■高木 敏行さんと荒川 哲さんのお二人による著書が、干場 弓子さんの出版社BOW BOOKSから6月末に出版されました。おめでとうございます。その本について紹介します。ちなみに、その内容骨子は、2022年4月16日 にお二人が同期のZoom講演会で話されています(講演pptは⇒ 二人の講演スライド)。
最近ではロジカルシンキングやクリティカルシンキングなどの論理思考法がビジネスパーソンの問題解決能力や問題発見能力を鍛えるために使われています。
そこでは、ロジックツリーやピラミッドストラクチャーなどのツールを使うことで、問題解決や説得力のある主張を効果的にできるようになるといわれています。しかしながら、いくらツールを使って演習を積んでも、それらはなかなか身につかない、というのが現状ではないでしょうか。
考えてみると、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの基礎になっている演繹推論、帰納推論、アブダクションなどについて、しっかり理解せずに方法論だけ学んでも正しい応用はできないのです。正しい推論のもとになっているのは集合論や論理学です。本書では他の書籍ではあまり触れていない、こうしたところを説明します。
さらに、推論をする上で、データを正しく理解・解釈しないと誤った推論をしてしまうことが往々にしてあります。このとき、統計学が役に立ちます。データに統計学的な手法を用いると、より多くの情報を得ることができ、データを有効に活用できるようになります。
このため、本書では、演繹推論、帰納推論、アブダクションにつぐ、第四の推論として、統計学を用いる論理思考として、データ科学推論をご紹介します。データ科学推論は、多くのデータから統計学的な方法により有益な情報を抽出する統計科学推論や、コンピュータが自動的に学習してデータの背景にあるルールを見つける機械学習、大量のデータから発見的な知識獲得を目指すデータマイニングなどを含みます。本書では、データ科学推論を知るためのベースとなる統計学の基礎、ベイズ推定、実験計画法などについて説明し、データ科学推論の詳細については、他書に譲ります。
本書が、若い読者にとって科学的で論理的な思考法である推論を身に付けるきっかけになればと願っています。
著者である高木君と私は高校の同級生です。彼は長年、大学で学生を教育しながら、研究で活躍してきた大学の先生で、私はおもに企業の研究所で研究開発を行ってきました。私にとっては、高木君とこのような本を作成するとは、この話があるまで全く想像もできないことでした。なぜこのような企画が持ちあがったかというと、この本の編集者である干場さん(出版社の社長でもあるのですが)と高木君が、学生の報告書、企業内での議論などで科学的論理思考が不足していないか、そのため、議論があらぬ方向に行ったり、誤った結論に進んでしまったりしているのではないか、という問題意識を共有化したことから始まったようです。
実は干場さんも高木君も私も高校の同級生(しかも3人とも3年のときは同じクラス)であり、そのような問題の解決に繋げられるわかりやすい本を作ったらどうかということになったものの、高木君だけではマンパワー不足。誰かいないかということで私に声がかかった、というわけです。私もずっと理系の分野で仕事をしており、学生の教育にも携わっていたので、理系の考え方で論理的思考を、しかもわかりやすく整理できないかということが期待されたと思っています。
干場さんはずっと出版界で活躍しており、会社の経営にも携わってきたので、上記の問題意識も強かったようですが、いざ原稿を作成し始めると、高木君と私のように、長年、理系分野で仕事をしてきた人間と編集者である干場さんとでは「わかりやすい」の意味が相当異なっていることに気づくことになります。
理系の人聞にとっては何も説明しなくても使用できる単語が干場さんから「これではわからない」という指摘が数多く入るわけです。この本は理系の大学生だけを対象にするのではなく、社会人になったばかりの文系の人にも役に立たないかと考えていたので、もっと理解しやすい、読みやすい表現にしていく必要があるというのです。なにせ3人は高校の同級生ですから、数十年の時を経て昔の感覚にしっかり戻っており、「荒川君、その説明じゃ、その先は読む気になれない」とか、「高木君、もっと具体的な例、書けないの」といった指摘がなされるのです。とても新鮮な感覚で編集会議を進めることができました。
この本の企画が持ち上がったのはすでに新型コロナウイルスの感染が進んで緊急事態宣言などが出ていた時期で、どこかで定期的に集まって編集会議を行うことはできない状況でした。したがって、新型コロナウイルスの蔓延によって急速に進んだweb会議で打合せを行いました。企画が持ち上がってから、原稿のチェックまでほぼ2週間に1回のぺースで打合せを行いましたが、未だに一度も対面で話したことはありません。web会議でも十分議論ができることを実感することができました。
このように、理系の環境にどっぷりつかった著者と出版業界で仕事をしてきた編集者とのせめぎ合いで、不十分とはいえ、かなりわかりやすい説明になったと思っていますが、一方で、もっと詳しく知りたいという読者には不十分な部分も多々あると思います。そのため、なるべく多くの参考資料を巻末に列挙しましたので、実際に科学的論理思考を仕事に活用する場合は関連する資料を見ていただけると幸いです。この本が科学的・論理的な議論の進展に少しでも役に立つことを願っています。
なお、前半レッスン2までを高木君が、後半、レッスン3の「科学的論理思考のツール」を私が担当しました。あわせてレッスン1、2の部分については、古賀高雄博士(東北大学)にご示唆いただきました。御礼申し上げます。
荒川 哲