染色体は、長鎖DNAとヒストンタンパク質からなる、高次構造体であり、構造を介して転写量の制御や生存に必要な遺伝子を核内に収納する機能を持っています。染色体は巨大なひものような性質を持っており、細胞外に取り出すと、染色体同士が絡まりあい、せん断や凝集してしまいます。
我々は、リポソーム区画内に染色体を封入することで、細胞外環境で染色体を操作する技術の確立に取り組んでいます。その方法として、出芽酵母の細胞壁を取り除いた出芽酵母プロトプラストとリポソームを融合し、染色体をリポソーム内に封入したin vitro核モデルを確立しました。本手法は、出芽酵母だけでなく、マウスの微小核を用いても同様に、染色体をリポソーム内に封入することが可能です。
また、核膜のような区画がなく、リポソーム全体に染色体が偏在しているようなin vitro核モデルも見出しており、これらを用いて、染色体からの転写や染色体制御が可能かについて研究を進めています。
テラヘルツ波は次世代移動通信(beyond 5G) としての利用が期待されている波長帯の電磁波です。近年、このテラヘルツ波帯の電磁波を照射可能な機器が開発されており、またその小型化も進んでいます。このようなテラヘルツ波は、水に吸収されるため、水を反応場とする生化学反応、細胞機能にも影響するのではないか、という疑問が注目されています。実際に、いくつかの研究では、酵素の水和状態や、タンパク質の重合などが変わる、という報告(学術論文)もあります。しかし、細胞への影響は、細胞内の因子(タンパク質や遺伝子など)が膨大であり、テラヘルツ波の照射(インプット)に対する細胞の表現型(アウトプット)をどのように解釈するか、という点が非常に困難です。
我々は、全ての生命が共通として持っている転写と翻訳反応に注目し、転写に必要な因子、あるいは翻訳に必要な因子のみを持つ人工細胞に対してテラヘルツ波を照射し、これらセントラルドグマ反応にどう影響するのかを解明することを目的として研究をしています。福井大学遠赤外領域研究開発センターには大型のジャイロトロン(テラヘルツ波照射装置)があり、共同研究を進めています。将来的には、テラヘルツ波を用いて細胞機能の非接触的な操作などへの応用へとつなげていくことを目指しています。
RNA 切断酵素を利用し、特定のRNA が転写されたときに、蛍光の検出が可能になるリポソーム型 RNA センサーを開発しています。リポソームのような微小区画は、生化学反応の効率化と細胞のように特定の蛍光を持つリポソームを分取して回収することが可能なため、非常に微量な RNA の有無の識別や、配列解析などの下流の分析を可能にすると考えています。この技術は、ウイルス感染の有無や、疾患のバイオマーカーを血液から非常に高精度に検出するなど様々な応用へと発展できます。
我々は、リポソーム内の人工染色体からの RNA 転写をゼロ-イチの精度で検出したいと考え技術開発に取り組んでいます。
リポソーム同士を接着させ、凍結融解によって膜を破壊することで、内液の混合を伴うリポソーム融合を起こすことができます。しかし、同時に、リポソーム区画の半分が壊れたままになってしまい再構成されず、またリポソーム内に封入した内液も平均して50% 程度流出することが分かっています。また、リポソームを融合してもサイズの中央値が変わらないことを過去に見出しています。現在は、脂質膜やリポソームの内液・外液の組成を変えることで、融合時のリポソーム破裂や内液の流出を抑えることを目指して研究を進めています。これまでに、外液の糖を変えることで、融合後にリポソームのサイズが大きくなることや、POPG という負電荷脂質が、凍結融解時のリポソーム破裂や内液の流出を抑えるという結果を得ています。これらの成果をもとに、リポソーム間融合率を向上させ、栄養を繰り返し安定的に供給し、細胞のようにリポソームを「植え継ぐ」ことで、リポソーム型人工細胞は生物のように進化していくだろうか?を探っていきます。これまでの研究の解説はこちら
リポソーム内生化学反応を利用して、タンパク質の機能改変や機能の向上、それを利用した生命現象の解明を目指した研究を行っています。詳しい話は、直接聞いてください。