我々が安倍晋三氏をリフレ派に転向させた

失われた20年と言われる日本の経済低迷が続いている。30年近く、デフレから脱却できない。それは誤った経済政策が続いてきたからであり、一部の識者の誤った経済の考えが政治家を縛っていたからに他ならない。いつも金科玉条のごとく守ろうとしているのが財政規律だ。財政規律を守らないと、国債は暴落し、円の信認は失われ、ハイパーインフレになるそうだ。これほどインフレを嫌った結果、30年近くデフレから脱却ができず経済を衰退させてしまったのだから、これは笑い話にしかならない。

2015年12月1日の朝日新聞にアベノミクスについての記事があった。「8月30日。民間団体「日本経済復活の会」の定例会に出た安倍はこう語った。「15兆円から10兆円、新たにお札を刷ってもらう。これによって間違いなく、円安そしてインフレに誘導される」・・・復興財源は増税でなく国が借金して日銀に肩代わりさせる。・・・後のアベノミクス「第一の矢」の土台となる考えが形作られていた。」

これは日本経済復活の会が安倍さんを講師として招き、「(1)もう一度首相になったらどうか。(2)日本経済復活の会のためにお金を刷ったらどうか。」と説得した時であった。

その前、東日本大震災の直後から、「今は非常時なのだから、増税に頼らず日銀に国債を買わせることにより復興財源にすべきだ」と我々は国会議員の説得を始めていた。それに協力的だったのが衆議院議員の山本幸三氏だ。彼は、彼の経済理論(アベノミクスそのものと言うべきかもしれない)を支持する国会議員をたくさんの紹介してくれ我々は次々会っていった。この前の2011年4月25日に、筆者は西岡参議院議長と参議院議長公邸で面会し日本経済を復活させる方法に関して長時間話し合った。小野盛司は「増税に頼らず日銀に国債を買わせることにより復興財源にすべきだ」と言った。西岡氏はそれに協力したいと言い、5人または7人の本当に「やる気のある」国会議員をこの参議院議長公邸に来させて会議を開くことを提案した。筆者は協力が得られそうで、しかも主張が我々に近い国会議員として西岡武夫、山本幸三、小泉俊明、田村憲久、亀井亜紀子、金子洋一、松原仁の7名を集め5月2日に戦略会議を開いた。これが「増税によらない復興財源を求める会」のきっかけになった。

安倍晋三をこの会の会長として、山本幸三が中心となり署名を集め、230名以上の国会議員が署名した。声明文の最初の原稿は筆者が作り、その後修正が加えられた。残念ながら、復興増税は行われた。しかし、安倍さんはこれをヒントに通貨発行で景気回復が可能であることを知る。彼のその後の発言は「1万円1枚が20円で印刷出来るので、9980円が利益となって、政府に納付される。輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう。建設国債は日銀に全部買ってもらう。」といったものだった。

この単純明快な論理を押し通していたら、日本経済は短期間で完全復活できただろう。しかし、前政権が決めた消費増税の実行により、経済は大きなダメージを受けた。デフレから脱却していないのに、なぜ消費増税をするのか。財政再建を急ぐのでなく、しっかりと景気が回復するまで、ひたすら景気刺激策を続けるべきだった。経済が安定的な成長軌道に乗れば、財政再建も同時に達成されたのだが。

011年8月30日に日本経済復活の会の定例会で安倍晋三氏は講演を行っている。その時、我々は彼に「お金がなければ刷りなさい」と教え、総理への再チャレンジを彼に促している。以上述べたことが我々のアベノミクスへの貢献である。

我々が国会議員7名を集め5月2日に行われた会で復興財源は増税によるべきでないという声明文に署名してもらうことが決まり、それぞれ党に持ち帰って署名を求めることになった。最初の声明文は筆者が書き、吉野氏が修正を加えた。その原文は以下の通りである。

――――――――――――――――――――――――――――――――

日銀による国債引き受けを求める声明文

 3月11日の東日本大震災で被災された方々に対し、心よりお見舞い申し上げます。被災された方々の救済と共に、復興に全力を挙げるのが我々国会議員に課せられた責務であることは言うまでもありません。しかしながら、大震災から2ヶ月近くになろうというのに、復興財源の見通しさえ立っておりません。増税で財源を賄おうという案もありますが、その場合国民1人当たり数十万円にも上る大増税になる可能性があり、これでは十年以上もデフレが続いている日本経済へのダメージは計り知れません。経済を破壊しては、復興はあり得ません。被災者にとってもその負担は大きすぎます。

 我々は、以下の理由により日銀による国債引き受けで復興財源を確保するよう求めます。

1.財政法第五条は『すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。』となっており、今回の大震災は明らかに特別の事由がある場合に相当します。

2.日本には生産力は十分あり、かなりの需要増でも十分対応できます。外貨も十分保有していますから、輸入で補充することもでき、深刻な物不足になる可能性はありません。深刻な物不足にならない限りハイパーインフレはありません。国内に円での取引を停止する銀行や商店があれば、ほぼ間違いなく営業ができなくなりますから、円での支払いができなくなることはありません。つまり日銀の国債引き受けにより円の信認が失われることはありません。

