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Shota Fukuoka, Ayu Shimomura, Yuya Katsumura, Masaya Oki, Gakushi Tsuji*
The Journal of Biochemistry, doi: 10.1093/jb/mvaf032 (2025)
コレステロールは細胞膜の成分の一つであり、リン脂質分子の間に挟まって、膜の流動性を下げる働きを持っており、細胞膜の安定性に寄与しいる。細胞膜中のコレステロール量はおよそ20 mol% であることが分かっていたが、近年、細胞膜の成分を詳細に解析した結果、脂質二重膜の内、内側の膜は4 mol%, 外側の膜は40 mol%であることが報告された。本研究では、コレステロールが人工細胞においても膜区画の安定性を増すことを期待し、人工細胞膜にリン脂質 POPC に加えて、コレステロールを20 mol% もしくは、 40 mol% 含ませた。その結果、コレステロールを加えた人工細胞では、37℃における、小分子の漏洩率が下がった。加えて、興味深いことに、コレステロールを40 mol% 含む人工細胞内では、転写反応と翻訳反応の効率が下がることが分かった。
図:準備中
Gakushi Tsuji*, Yuusuke Yamaguchi, Masaya Oki
Scientific Reports, 15, Article number: 18729 (2025)
www.nature.com/articles/s41598-025-03869-w (Open access)
テラヘルツ波は、次世代の移動通信システム(beyond 5G/6G)として注目されている遠赤外領域の波長域であり、電波と光波の中間の周波数領域に存在する電磁波である。近年、培養細胞へのテラヘルツ波照射により、温度変化に依存しない細胞分裂阻害やアクチンタンパク質の重合促進・脱重合阻害が報告されている。一方で、テラヘルツ波は細胞に対して作用しないという報告もされている。細胞を用いた実験系では、細胞のコンディションや、照射方法の制限、照射後にどのような時間でどのような表現型を測定するかによってその結果は変わること、そして、どのような波長のテラヘルツ波を照射するべきかが定まっていないことの二つの課題が、テラヘルツ波の生物への作用を解明する際の大きな障壁となっている。そこで本研究では、細胞様区画として、セントラルドグマ反応の一つである転写反応(DNA から RNA を合成する反応)を内封した人工細胞を用いて、転写反応を阻害するテラヘルツ波の探索を行った。テラヘルツ波は水に吸収されることから、まず、人工細胞の外液を乾燥させ、直接、テラヘルツ波を照射するための実験系を確立した(図参照)。そして0.19 THz と0.46 THz の波長のテラヘルツ波を照射したところ、0.46 THz のテラヘルツ波は、人工細胞内転写反応を阻害し、照射後に転写反応効率が向上することを見出した。
Gakushi Tsuji*
Chembiochem, 2025; Feb 3;26(5): e202400874. doi: 10.1002/cbic.202400874
https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.202400874 (Open access)
人工細胞内での翻訳反応は様々な研究において報告されている。一方で、それらの研究ではPOPC やDOPC など電荷が打ち消されているリン脂質を用いている。本研究では、正電荷や負電荷を持つ人工細胞内での翻訳反応効率を定量的に比較した。その結果、正電荷、負電荷脂質ともに翻訳反応を阻害することを見出した。特に正電荷の脂質は、少量であっても翻訳反応を阻害することが分かった。この時、負電荷脂質と正電荷脂質を等量含ませた人工細胞内では、電荷を打ち消していない条件と比べて翻訳反応効率が高いことから、電荷を持つリン脂質が直接反応を阻害しているわけではないことも示唆された。そのため、電荷脂質に対して、核酸やアミノ酸などの翻訳反応に用いる小分子が吸着しておりそれが反応を阻害している可能性が考えられた。
Gakushi Tsuji*, Ayu Shimomura, Shota Fukuoka, and Masaya Oki
Genes and genetic systems, 2024; doi: 10.1266/ggs.23-00297
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ggs/99/0/99_23-00297/_article (Open access)
