亜酸化窒素/ジメチルエーテルを用いた小型ロケット推進機

目的

液化ガスをグリーンプロペラント(環境に優しい推進剤)として利用する宇宙用二液式ロケット推進機(液体推進ロケットの一種)を実現し,高性能で環境適合性に優れるマイクロスラスタ(小型ロケットエンジン)の実現を目的としています.現在は,亜酸化窒素(N2O)酸化剤とジメチルエーテル(DME)を推進剤として利用しています.

提案する方式

酸化剤と燃料を別々に保存する「二液式推進機」は,比推力(燃費に相当する指標)が一液式(推進剤の分解反応によりエネルギーを生成する方式)や固体ロケット推進機に比べ優れるという長所があります.また,固体推進機とは異なり,スロットリング(推力の調整)を推進剤流量の調整だけで可能となります.

その一方で,構造が複雑であり,従来のヒドラジンMMH(モノメチルヒドラジン),四酸化二窒素などは毒性を有するため,地上試験においては排ガスを適切に処理する必要があります.また,燃焼促進のために推進剤を微粒化する必要があります.

そこで,毒性がなく安全なグリーンプロペラントとして,亜酸化窒素(N2O)酸化剤とジメチルエーテル (Dimethyl ether,DME)燃料を用いた新しい宇宙用小型ロケット推進機の研究を行っています.N2Oは,笑気ガスともよばれ医療用やケーキのクリームをなめらかにするためにも使われていることから毒性は全くありません.DMEは,次世代の自動車用燃料として期待されており,スプレー缶の噴射剤として利用されていることからも分かるように毒性は全くありません.

N2O, DMEは共に液化ガスであり,N2Oは50気圧,DMEは6気圧で液体として貯蔵することができます.そのため,推進剤タンクの圧力を調整することにより液体として貯蔵が可能です.逆に,温度調整により簡単に気化するため,燃焼室には,気体として供給できることから微粒化する必要がなくなります.比推力は,従来のMMH/UDMH推進系において320秒であるのに対し,287秒と低下しますが,無毒であり,推進機の構造が簡単になるという長所があります.

提案する推進機

試作機と作動中の様子

この動画は2014年度に試作した0.3N級のN2O/DME推進機で,約300秒間の連続運転を行ったときの動画です.今回は,真空容器を排気せず,大気中で行っています.(安全のため,はブロアーにより排気しています.)

スパークプラグ(側方手前側に配置)により点火した後は,プルーム(ロケットエンジンのノズルからから出てくるジェットのこと)が安定しており,安定した燃焼が得られていることが分かります.なお,5分間の間火炎は途中で吹き消えることはありませんでした.また,3分頃からスラスタのノズルが赤熱している様子が分かります.以上のように,提案したN2O/DME推進機は,大気圧雰囲気下でも作動することを実証するに至っています.

投稿論文ならびに発表

  1. Takamasa Asakura, Shouta Hayashi, Yasuyuki Yano, Akira Kakami, “Influence of Injector for Performance of N2O/DME Bipropellant Thruster,” Transactions of The Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Aerospace Technology Japan, in press.
  2. Tasuku Uraoka, Yoshikazu Iwao, Yasuyuki Yano, Akira Kakami, “Improvement of Combustion Stability of N2O/DME Bipropellant in Vacuum,” Transactions of The Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, Aerospace Technology Japan, Vol. 14, ISTS30, pp. Pa_73-Pa_81.
  3. Tasuku Uraoka, Yoshikazu Iwao, Yasuyuki Yano, Akira Kakami, “Performance evaluation of N2O/DME bipropellant thruster in vacuum,” The 5th International Symposium on Energetic Materials and their Applications, PP-12, 2014/11/15, November 15-17 2014, Fukuoka, Japan.
  4. Keisuke Bando, Shinpei Watanabe, Akira Kakami, Takeshi Tachibana, “Characteristics of a micro thruster using N2O/DME as propellant,” The 5th International Symposium on Energetic Materials and their Applications, O13, 2014/11/15, November 15-17 2014, Fukuoka, Japan.
  5. Akira Kakami, Motoki Yamanaka, Tatsuya Matsushita and Takeshi Tachibana, “Performance of 1-N class liquefied gas propellant thruster,” 49th AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference & Exhibit, AIAA 2013-3986, June 15 2013, San Jose, California.
  6. Akira Kakami, Motoki Yamanaka, Tatsuya Matsushita and Takeshi Tachibana, “Performance of 1-N class liquefied gas propellant thruster,” 49th AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference & Exhibit, San Jose, USA, AIAA 2013-3986, June 15, 2013.
  7. 浅倉嵩雅,倉永敦史,矢野康之,各務聡,“N2OとDMEを推進剤に用いる0.4N級二液式推進機の混合方法による性能の向上",平成29年度宇宙輸送シンポジウム,STCP-2017-045,神奈川県相模原市,2018年1月18日.
  8. 浅倉嵩雅,林翔太,矢野康之,各務聡,“亜酸化窒素/ジメチルエーテル二液式推進機における噴射方法による性能への影響”,平成28年度宇宙輸送シンポジウム,STCP-2016-009,神奈川県相模原市,2017年1月19日.
  9. 浦岡佑,青山和央,矢野康之,各務聡,“亜酸化窒素/ジメチルエーテル二液式推進機の高性能化”,平成27年度宇宙輸送シンポジウム,STCP-2015-020,神奈川県相模原市,2016年1月14日.
  10. 渡邉慎平,坂東佳祐,宮田良祐,各務聡,橘 武史, “N2O/DMEを推進剤としたスラスタの燃焼効率改善” 平成26年度宇宙輸送シンポジウム, STCP-2014-047,2015年1月16日,神奈川県相模原市.
  11. 松下達也,渡邉慎平,坂東佳祐,各務聡,橘武史,”N2O/DME を推進剤とするスラスタ”,平成25年度宇宙輸送シンポジウム,STCP-2013-064,2014年1月17日,神奈川 県相模原市.
  12. 黒石竜太,浦岡佑,矢野康之,各務聡,”大 気圧および真空下でのN2O/DME推進剤を用いた小型推進機の性能評価”,平成25年度宇宙輸送シンポジウム, STCP-2013-065,2014年1月17日,神奈川県相模原市.