  円売りが加速し、円安が進むかもしれませんが、円安は日本経済にとっては好材料です。

 

3.国債が暴落する恐れはありません。

  国債価格は需要と供給の関係で決まります。日銀の国債引き受けは市場を通しませんから、国債価格に直接的な影響はありません。国債を多く保有する国内の金融機関ですが、国債を売って現金に換えるのだけでは、何の利益にもなりません。現金で保有するより国債で保有しておいたほうが、安全でしかも金利が稼げて有利です。国債が暴落するときは、国債よりはるかに有利な金融商品が現れたときであり、日銀が国債を引き受けただけで、そのような商品が出現するわけではありません。

4.一度日銀の国債引き受けを行うと、歯止めが利かなくなるなどという心配は無用です。

  これは政府・日銀の中で財政金融政策を担当する人の資質に拘わる問題です。一度引き受けを行うと、それを止められなくなる人達が財政金融政策を担当しているのであれば、そうでない人達に替わっていただくしかありませんし、民主主義においては選挙で交替してもらう仕組みになっております。

5.国債を発行して復興事業などを行った場合は、国の借金は増えますが、GDPも増加します。どのような計量モデルを使って計算しても、現在の日本においては借金の増加率よりGDPの増加率の方が大きくなります。つまり国の借金のGDP比は下がり、次世代へのツケは減らすことができます。逆に増税したり、復興事業費の削減をした場合は、結果として国の借金のGDP比を増やすことになり、次世代へのツケを増加させることになります。

以上の理由により、復旧・復興財源は日銀の国債引き受けで賄うことを求めます。

             平成23年**月**日  日銀の国債引受を求める議員の会

―――――――――――――――――――――――――――――――――

しかしながら、日銀の国債引き受けという言葉に社民党が抵抗し、結局政府が震災国債を発行し、それを日銀が買い取るという形にするように修正された。修正された文章は以下である。

増税によらない復興財源を求める声明文

3月11日の東日本大震災で被災された方々に対し、心よりお見舞い申し上げます。被災された方々の救済とともに、復興に全力を挙げるのが我々国会議員に課せられた責務であることは言うまでもありません。大震災から3ヶ月を過ぎ、復興財源の在り方が問われ始めています。増税で財源を賄おうという案もありますが、その場合国民1人当たり数十万円にも上る大増税になる可能性があり、これでは十年以上もデフレが続いている日本経済へのダメージははかり知れません。経済を破壊しては、復興も財政再建もあり得ません。被災者にとってもその負担は大きすぎます。震災復興にメドが立ち、デフレを脱却、経済が安定成長軌道に乗るまでは増税などすべきでなく、今は、国債や埋蔵金など増税によらない復興財源を見出すべきです。

 よって、以下の理由から我々は、まず第一歩として、政府と日銀の間で政策協定(アコード)を締結し、必要な財源調達として政府が発行する震災国債を日銀が原則全額買い切りオペするよう求めます。

1. 国債の買いオペはすでに行われており、米国FRBが量的緩和策(QE2)で大量の国債買いオペを実行し成功した例を見ても、有効であることは明らかです。

2. 日本は今デフレで大幅な需給ギャップを抱えている上に東日本大震災という景気後退ショックが重なったのですから、これに増税をするのは自殺行為です。歴史的にも経済が縮小しているときに増税に成功した国はありません。財政再建のためにも、デフレを脱却、過度の円高を是正し、名目成長率を上げるようにするのが基本であり、一層の金融緩和がどうしても必要です。それと復興対策が同時に可能になるのですから、一石二鳥です。

3. 上述したような日本経済の現状では、相当規模の買い切りオペを行ったとしても、物価の安定を目指した適切な金融政策運営で過度なインフレを防ぐことは十分可能です。米国のバーナンキFRB議長は、「自分達はインフレをコントロールできる能力を十分に有している。」と自信満々であり、日本でできないことはあり得ません。これによって、激しいインフレにならないようにすれば、「円の信認」が失われることはありません。

4.財政規律が失われ「国債が暴落」しかねないと心配する向きもありますが、財政破綻を防ぐには基礎的財政収支のGDP比をプラスにする必要があり、その要は名目成長率を引き上げることです。現時点で増税をすれば、名目成長率は下がってしまい税収も上がりません。他方、買いオペで貨幣供給が増えれば、デフレ脱却、円高是正、名目成長率の上昇が期待でき、真の意味で財政再建に資するのです。経済が安定成長路線に回復したときに進めるべき「基礎的財政収支改善の工程表」を予め明確にしておくことも有用でしょう。

まず、政府・日銀間で政策協定(アコード)を締結し、震災国債の原則全額を日銀が買い切りオペをするように求めます。

                          以上、決議する。

                    平成23年6月16日

                増税によらない復興財源を求める会

                     (名簿別紙)