Ayu Shiomura, et al. 2022 の研究から負電荷脂質 POPG は人工細胞間の凍結融解による融合効率を向上することが分かった。そこで、この現象が、凍結融解による一酵素(転写酵素)の供給効率の向上につながるかどうかを検討した。まず、負電荷脂質を持つ人工細胞内での転写反応効率は、電荷を持たない人工細胞に対して下がることを見出した。一方で、凍結融解後の転写酵素の供給と 転写反応が駆動した人工細胞(active liposome)の割合は増加した。そのため、当初の期待通り、負電荷脂質による凍結融解融合効率の向上は転写反応にも適用できることが分かった。
図:準備中
Ayu Shimomura, Shiori Ina, Masaya Oki, Gakushi Tsuji*
Chembiochem. (2022) doi: 10.1002/cbic.202200550
https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.202200550
2016年の PNAS で我々が発表した凍結融解によるリポソーム間融合は、凍結融解前後で巨大一枚膜小胞 (GUV) の割合および溶液中の GUV の数がともに半減することが示唆されていた。本研究では、脂質膜の組成、特に負電荷脂質と正電荷脂質、に着目し、様々な脂質膜組成における凍結融解時の内液混合率や内液からのタンパク質の漏洩率、および GUV の破裂率を定量的に比較した。その結果、POPC と負電荷脂質 POPG の組み合わせが凍結融解の損傷を抑え、タンパク質の漏洩率およびGUV 破裂率が低くなることを示した。
Kyoka Kajii, Ayu Shimomura, Mika T. Higashide, Masaya Oki, Gakushi Tsuji*
Langmuir. 2022 Jul 26;38(29):8871-8880.
巨大一枚膜小胞 (GUV) を効率的に作製する手法の一つとして界面通過法が挙げられる。界面通過法では、内液と外液に高濃度の糖が必要であり、従来、内液にショ糖、外液にグルコースが用いられてきた。本研究では、GUV内液と外液の糖を、内液については二糖類のショ糖、マルトース、トレハロース、外液については単糖類のグルコース、ガラクトース、フルクトースを検討した。その結果、GUV 形成についてはどの糖を用いても大きな差がないことが分かった。また、内液の生化学反応、本論文ではPCR 反応やStreptolysin O を用いた膜孔形成、そして凍結融解によるリポソーム融合において、糖の化学的特性が影響することが示唆され、特にマルトースはリポソーム内 PCR を有意に阻害することが分かった。
Gakushi Tsuji*, Takeshi Sunami, Masaya Oki, Norikazu Ichihashi
Chembiochem. 2021 Jun 2;22(11):1966-1973
https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.202100029
コレステロール依存的に直径 25-30 nm の膜孔を形成する Streptolysin O を用いて、コレステロールを含有したリポソームに膜孔を形成させ、その膜孔を介してタンパク質の流出入させる手法を確立した。この方法を用いて、T7 RNA polymerase をリポソーム内に供給し、RNA 合成反応を駆動させた。
Gakushi Tsuji, Takeshi Sunami, Norikazu Ichihashi*
J Biosci Bioeng. 2018 Oct;126(4):540-545.
巨大一枚膜小胞 (GUV) を効率よく作る手法の一つである界面通過法は、内液と外液に高濃度の糖が必要であり、その比重差で油水界面を通過して GUV を形成している。本研究では、内液と外液の比重差だけではなく、内外の浸透圧差も GUV の形成に重要であることが示唆された。また、内液と外液にグリセロールを加えておくことで糖の非存在下でも GUV が作製できることを示した。グリセロールは膜を透過するため、外液交換によりグリセロールを含まない外液にすることで、内液からグリセロールを除去できることも示した。
Gakushi Tsuji, Satoshi Fujii, Takeshi Sunami, Tetsuya Yomo*
Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jan 19;113(3):590-5
リポソームの一種である、巨大一枚膜小胞(Giant Unilamellar Vesicle; GUV) 同士を、遠心により接着させ凍結・融解によって膜を破壊することで、内液の混合および膜の再編を伴うリポソーム融合を達成した。本手法は、簡便に何度も繰り返すことができ、本論文では、「RNA の複製反応」に必要な NTP や RNA 複製酵素(Qβ-replicase)を融合によって供給し、RNA の複製反応を「植え継げる」ことを示した。