第1章 数と仏教的象徴
第1章 数と仏教的象徴
─ 宇宙的真理の数理的考察 ─
2025年5月5日 テラビジョン 坂根英樹 / Hideki Sakane
本稿は、仏教思想における「数」の象徴的意味を再考し、構造的図像構造における宇宙的秩序の形成と関係づけて論じるものである。特に、3と7を軸とした数的枠組み、素数や二乗構造、対称性を持つ数字(ミラーナンバー)、さらには感覚におけるファジー領域の存在などを通じて、仏教的世界観の数理的側面を可視化する。
This paper reconsiders the symbolic significance of numbers in Buddhist thought and explores how they correspond to the cosmic structure visualized through mandalas. Focusing particularly on the foundational numbers 3 and 7, as well as prime numbers, square structures, symmetrical patterns (mirror numbers), and the fuzzy zones of sensory experience, the study attempts to reveal the numerical logic behind the Buddhist cosmology.
仏教的宇宙観において、「3」と「7」は基本的構成数である。 「3」は、創造・維持・破壊という三要素に象徴され、インド哲学におけるブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァの三神体系、ならびに仏教における三身仏(三宝)に対応する。 一方「7」は、周期性と認識単位としての象徴性を持ち、週の構成、音階(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)、虹の7色(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)の感覚の分類などに現れる。仏教においても七日ごとの法要など、「7」は完全な周期と節目の表象として頻繁に登場する。このように、「3」は構造の根本原理を、「7」は宇宙的時間感覚と人間的認識の単位を表すものとして、両者は仏教的象徴体系における根幹をなしている。
素数とは、他のいかなる自然数によっても割り切れず、1と自分自身のみを約数とする独立的な数である。その不可分性は、仏教における“一心”や“如来の独立性”と共鳴し、仏格の象徴として曼荼羅構造に内在する精神的柱となる。
以下は、主な素数と仏教的象徴との対応関係である:
1:唯一心。すべての根源。分割不能の信念。
2:二而不二の原理。表面上は二つに見えて、実は不可分な一体性を保つ。「色即是空、空即是色」の関係に通じる。
3:三身仏。創造・維持・破壊の三位一体。
5:五智如来、五大明王。智慧と守護の結節点。
7:七宝などに見る宇宙的周期と完結性。七福神。
11:十一面観音に見る多面性・全体性。
13:十三仏信仰。死後の魂の導き。曼荼羅としても表象される。
これら素数は、不可分の存在を如来などの仏の位格を象徴する数字にあてはめて、曼荼羅構造における柱(軸)としての機能を持たせている。
同一の数字が並ぶミラーナンバー(例:11、33など)は、視覚的・構造的対称性を有し、反復性と永遠性の象徴とされる。
11:十一面観音。
33:三十三観音(3×11)。無限に変身することを示す。
このシンメトリー構造の数字は、安定性を記すと共に、瞑想における反復的精神状態と共鳴する。これらの数は、時間を超越した一致・統一の概念を数理的に示している。すなわち、ミラーナンバーは仏道における「無時間的真理」の視覚的表現とみなすことができる。
仏教における仏格の数理的展開は、ある数を自乗(×自分)することで階層的に可視化される。これは「正方形=安定性」を基礎とした曼荼羅的構造を暗示する。
1×1=1 一心。精神の中心軸。
2×2=4 四天王。世界の四方を守護。
3×3=9 九体阿弥陀。救済の多層性。
4×4=16 十六羅漢。教義の保持者。
5×5=25 二十五菩薩。来迎構造の完成。
6×6=36 三十六童子。法の具体的実践者。
7×7=49 四十九薬師。医王仏の完全展開。
特に、7×7=49は、感覚と周期性の象徴である「7」を最大まで展開したものであり、中陰49日という儀礼構造にも一致する。これは仏教における“完全展開”の象徴数として、曼荼羅の完成を示す終点である。
視覚は7色、聴覚は音階の7音とされるが、実際の知覚世界はそれらの“あいだ”に広がる連続的で曖昧な領域を含む。こうした非明示的領域は、仏教における「空(śūnyatā)」の観念と重なり、定義不能だが確かに存在する“気配”の世界を表す。
人間は数によって世界を構造化するが、感覚的現実はその構造の外側、すなわち“ファジーな空間”の中にこそ真理を感じ取る。この構造は、数と悟りのあいだの橋渡しとしての「空」の理解に繋がる。
仏教における数は、単なる抽象記号ではなく、宇宙観・時間観・精神性の象徴体系として機能している。3と7の基本構造、素数による人格象徴、二乗による曼荼羅的拡張、ミラーナンバーの対称性、さらには感覚領域における“空”の顕現に至るまで、仏教的世界認識は高度に数理的である。
数は、仏教における可視的世界と不可視的真理を結びつけるメタ言語としての役割を担っており、まさにこの数理的象徴体系の視覚的・精神的統合であり、仏教の教えに直結している。
In Buddhism, numbers function not merely as abstract symbols but as systems of representation that express cosmology, temporality, and spirituality. The foundational structures of 3 and 7, the symbolic role of prime numbers, the expansion of form via squaring, the symmetry of mirror numbers, and the evocation of śūnyatā in perceptual ambiguity all reflect a profoundly mathematical mode of thought. Numbers thus serve as a meta-language connecting the visible and the invisible, allowing the truths of Buddhist teaching to be rendered visually and mentally accessible.