二次免除で採用された海外学振の記録②
〜分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章をどう書くか〜
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二次免除で採用された海外学振の記録②
〜分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章をどう書くか〜
先日の「二次免除で採用された海外学振の記録①」の中で、申請書が採用された要因の1つは、「私自身の研究をまとめる力が格段に上がったことだ」と書きました。この点に関連して、ここでは、研究をまとめる力の1つである「文章の書き方」について、私が見つけたコツを書き綴ろうと思います。
学振を志す人たちはご存知だと思いますが、学振の申請書の書き方のコツをまとめた書籍やウェブサイトは数多くあります。それらは共通して、分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章を書くよう主張しています。学生の頃の私は、その文言を見るたびに、
「そんなの耳タコだよ。」
と思いました。学振DCに挑戦する1回目から、「分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章」で申請書をまとめれば、説得力が出て、採用される確率が上がるということは知っていました。しかし、私は、それにも関わらず、学振DCの3回の挑戦すべてで、二次面接免除採用に至りませんでした。これは、どのような文章を書けば、「分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章」になるのかが分からなかったからです。
これに対して、今回の海外学振の申請書では、「分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章」を書くコツが少し見えていたように思います。海外学振の申請書を書いていた4月頃は、以前より説得力が出るように書けているように感じ、二次面接免除で採用という結果を確認した8月に、その感覚は正しかったと思うことができました。このときに見えていたコツを、実際の私の申請書の修正前後の文章を比較しながらまとめたいと思います。
まず、分かりやすい文章を書くために気をつけたのは、①主語と述語を見つけやすくすることと、②なくても意味が通じるような前置き・情報を削ることの2点です。
①主語と述語を見つけやすくする
これにより、「何がどうなる/どうなった」を確実に読み手に伝わる文章になりました。
修正前
この課題がこれまで解決されなかった要因として、特定の分類群や群集で、フェノロジーという時系列データを複数地点で得ることが時間的・労働力的に困難であることが挙げられる。
修正後
この課題がこれまで解決されなかった要因は、特定の分類群や群集で、フェノロジーという時系列データを多地点で得ることが困難なためである。
修正点
修正前の文章は、下線部が主語です。長いですね。主語が長すぎるため、スッと理解できません。そこで、修正後の文章では、主語を短くしました。それに合わせて、文章の構造を「〜困難であることが挙げられる」から、「要因は〜である」に変え、主語に対応する述語を見つけやすくしました。
②なくても意味が通じるような前置き・情報を削る
これにより、情報過多を防ぎ、簡潔な文章が出来上がりました。
修正前
この地域では暖温帯と異なり冬がなく、月平均気温は年間を通して変化が小さい(16.7–20.3ºC)。一方、月降水量は雨季(4–10月)と乾季(11–3月)で大きく変化する(10–281mm)。
修正後
この地域は、一年を通して月平均気温の変化が小さいが、月雨量は雨季と乾季で大きく変化する。
修正点
修正前の文章の下線部はすべて、なくても伝えたい内容が通じる情報なので削りました。ここで、削るかどうかを判断する基準の1つは、これ以降でその情報を活用する箇所があるかどうかでした。もし、ないのであれば、要らない情報とみなしました。これにより、文字数が大幅に減りました。文字数が減ったので、さらに、2つの文章を1つの文章にまとめ、この1文のみで気候について説明しました。
次に、一貫性がある文章を書くために気をつけたのは、③申請書内の文章すべてでキーフレーズを揃えることです。
③申請書内の文章すべてでキーフレーズを揃える
これにより、申請書の各所で示されている研究テーマや目的(ゴール)に統一感を出しました。
修正前
(i) 熱帯山地林から他地域へフェノロジーが進化した。
(ii) 特定の分類群内でフェノロジーの地域差はどの程度見られるのかを明らかにする。
(iii) 地球規模のフェノロジーの変遷を明らかにする。
修正後
(i) 群集のフェノロジーが、各地の気象と相関して多様化した。
(ii) 東・東南アジアの熱帯から温帯にかけての森林における開花・結実フェノロジーの多様性を示す。
(iii) 熱帯から冷帯にかけての群集のフェノロジーの多様化を解明する。
修正点
修正前の3文は、それぞれの文について見ると、大きな問題はありません。しかし、これらの文に含まれる、下線部のキーフレーズが1つの申請書内に含まれていると、読み手は、申請書を読み進めれば進めるほど、「何が何だか、分かるようで分からない」という印象を持つと思います。
そこで、修正後の文では、これらのバラバラな方向を示していたキーフレーズを、すべて「フェノロジーの多様化」に統一しました。これにより、読み手は、申請書を読み進めるにつれて、書き手(私)が重要視しているテーマや目的が、より印象に残るようになったと思います。
そして、論理的な文章を書くために気をつけたのは、④前後の文章に共通の語句を入れることです。
④前後の文章に共通の語句を入れる
これにより、前後の文章のつながりが明確になり、話の流れが見えるようになりました。
修正前
この研究で申請者は、各地のフェノロジーを関連づけることで、熱帯から温帯にかけてという大きなスケールでの議論を試みた。しかし、フェノロジー進化の仮説(図1C)を検証するためには、より多くの地点でのフェノロジーデータが必要であり、それは現在から申請者自身が現地観察して得ることは時間的・労力的に不可能であることに気がついた。
修正後
この研究は、各地のフェノロジーを関連づけ、熱帯から温帯にかけての議論を試み、フェノロジー多様化仮説を構築した。しかし、この仮説を検証するためには、より多地点のフェノロジーデータが必要であり、さらに言えば冷帯まで含めた地球規模の議論が望ましい。
修正点
修正前の2文を読んで、フェノロジーという言葉でつながっているように見えるかもしれません。しかし、2文を注意深く読むと、1文目では、「各地のフェノロジーを関連づけること」、「大きなスケールでの議論」という語句が挙がっているのに対し、2文目では、「フェノロジー進化の仮説」、「より多くの地点でのフェノロジーデータ」、「申請者自身が現地観察して得ること」、「時間的・労力的に不可能であること」という全く異なる語句が挙がっています。これが、論理が破綻している状態です。
一方で、修正後の文章では、1文目では「フェノロジー多様化仮説」というフレーズを挙げ、2文目ではこれを指すように「この仮説」というフレーズを挙げています。これにより、2文がつながったと思います。
①〜④が、私が海外学振の申請書を書く際に、「分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章」を書くために気をつけた点です。必ずしもこれだけで良い申請書が出来上がるわけではないですし、私もまだまだ訓練しなくてはいけない身なので、偉そうなことは言えません。ただ、ここに書いたことを実行したことで、「分かりやすく、一貫性があり、論理的な文章」に近づくことができたと思っています。今後、申請書の書き方に迷ったときには、このときの自分のがんばりを参考にしようと思います。また、数年後にこのまとめを読み返して、至らない点に気づけたならば、その分、自分が成長した証になると思っています。
ちなみに、論理的な文章の書き方は、私の指導教員のY先生から過去6年間、繰り返し言われてきたことです。これについては、またいずれ文章を書こうと思います。
2021年9月1日
【追記:これから海外学振を申請される方へ】
だんだんと私が申請したときの情報は古くなってきましたが、「周りに海外学振を申請した知人がいないので、とりあえず概要を聞きたい」、「分野関係なく、とにかく情報を多く集めておきたい」などお尋ねになりたいことがありましたら、お気軽に永濱(anagahama あっと kahaku.go.jp)までご連絡ください。
2025年2月10日