美しい歌
勝とうとする人たちはみんな負けてしまいました。
雄弁で人を酔わせ、戦場へと駆り立てようとした者たちは、
最後には舌を抜かれました。
一方、憂い顔の平和主義者たちは、
崖から身を投げました。口中に祈りの言葉をつぶやきながら。
街角にはボロをまとった老賢者がいて、
誰ひとりまともに聞く者のいない群衆に向かって、
こんなことは全部無意味だと叫んでいました。
彼は狂人とみなされてどこか遠い所へ連れて行かれました。
こんな苦難の絶えざる世界に、
どう見ても場違いな感じのひとりの詩人がまぎれこんで、
言葉を紡いでいました。
彼は殷々と鳴り響く砲声の下で、
空の青さをたたえる詩をつくりました。
潰えた家並と砂塵の中に立って、
千年の恋の歌を歌いました。
もちろん人々は彼を理解したわけではなく、
ただ奇異の目で見つめるばかりでした。
ある日、彼はばったりと姿を消して、
二度とあらわれることはありませんでした。
世界には小さな、ごく小さな穴が開いたのですが、
それに気付く者は片手で数えられる程しかいませんでした。
ある日、そんな者のうちのひとりが、
新たに詩を口ずさみはじめました。
彼女は、虹のあざやかさを、
草花のけなげさを、地霊の魔力を、
王朝の治乱興亡を、はかない逢瀬の物語を、
韻文にのせて歌いました。
相変わらず苦難にみちた世界は、
彼女をほとんど無視しましたが、
彼女は幸福でした。たったひとりの幸福な人間でした。
歌うべきことはみな歌い終えて、
ある日、彼女も姿を消しました。
やがて争いが去ると人々は詩人を探しはじめました。
しかしもはや詩人はどこにもいませんでした。
そして、美しい歌だけが残りました。