一般に、研究にはお金が必要です。自然界の基本法則を探るには実験をする必要があり、装置は市販のものを組み合わせたり特注で製作をお願いしたりします。例えば私の研究でしばしば使うレーザーは市販品ですと少なくとも1台500万円程度はします。そのほかにも、研究は一人で行うものではないので研究員の雇用、研究成果を発表したり他の研究者と交流するための学会のための出張、論文をオープンアクセスで出版する場合の出版費用などにも資金が必要です。私の行っているような実験ですと新人の独立した研究者が研究室を完成させるのに必要な初期費用は1.5億円から3億円と言われています。足りない分の研究資金は通常は外部研究資金のプロポーサルを書き、これを応募して採択されると得ることができます(※2)。このような研究資金の一部であっても寄付いただけることの利点は、外部研究資金のプロポーサルや報告書を書く時間を削減でき、実際に物理について考えたり実験したりする時間が増えることです。
このような観点から、広く寄付を募りたいと思っています。寄付金は研究に必要な装置、消耗品の購入ないし研究発表に必要な旅費に使われます。寄付をいただける場合、いくつかの方法があります。私の所属組織を通す場合、寄付のページの手順に従っていただき、使途特定寄附金として計量標準総合センター、物理計測標準研究部門、時間標準研究グループの川崎瑛生が行う研究に使われることと指定していただけると確実です。所属組織には共同研究や技術コンサルティングのような他の研究資金提供の方法もありますが、寄付は研究所側に中抜きされることなく全額が研究資金になるという意味で一番効果的です。なお、所属機関は所得税法施行令第217条第1項第1号及び法人税法施行令第77条第1項に掲げる「特定公益増進法人」ですので、税法上の優遇措置を受けることができます。
また、現在の所属組織においては300万円以上の物品の購入に関してはすべて競争入札を経なければならないという規則があります。このためには仕様書の作成から始まり、時間のかかる手続きを経る必要があり、見積書を取ってそれをもとに注文する一般的な方法と比べて1ヶ月ほど余計に時間と労力がかかります。また、「これまでに特定の会社の製品を使っていて長く使っても壊れないことを知っている」という経験にかかわらず希望している製品とは別の製品が価格が低かったためという理由だけで納入される場合もあります。これは低価格の製品がすぐに壊れてしまえば結果的には再度購入する必要が出てきますし、使ったことのない装置が納入されれば装置の使い方を習得するために一定の時間が必要になります。
このような現状が研究者が十分な研究時間を確保すること並びに研究費の効率的な使用を妨げるものであることをご理解いただけ、かつ高額の寄付をしていただける方におかれましては装置を現物で寄付することもご検討いただけますと幸いです。詳細はお問い合わせください。
さらに、所属組織の旅費規程は特に食費に関して定額支給となっており、この支給額は基本的には40年前から変わっていません。具体的には、40年ぶりの法改正により、海外出張の場合6000円から値下がりしました。これは海外出張のごく基本的な食費を賄うのには不十分なレベルになっています(※3)。このような状況を鑑みて、しばしば赤字になる出張経費の補填等を目的とした個人宛の寄付も歓迎します。詳細はお問い合わせください。
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※1 科学技術の歴史を見て見ましょう。ミクロの世界の法則を突き詰めていった結果量子力学が誕生しました。量子力学がなければ皆さんが使っている携帯電話に搭載された半導体技術は誕生しなかったでしょう。あるいは、アインシュタインが相対性理論を構築したのは光の速さで進む観測者が見る世界がどうなっているか、強い重力場における物理法則がどうなっているかを知りたかったからです。この理論なしにGPSは動きませんが、ロケットすらなかった時代に、GPSに応用して便利な世の中になることを目指して理論を作り上げたというわけではありません。
※2 「外部研究資金」があれば「内部研究資金」もあります。欧米ですと上記の1.5億円から3億円は着任時に所属機関から付与されますので内部研究資金に分類されます。現所属においては内部研究資金は微々たるもので、着任時に付与されたのは欧米と比べて2、3桁少なかったです。毎年配賦される金額は業務に使うパソコンすら購入できないレベルです。(年々下がっていて、今年はモニターだけすら購入できるか怪しいレベルでした)
※3 日本はこの間失われた30年を経験していて物価が30%程度しか上昇しませんでした(※4)が、諸外国では着実に上昇しています。たとえば、米国では消費者物価指数はこの間およそ3倍になっています(※4)。結果、2025年6月にオレゴン州ポートランドで開催された国際学会に行った時を例にとると、ファストフードに相当するサンドイッチを食べるのに15ドル(1ドル150円として2250円)必要で、これより安い昼ごはんを探すのは極めて難しい状況でした。昼ごはんは出張していない時でも自分で出しているのだからという理由で上記6000円未満(Google検索にも引っかかる旅費規程に昔は日当が載っていたのですが今は出てこなくなってしまって具体的な金額が書けなくなりました)に昼食代は含まれていないのですが、そもそも所内の食堂で600円程度で食べられる定食の昼食代を出すのと最低15ドルのサンドイッチでは意味が違います。これらの状況を総合すると、出張に行くといかにして安くて栄養のあるものを食べるのかを全力で調べることになります。本来は学会であれば発表したり他の研究者の発表を聞いて最新の状況を理解することに力を注ぐべきなのですが…
※4 IMFのWorld Economic Outlook Database (https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2025/april)による。
最終更新日: 2025年9月28日