論文の解説

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Effects of charged lipids on giant unilamellar vesicle fusion and inner content mixing via freezing-thawing

Ayu Shimomura, Shiori Ina, Masaya Oki, Gakushi Tsuji*

Chembiochem. (2022) doi: 10.1002/cbic.202200550

https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.202200550 

2016年の PNAS で我々が発表した凍結融解によるリポソーム間融合は、凍結融解前後で巨大一枚膜小胞 (GUV) の割合および溶液中の GUV の数がともに半減することが示唆されていた。本研究では、脂質膜の組成、特に負電荷脂質と正電荷脂質、に着目し、様々な脂質膜組成における凍結融解時の内液混合率や内液からのタンパク質の漏洩率、および GUV の破裂率を定量的に比較した。その結果、POPC と負電荷脂質 POPG の組み合わせが凍結融解の損傷を抑え、タンパク質の漏洩率およびGUV 破裂率が低くなることを示した。

Effects of Sugars on Giant Unilamellar Vesicle Preparation, Fusion, PCR in Liposomes, and Pore Formation

Kyoka Kajii, Ayu Shimomura, Mika T. Higashide, Masaya Oki, Gakushi Tsuji*

Langmuir. 2022 Jul 26;38(29):8871-8880. 

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.langmuir.2c00989

巨大一枚膜小胞 (GUV) を効率的に作製する手法の一つとして界面通過法が挙げられる。界面通過法では、内液と外液に高濃度の糖が必要であり、従来、内液にショ糖、外液にグルコースが用いられてきた。本研究では、GUV内液と外液の糖を、内液については二糖類のショ糖、マルトース、トレハロース、外液については単糖類のグルコース、ガラクトース、フルクトースを検討した。その結果、GUV 形成についてはどの糖を用いても大きな差がないことが分かった。また、内液の生化学反応、本論文ではPCR 反応やStreptolysin O を用いた膜孔形成、そして凍結融解によるリポソーム融合において、糖の化学的特性が影響することが示唆され、特にマルトースはリポソーム内 PCR を有意に阻害することが分かった。

Exchange of Proteins in Liposomes through Streptolysin O Pores

Gakushi Tsuji*, Takeshi Sunami, Masaya Oki, Norikazu Ichihashi

Chembiochem. 2021 Jun 2;22(11):1966-1973 

https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.202100029

コレステロール依存的に直径 25-30 nm の膜孔を形成する Streptolysin O を用いて、コレステロールを含有したリポソームに膜孔を形成させ、その膜孔を介してタンパク質の流出入させる手法を確立した。この方法を用いて、T7 RNA polymerase をリポソーム内に供給し、RNA 合成反応を駆動させた。


Production of giant unilamellar vesicles by the water-in-oil emulsion-transfer method without high internal concentrations of sugars

Gakushi Tsuji, Takeshi Sunami, Norikazu Ichihashi*

J Biosci Bioeng. 2018 Oct;126(4):540-545. 

巨大一枚膜小胞 (GUV) を効率よく作る手法の一つである界面通過法は、内液と外液に高濃度の糖が必要であり、その比重差で油水界面を通過して GUV を形成している。本研究では、内液と外液の比重差だけではなく、内外の浸透圧差も GUV の形成に重要であることが示唆された。また、内液と外液にグリセロールを加えておくことで糖の非存在下でも GUV が作製できることを示した。グリセロールは膜を透過するため、外液交換によりグリセロールを含まない外液にすることで、内液からグリセロールを除去できることも示した。

Sustainable proliferation of liposomes compatible with inner RNA replication

Gakushi Tsuji, Satoshi Fujii, Takeshi Sunami, Tetsuya Yomo*

Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Jan 19;113(3):590-5 

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1516893113

リポソームの一種である、巨大一枚膜小胞(Giant Unilamellar Vesicle; GUV) 同士を、遠心により接着させ凍結・融解によって膜を破壊することで、内液の混合および膜の再編を伴うリポソーム融合を達成した。本手法は、簡便に何度も繰り返すことができ、本論文では、「RNA の複製反応」に必要な NTP や RNA 複製酵素(Qβ-replicase)を融合によって供給し、RNA の複製反応を「植え継げる」ことを示した。