二次免除で採用された海外学振の記録①
〜海外学振ならではのポイント〜
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二次免除で採用された海外学振の記録①
〜海外学振ならではのポイント〜
来年度から研究のために海外に行けることになりました!
というのも、先日、海外特別研究員(通称、海外学振)という「海外の研究機関で研究するのを金銭的にサポートしてもらえる研究員(若手研究者に限る)」に二次審査免除で採用内定をいただいたからです。つまりは、お金を出してもらいながら海外に行って大好きな研究ができるということです。なんて、ありがたいことなのでしょうか…。
さて、そんな海外学振ですが、一般的な研究予算と同様、獲得することは容易ではありません。この海外学振に採用されるのは、博士号取得後5年以内の若手研究者のうち、海外で研究をしたい!と精力的に応募した人たちの成績上位20%程度です(ここでの成績は、申請書の内容についての評価です)。20%という数字は、決して最難関と言われるような枠の小ささではないですが、残り80%が不採用と考えると、やはり相当に難しいという印象を抱きます。ですので、海外学振の採用内定をいただけた私自身、いまだにちょっと信じられない気持ちと嬉しくてたまらない気持ちです。
この「ちょっと信じられない気持ちと嬉しくてたまらない気持ち」の裏には、これまで、学振関連の申請書でこれほどにうまくいったことはなかった、という個人的な事情があります。実は、これまでに、海外学振と似た「研究するのを金銭的にサポートしてもらえる研究員」である特別研究員DCに、学生の頃に3回ほど応募していました。そのときの結果は、以下の通りです。
2017年 1回目:不採用(ABCの3段階中、C評価)
2018年 2回目:不採用(ABCの3段階中、B評価)
2019年 3回目:1次審査通過(面接候補)→2次審査(面接)→採用
結果的には、3回目の応募で、1次審査(書類)と2次審査(面接)を経て採用されました。じゃあいいじゃんと思うかもしれませんが、3回目で、成績上位者のみが対象の2次審査免除採用者に入らなかったので、ずっと「2次審査が免除されるほど評価される申請書の書き方」が分かりませんでした。それがここにきて、海外学振1回目の挑戦で2次審査免除採用内定となりました。とても嬉しいです。もちろん、海外学振に採用内定されたことも、海外に行けることが決まったことも、2次審査が免除されたことも嬉しいのですが、何よりも「2次審査が免除されるほど評価される申請書の書き方」が少しだけ分かったような気がして嬉しいです。
そこで、どうして今回の海外学振の申請書が、2次審査が免除されるほど評価されたのかを考えてみました。1つは、私自身の研究をまとめる力が格段に上がったことだと思います。自分で言うのか、と思われるかもしれませんが、特別研究員DCの3回目の申請書を用意した博士課程2年生の5月から、特別研究員DCの2次審査のためのスライドづくり(発表時間4分で過去の研究内容と今後2年間の研究計画をまとめる大変なやつ)や博士論文の完成を通して、研究をまとめる力はとても鍛えられたと思います。そして、これまでの研究をまとめられるようになると、申請書として、研究計画をまとめることも上手くなるのだと思います。今回の海外学振の申請書では、これまでの自身の研究の課題は何か、研究として何をするのか、どのような結果を見通して進めるのか、という自身の未来の研究をまとめ、これが上手くできたのだと思います。
もう一つ、今回の海外学振が上手くいった理由として、申請書を書く前・最中に申請書で何が求められているのかをしっかり研究したことが挙げられます。海外学振と、特別研究員DCの一番の大きな違いは、研究の現場を海外とするか、国内とするかです。
実際に、特別研究員DCや海外学振を募集している日本学術振興会という法人のHP でそれぞれの研究員の審査方針を見てみると、以下のように書いてあります。
自身の研究課題設定に至る背景が示されており、かつその着想が優れていること。また、研究の方法にオリジナリティがあり、自身の研究課題の今後の展望が示されていること。
学術の将来を担う優れた研究者となることが十分期待できること。
特別研究員-PDについては、博士課程での研究の単なる継続ではなく、新たな研究環境に身を置いて、自らの研究者としての能力を一層伸ばす意欲が見られること。
特別研究員-PDについては、やむを得ない事由がある場合を除き、大学院博士課程在学当時(修士課程として取り扱われる大学院博士課程前期は含まない)の所属研究機関(出身研究機関)を受入研究機関に選定する者、及び大学院博士課程在学当時の学籍上の研究指導者を受入研究者に選定する者は採用しない。
海外での研究経験を通じて、学術の将来を担う優れた研究者となることが十分期待できること。
申請者が海外の研究機関で研究活動を行うことにより、研究環境を変えて、新たな研究課題に挑戦することを目指す研究計画や、派遣前に行っている研究を大きく発展させることが期待できる研究計画を有するものについて優先させること。
研究計画が具体的であり、申請者と海外における受入研究者との事前交渉等が十分になされていること。海外で研究活動を行うにあたり、相応の語学能力(英語であれば、TOEFL(Internet-based)79点、TOEIC730点、英検準1級のいずれか程度)を有することが望ましい。
