地震動の種類
地震だけでなく交通・波浪・風などの影響を受けて地盤は常に震動しています.
地震による人が感じるような強い揺れを特に強震動と呼びます.一方,人には感じなくても常に現れているような揺れを常時微動と言います.強震動や微動はその地点の地盤条件を反映しており,その特性を地表面上から観測し分析することによって,地震時の揺れ方ばかりでなく,地震時の被害予測や,地盤の硬軟,支持力などが可能となります.これは,医者が聴診器,心電図,血圧などを測定し,健康状態を把握することに似ています.
左の図は強震動や常時微動に含まれている波の種類と伝わり方を示しています.
上の2つはP波とS波で,これらを併せて実体波と呼びます.実体波は波の周波数・周期に関係なく,一定の速さで進みます.
これに対し下の2つは表面波と呼ばれる波です.表面波はその名の通り,地表面付近を伝播する波で,一般に周期が長いほど,速さが早くなる傾向があります.これは,表面波の波長(Wavelength)が速度×周期で表され,表面波は波長程度の深さを伝わることと関係しています.すなわち,波長の短い波は軟らかく速度が遅い地表面付近を伝わり,長い波は硬く速度が速い深部を伝わることを反映しているのです.このことから,表面波の周期ご
との速さがわかれば,地盤の深さごとの速さ(硬さ)の評価ができることに繋がるのです.
常時微動のアレイ観測による地下構造の推定
常時微動とは,交通や機械などの人現活動や,風や波浪などの自然現象に起因する人には感じない微弱な振動の総称です.微動は地下の構造を反映しているため,地表面の単点または複数点で観測することにより,地下構造の推定が可能となります.
1.4台の速度計を正三角形の重心と頂点に配置するアレイ観測を行う
2.2台の観測データの相関から,周波数fのRayleigh波の位相速度を求める
3.多数の周波数ごとの速度との関係,すなわち位相速度曲線を求める.
4.位相速度曲線を再現できる地下構造(層厚とS波速度)を求める.
5.地下構造が明らかになれば,建物の基礎の設計,地震被害予測などが可能となる.
地盤震動の観測システム
地震や振動の観測は,加速度,速度,変位などを計測するセンサー(地震計)と,出力データを数値データとして記録するデータロガーを組み合わせて実施します.
左:3成分速度計(rennartz社Le3D-Lite)
東西,南北,上下方向の3方向の速度に応じた電圧を出力する
右:三軸回りの回転速度計(eentech社R2)
東西,南北,上下軸周りの回転速度に応じた電圧を出力する
ピックアップから送られた電圧データを24ビットのデジタルデータとして任意の時間間隔でSDカードに収録する.
GPSからの信号を受信し,正確な時刻校正を行えるため,複数の観測機器同士の同時観測が可能となる.
ピックアップとロガーを収録するケースには,両者への電源を供給するバッテリー(12V)とケーブルも収められる.
大野盆地の地下構造推定結果
当研究室では,常時微動の単点3成分観測や,4台の地震計を正三角形の重心と頂点に配置して観測するアレイ観測などに基づいて,福井平野,敦賀平野,小浜平野などの地下構造の推定を行ってきました.ここでは,大野盆地の構造評価結果を示します.
○左の地図は大野盆地の地形図で,■が単点3成分観測点,▲はアレイ観測点を示しています.
○右上の図は,軟弱層の厚さ分布
市街地がある盆地北西部は,軟弱層厚さが20mを超えており,比較的揺れやすい場所といえる.
○右下は,基盤までの深さを示している.
市街地付近は基盤までの深さも深いことがわかった.