DNA、RNA、タンパク質等)を合成し、その機能や分子間の相互作用を調べることで、生命の起源に迫ることが可能です。また、地球外生命探査では、地球外環境でどのような生体分子が合成可能かを検証することで地球外生命の存在可能性やその手がかりとなる分子についての知見が得られます。この合成生物学の手法を用いて、特に私たちが取り組んでいるのは、生命の根幹を担う「セントラルドグマ」に関わる分子の進化です。中でも、「リボソーム」と呼ばれるタンパク質合成装置の起源と分子進化について積極的に取り組んでいます。リボソームはRNAとタンパク質という2種類の「ひも」から成る巨大な分子です。生命の共通祖先(LUCA)は約38億年前に存在していたとされていますが、生命維持に必須なリボソームの起源はさらに古いと考えられます。私たちは、共通祖先以前の原始リボソームがどのようにして出来上がったのか、その謎を解明したいと考えています。また、地球外生命探査に関する研究にも積極的に取り組んでいます。最近では、水惑星エンケラドスにおける熱水環境を実験室で再現し、ペプチドのような生体分子が形成されるかを実証するといった研究を行なっていました。他にも宇宙航空研究開発機構(JAXA)や海洋研究開発機構(JAMSTEC)の方達との共同研究も盛んに行なわれています。

現在、ラボの体勢としては、ポスドク1人、テクニカルスタッフ2人、学生1人となっています。今年度10月から大学院生の受け入れが始まったため、まだまだ小規模ですが、研究は非常に活発に行われています。個人的にはなりますが、以下に藤島研究グループの雰囲気(というか特徴)をまとめてみました!

<自由>

研究内容、研究スケジュールは自分で自由に決めることができます。私は大体、AM9:00〜PM6:00の間でラボに滞在しています。基本的には自分一人で実験を進めていくことになりますが、実験に関して相談がある時には、大抵時間をとってもらえます。

<前例のないことに取り組む>

私たちの研究は、非常に挑戦的で独創的なものが多いです。前例がなく、誰も真似できないけど、成功したらすごく面白い、という研究を目指しています。世界を驚かすような研究をしたい、野心的な方は大歓迎です。

<一人の研究者として扱ってくれる>

これは非常に個人的な意見ですが、藤島さんは学生を一人の研究者として対等に扱ってくれていると感じています。研究結果のディスカッションでは、受け身の姿勢ではなく双方向の意見交換が求められますし、自分が提案した研究をする場合は、自分で研究費の申請書を書きます。このように、学生のうちから研究者の世界を生で体感できるのは非常に貴重な体験だと思います。

<国内外の研究者との交流が盛ん>

私たちの研究グループは東京工業大学石川台キャンパスにある地球生命研究所(ELSI)にて研究を行なっております。ELSIは、2012年に世界トップレベル研究拠点として、文部科学省のWPIプログラムによって設立された新しい研究所です。ELSIでは、「生命が生まれた初期地球の環境をもとに地球・生命の起源を解明する」ことを目指した研究が盛んに行われており、日本、及び世界を牽引するアストロバイオロジー研究所となっています。研究所には、「地球科学」、「生命科学」、さらには「惑星科学」を専門とする国内外でもトップクラスの研究者が所属しており、国際色豊かな環境となっています。また、藤島さんがNASAエイムズ研究所で研究していたこともあり、NASAを含めた海外の研究グループとの共同研究も盛んです。

【藤島先生との出会い】

学部2年生の時に参加した慶應アストロバイオロジーキャンプで知りました。当時、藤島さんの講演を聞いて、面白い!と思った記憶があります。当時は個人的にコンタクトをとるまでには至らなかったのですが、大学院に入学し、約3年越しにメールを送り、一緒に研究させていただくことになりました。

【藤島研の受け入れ体制】

現在、藤島研究グループには東京工業大学生命理工学院の院試に合格することで所属可能です。残念ながら学部生の受け入れは行っておりませんので、修士・博士課程から参加する形となります。詳しい研究内容・教育活動などを知りたい方はぜひ一度、藤島さんが運営するELSIファーストロジック・アストロバイオロジー寄付プログラムHPをご覧になってください。あと、「藤島 皓介」とググってみると、いろいろな記事が出ると思うので参考になるかと思います。最先端のアストロバイオロジー研究に携わりたい、前例のない、挑戦的な研究に取り組みたい、といった方は遠慮せず相談していただければと思います!