気付いたのは、海外特別研究員の審査方針には、審査方針の項目3つすべてに「海外」という言葉が含まれていることです。つまり、海外学振の申請書においては、「海外で研究する意義」として、
どのようなバックグラウンドを持つ申請者が、どのような派遣先に行くことで、どのように研究を昇華させられるのか。
世界に数ある研究機関・研究グループの中で、なぜその派遣先研究機関とその研究グループを選ぶのか。
の2点をいかに書くかがポイントになります。このことを踏まえて、実際に私がとった対策を備忘録としてここにまとめてみます。
派遣先における研究計画①研究の位置付け
当該分野の状況や課題等の背景において、当該分野の課題を述べた後、「その課題解決のために〇〇なバックグラウンドを持つ受入研究者の元で、新しい研究を行う」という内容をサクッと簡潔に入れておいた。
着想に至った経緯において、自身の研究の課題を述べた後、「その課題解決のために〇〇なバックグラウンドを持つ受入研究者と新しい研究を行うことを着想した」という内容をサクッと簡潔に入れておいた。
派遣先における研究計画②研究目的・内容
研究目的・内容において、どこの研究機関・研究グループとともに新しい研究を行うのかを述べ、彼らの得意とする分野や技術が関わってくる研究内容を書いた。
研究計画において、どの研究過程で彼らがどのように関わってくるのかを示すために、端々に受入研究者や研究グループの名前を紛れされた。
外国で研究することの意義
外国で研究することの意義において、受入研究者と研究グループの強み(受賞歴・研究実績)、申請者と受入研究者の研究の興味が似ていること、2人で共同研究をすることで相乗効果が得られること、受入研究者に関連する研究グループの各研究者からどのようなメリットを得られるのか、派遣先研究機関にしかない設備がどのようなものか、を綿密に書いた。図では、受入研究者と申請者を中心に派遣先の研究グループとどのような研究ネットワークを形成でき、その結果、自身の研究がどう昇華するのかを可視化させた。
研究に関する自身の強み
研究に関する自身の強みにおいて、単身で海外に乗り込み、研究を遂行できるだけの能力があると、実績に基づいて書いた。その上で、今後研究者として更なる発展のため必要と考えている要素において、申請者自身に今足りていないことを挙げ、それらが派遣先に行き、その研究グループに加わることで強化・習得できる旨を書いた。
ポイントは、「派遣先における研究計画」「外国で研究することの意義」「研究遂行能力の自己分析」の3セクション全てにおいて、外国で研究する必要性を訴えているということです。海外学振の審査方針を読む前は、「派遣先における研究計画」「外国で研究することの意義」「研究遂行能力の自己分析」の3セクションのうち、「外国で研究することの意義」以外の2つは、特別研究員DC/PDと同じだと思っていました。しかし、実際には、3セクション全てを通して、一つの海外での研究計画を書かねばならない、ということに気づいたことは、大きな収穫だったと思います。
この書き方が、海外学振の申請書の絶対的唯一の解ではないと思いますが、この点を意識して申請書を書き、ありがたく採用内定をいただけたので、海外学振を得る一つの方法にはなるのだと思います。今後、海外での研究の申請書を書くときに参考にしようと思います。
最後に、今回の海外学振の申請書を用意するにあたり、たくさんの方々にコメントをいただいたのですが、その人選も効果的だったかもしれないと思っています。今回、コメントいただいた方々とそれぞれのコメント内容は以下の通りです。
指導教員(植物生態)→評価書を書いてくださったので、一番はじめに今後の方針をすり合わせておきました。また、私の研究の発展のさせ方のヒントをたくさんくれました。
海外学振審査員経験者(植物生態)→研究内容を吟味して、審査員がどこを見て何を思うのかの視点をくれました。
海外学振採択&審査員経験者(動物生態)→審査員がどこを見て何を思うのかの視点をくれ、実際に採用される申請書の書き方を教えてくれました。
海外学振採択経験者(植物生態)→研究内容を吟味して、理論的矛盾を指摘し、実際に採用される申請書のポイントを教えてくれました。
共同研究者(植物生態)→研究内容を深く理解した上で、用語の使い方、解析手法についてコメントをくれました。
少し違う分野の教員(植物遺伝)→専門外の人が理解につまる箇所、誤解した部分、違和感を覚える用語を指摘してくれました。
少し違う分野の教員(微生物生態)→専門外の人が理解につまる箇所、専門外からみた私と受入研究者の研究の関連性を指摘してくれました。
所属研究室の後輩(植物生態2名・動物生態2名)→これまでの私の研究室セミナーなどの発表を聞いてきた経験を踏まえて、一般的な理解のしやすさ・分かりにくさ、ロジックの矛盾、情報の過不足、図の改訂案、誤字脱字を指摘してくれました。
また、昨年海外学振に採用された先輩に申請書を見せていただき、2年前に大きく形式の変わった申請書において、各セクションで書く内容を参考にさせていただきました。
上記の方々、本当にありがとうございました。海外で楽しく研究して、面白い結果を残してきたいと思います。
2021年8月11日
【追記:これから海外学振を申請される方へ】
だんだんと私が申請したときの情報は古くなってきましたが、「周りに海外学振を申請した知人がいないので、とりあえず概要を聞きたい」、「分野関係なく、とにかく情報を多く集めておきたい」などお尋ねになりたいことがありましたら、お気軽に永濱(anagahama あっと kahaku.go.jp)までご連絡ください。
2025年2月10日