【民主党 賛同署名者名簿】

民主党

【衆議院議員】       【参議院議員】

相原史乃 田中美絵子 一川保夫

網屋信介 玉城デニー 岩本司

池田元久 中後淳 大久保潔重

石井章 辻恵 川上義博

石関貴史 道休誠一郎 金子洋一

石田勝之 豊田潤多郎 友近聡朗

石津政雄 長尾敬 西村まさみ

石山敬貴 中川治 姫井由美子

石原洋三郎 中津川博郷 平山誠

太田和美 中根康浩 広野ただし

大谷啓 中野譲 藤末健三

大西孝典 仲野博子 藤田幸久

奥田建 中野渡詔子 水戸将史

奥野総一郎 野田国義 室井邦彦

奥村展三 萩原仁 森ゆうこ

梶原康弘 橋本勉

勝又恒一郎 畑浩治

加藤学 初鹿明博

金子健一 浜本宏

神風英男 早川久美子

川内博史 樋口俊一

川口浩 樋高剛

川越孝洋 平山泰朗

川島智太郎 福嶋健一郎

木内孝胤 福島伸享

北神圭朗 福田昭夫

菊池長右ェ門    牧義夫

木村たけつか 松崎公昭

京野きみこ 松崎哲久

熊谷貞俊 松原仁

黒田雄 松宮勲

小泉俊明 水野智彦

古賀敬章 三宅雪子

小林興起 宮崎岳志

小林正枝 宮島大典

小宮山泰子 向山好一

小山展弘 村井宗明

斉藤進 室井秀子

斎藤やすのり 森山浩行

阪口直人 柳田和己

瑞慶覧長敏 山岡賢次

杉本かずみ 山岡達丸

空本誠喜 山口和之

高井崇志 山田正彦

高野守 山田良司

高橋英行 吉田公一

高松和夫 鷲尾英一郎

橘秀徳 渡辺浩一郎

田中慶秋 渡辺義彦

(衆議院議員) 98名

(参議院議員) 15名

衆・参 合計 113名

 (2011/6/16現在)

自民党

【衆議院議員】                 【参議院議員】

安倍晋三 会長 石井みどり

あべ俊子 磯崎仁彦

井上信治 磯崎陽輔

今津寛 猪口邦子

江渡聡徳 宇都隆史

江藤拓 衛藤晟一

小里泰弘 岡田直樹

加藤勝信 岸信夫

金子恭之 熊谷大

鴨下一郎 佐藤ゆかり 幹事長代理

岸田文雄 世耕弘成

北村誠吾 鶴保庸介

古賀誠 中村博彦

佐田玄一郎 西田昌司

佐藤勉 長谷川岳

柴山昌彦 福岡資麿

下村博文 藤井基之

新藤義孝 松下新平

菅義偉 松山政司

菅原一秀 水落敏栄

高木毅 三原じゅん子

武田良太 山谷えり子

棚橋泰文 若林健太

谷畑孝

田村憲久 事務局長

徳田毅

永岡桂子

中川秀直

長島忠美

長勢甚遠

西野あきら

西村康稔

馳浩

浜田靖一

平井卓也

古屋圭司

三ッ矢憲生

望月義夫

森喜朗

山本幸三 幹事長

山本拓

吉野正芳

(衆議院議員) 42名        (参議院議員) 23名

衆・参 合計  65名

みんなの党

【衆議院議員】                 【参議院議員】

浅尾慶一郎 上野ひろし

江田憲司 江口克彦

柿沢未途 小熊慎司

山内康一 小野次郎

渡辺喜美 呼びかけ人 川田龍平

桜内文城

柴田巧

寺田典城

中西健治

松田公太

   水野賢一

(衆議院議員)  5名       (参議院議員)   11名

                         衆・参 合計    16名

公明党

【衆議院議員】                 【参議院議員】

遠山清彦 石川博崇

(衆議院議員)  1名       (参議院議員)   1名

                         衆・参 合計    2名

国民新党・新党日本

【衆議院議員】                【参議院議員】

亀井静香 亀井亜紀子  呼びかけ人

下地幹郎                  森田高

田中康夫

(衆議院議員)  3名       (参議院議員)   2名

                         衆・参 合計    5名

社会民主党

【衆議院議員】               【参議院議員】

阿部知子  呼びかけ人         山内徳信

照屋寛徳                   吉田忠智

(衆議院議員)  2名       (参議院議員)   2名

                        衆・参 合計    4名

無所属

【衆議院議員】  【参議院議員】

鳩山邦夫                  西岡武夫

松木けんこう

(衆議院議員)  2名       (参議院議員)   1名

                         衆・参 合計    3名

結局この会の会長は安倍晋三氏になっていただき、230名以上の署名を得た。安倍氏はこの署名活動を通じて、財源は増税でなくともお金を刷ることで作り出せることを学んだ。

2012年12月6日に安倍氏が演壇に立ち、リフレ政策に転向した経緯を語り、それが12月6日のニコニコ動画に掲載されている。

http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20121206

つまりこの手法で、お金を刷ってデフレから脱却できると安倍氏は学んだ。そしてアベノミクスを唱え始めた。