ミズムシ類は等脚目に属する9亜目のうちの一つで、いわゆる「ダンゴムシやダイオウグソクムシの仲間」というように説明されます。等脚類 (Isopods) は甲殻亜門軟甲綱フクロエビ上目等脚目に属する甲殻類の総称であり、山岳地帯から水深10,000 mを超える超深海にいたる多様な環境に生息する分類群です。甲殻類の中では最も陸上進出に成功しており、また水域においても生態や形態の多様性が著しいことが知られています[1]。水域には自由生活性種と寄生性種が存在し、その生活様式を反映した多様な形態や食性を示す、実に多様な生き物であると言えます。
ミズムシ亜目Asellota Latreille, 1802は、陸生種を含むワラジムシ亜目に次いで多くの種を含みます。淡水域、汽水域、浅海から超深海までの砂の間隙や他生物の体表上、砂泥や海藻の上など様々な場所に生息し、形態の多様性も非常に高い動物です[2]。これまでに31科268属2,240種以上が記載(2018年時点[2][3])されていることからもその多様性が窺い知れると思います。
そして、深海においてもミズムシ類の多様性が多くの海域から認められています。深海性甲殻類の中でミズムシ亜目が最も優占するグループの一つであることが明らかになっており[4]、南極海、北大西洋、千島列島周辺海域など、多くの深海域で、アシナガミズムシ科Munnopsidaeとシンカイミズムシ科Desmosomatidaeのミズムシ類が優占していることが報告されています[5] [6] [7] [8]。この2科の面白い点は、なんと遊泳に適した形に脚が変化し、実際に海底直上を遊泳して分散することが知られています。
等脚類は例外的な数種を除き、幼生が孵化後浮遊期をもたない底生生物であるため、海流を利用して分散する浮遊幼生種と比較すると長距離を移動することが困難であると推測されています。そのため、比較的小さい空間スケールで隔離され、遺伝的分化や種分化が起こりやすいと予想され、こうした特徴が水域における等脚類の多様性を高める一因となっていると考えられています。また、深海で優占する遊泳能力をもたない種がパッチ状に分布している[9][10]ことから、断続的に分布する地域集団に遺伝的分化が生じることも種多様性の創成に貢献していると予想されています。
日本におけるミズムシ研究は、京都大学の下村通誉教授の長年の精力的なご研究で進んでまいりましたが、まだまだ未記載種も多く残されているほか、その種分化過程なども明かされていません。しかし、こと深海においては非常に生物量が多く、深海生物を語る上でミズムシ類は決して外せない連中なのです。さらに海溝固有種も多いことから、海外の研究者任せにしてしまわず日本人が日本周辺で研究を進めなければ彼らの全貌を解き明かすことは叶わないと言っていいでしょう。
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References
[1] 下村・布村, 2010
[2] 下村・布村, 2013a
[3] Malyutina and Brandt, 2018
[4] Hessler et al., 1979
[5] Kussakin, 1999
[6] Brandt et al., 2004
[7] Brix and Svavarsson, 2010
[8] Golovan, 2018
[9] Brandt et al., 2007
[10] Malyutina and Brandt, 2015