AIが見る世界を理解して、人間とAIが共に生きる未来を実現したい!
私たちは、人間知能と人工知能 (AI) の共通点と相違点を明らかにし、人間とAIが共に生き、協働して新たな価値を創り出す未来を実現します。
近年、ビッグデータの蓄積や計算能力の向上、深層学習手法の進歩により、自動運転、医療診断、文章や画像の生成など、多様な領域でのAI活用が当たり前になり、私たちの生活や働き方は大きく変化しました。今後もAIが利便性・効率性を高め、人間社会を豊かにすることは間違いありません。一方で、AI時代が加速することのリスクも忘れてはなりません。人間の模倣学習が基盤とはいえ、AIのネットワーク構造や学習アルゴリズムは、人間の脳と根本的に異なります。そのため、ときにAIは人間の意図しない行動を取ったり、人間の価値観とずれた判断を下したりしてしまいます。
こうしたリスクに対応し、人間とAIが互いの強みを活かして大きな価値を生み出すには、「AIアライメント (人間とAIの調和) 」が重要です。私たちは、AIがどのように世界を知覚しているのか、特に「時間」という観点からその構造を解明することで、AIアライメントの土台を築きます。
AIの非人間的な出力の背後には、人間知能とは異なる、AI特有の物ごとのとらえ方があります。私たちは、人間とAIの共生・協創の第一歩として、現行のAIがどのように世界をとらえるか (知覚するか) を詳細に理解することが重要と考えました。人間とAIの知覚の差異を事前に把握しておけば、そのズレに起因するリスクに前もって対策を講じることができます。
そこで私たちは、知覚の時間構造に着目しました。人間の場合、たとえばバックワードマスキングと呼ばれる現象では、ある画像を短時間提示した直後に別の画像を提示すると、前者の画像が見えなくなります。後からきた情報が、先にあった情報の知覚をかき消してしまうのです。AIには、このような知覚の時間構造が存在するのでしょうか。
本プロジェクトでは、視覚に焦点を当て、AIの知覚の時間構造を定量化します。AI時間構造学という新たな学問分野を開拓し、時間の観点からAIアライメントに寄与します。
茂木健一郎
ソニーコンピュータサイエンス研究所 上級研究員
西本氏の動物や人間における認知のプロセス、とりわけ意識にかかわるそれを博士過程の研究において明らかにしようとする強い意志は驚くべきものです。私は、心から、西本氏の挑戦を応援したいと思います。西本氏は、私がこれまで接してきた多くの学生さんの中でも、特に卓越しています。粘り強くやり遂げるそのお人柄を尊敬しています。ぜひみなさまご支援くださいますよう、私からもお願いいたします。
アニル・セス
サセックス大学 認知・計算神経科学 教授
高槻さんと西本さんによるこの刺激的なプロジェクトを心から推薦いたします。人間の認知神経科学に着想を得た手法を用いて、人工知能モデルの内部動態を解析するという試みは、人間と機械の知覚の根本的な側面を明らかにする上で、非常にエキサイティングな新しいフロンティアです。この新たなプロジェクトはその戦略をさらに発展させ、人間の知覚の時間的ダイナミクスに関する確立された手法や知見を活用しながら、AIシステムにおける時間知覚に焦点を当てています。認知神経科学とAIの間に生まれる素晴らしい相乗効果の一例であり、非常に興味深い知見をもたらすことが期待されます。
伊藤穰一
千葉工業大学 学長
現代のAIがどれほど深く、人間のような抽象的表現を形成しているのかを理解することは、安全にAIを運用できるかどうかを判断するうえで極めて重要です。心理学的手法、特に「破綻モード(failure modes)」を探る手法は、これまで人間の知覚メカニズムを明らかにしてきました。
西本さんのプロジェクトでは、これらと同様の診断的アプローチをAIの解釈可能性に応用し、モデルの知覚をストレステストすることで、体系的な破綻が生じる状況—まさにアライメントのリスクが最も顕在化しやすい場面—を明らかにしようとしています。
谷口忠大
京都大学 大学院情報学研究科 教授
この研究構想は、私が主催した「CPC Spring Camp 2025」での自由闊達な議論の中から生まれたと聞いています。実世界知能が世界に適応する上で、時間の把握やマルチタイムスケール性は本質的な課題です。これは人間にとって重要であるにもかかわらず、AIにはまだ不足している側面です。人間とAIが共生する社会に向けた、本プロジェクトがこの問題を乗り越える確かな一歩となることを期待しています。
金井良太
株式会社アラヤ CEO
私は長年にわたり、Mechanistic Interpretabilityの研究を支える立場で高槻さんの取り組みを見てきました。その経験から、高槻さんの研究能力が目覚ましく伸びていくのを実感していました。展開の早いAI研究の領域で、常に新しいアイデアを迅速に理解・吸収し、それを深めて自身の研究に取り入れてきました。特に、AIシステムがどのように情報を処理し、知覚するのかという問いにおいて多くの成果を出しています。
今回の研究テーマである「AI時間構造学」は、時間という視点から人間とAIの知覚の違いを理解しようとするユニークな試みです。これはAIの振る舞いを予測し理解することで、AI活用における安全性向上にもつながるでしょう。このAIにとっての「時間」に注目する研究は非常に斬新であり、高槻さんがここから新たな道を切り開いてくれることを期待しています。