本日は、メディアリテラシーの育成という視点から新聞を使った実践について、私自身の実践事例だけでなく、NIEアドバイザーとして関わった事例を交えながら紹介します。本日は、メディアリテラシー育成の視点から新聞を使った実践について、NIEアドバイザーとして関わった事例を交えながら紹介します。
まず、メディアリテラシーは学校教育において育成すべき資質・能力の一つと言えます。メディアリテラシーを学校現場になじませるには、学習指導要領の資質・能力の三つの柱に重ね合わせて考えることが大切だと考えます。
学習指導要領に示されている資質・能力の一つ目が「知識・技能」であり、「習得」を目指すとされています。メディアリテラシーにおいて習得すべき知識・技能とは何か、という視点が求められます。
次に、「思考力・判断力・表現力」は「育成」するものとされています。メディアリテラシーにおいて、単に知識を習得させるのではなく、思考し、判断し、表現する、つまり活用する力を「育てていく」という感覚が必要になります。
そして三つ目の「学びに向かう力・人間性」については、「涵養(かんよう)」という言葉が使われています。これは、時間をかけて態度や判断力を身につけさせていくことを意味します。
作成:朝倉一民氏
文部科学省が公表している情報活用能力のカリキュラムのうち、小学校の各学年で身につけるべき能力を三本柱に基づいて分けて整理しました。
「知識・技能」については「情報スキル」。「思考力・判断力・表現力」、つまり子供たちが情報を活用しアウトプットしていく部分については、「情報リテラシー」として整理しました。「学びに向かう力・人間性」に関わる部分は、「デジタルシチズンシップ」という形でまとめています。
メディアリテラシーの「知識・技能」を身につける際に重要だと考えるのは、子供たちが最初にメディアの仕組みをしっかり理解することです。インターネット上の情報はネガティブなイメージを持たれることが少なくありませんが、実際には全てが悪いものではありません。ネット上には多様な情報源があり、新聞社や通信社といった信頼性の高いメディアから、個人メディアやSNS、プラットフォームに至るまで、さまざまなものがあります。ネットの怖さの一つは、こうした異なるタイプの情報源が並列に表示され、同じように見えてしまう点です。この仕組みを子供たちが早い段階から理解することが、メディアリテラシーの基礎を築くうえで重要だと考えています。
基本的な構造を理解せずにメディアリテラシーの授業を行っても、その場限りの学びになってしまい、継続的な力として定着しづらいという課題があります。そこで、教育課程の中に位置づけるためにも、まずは「情報流通の仕組み」を教えることが大切です。例えば、新聞社や通信社の情報は、多くの関係者がチェックしたうえで発信されるため、信頼性が高いことは事実です。SNSや独立系メディアはあらゆるものを取り上げて速報性が高い反面、信ぴょう性に疑いのある情報も多く含んでいます。
さらに、情報の流れという点では、ネットではレコメンド機能により「エコーチェンバー現象」(SNSなどで自分と同質の意見や情報ばかりに接する現象)が生じやすくなっています。「情報はこうして皆さんに入ってきます」と学校で教えることが、メディアリテラシー育成の基礎として必要不可欠であると考えます。
情報の扱い方についての学習を長年、新聞を情報源として実践してきました。その理由は、新聞には「手に取ることができる」良さがあり、小学校の教育現場に非常になじみやすいからです。子供たちが実際に新聞を手に取り、記事を探しながら情報を得ることで、信頼できる情報に触れる機会を持つことができます。
例えば、「総合的な学習」の授業で「現代人の健康を考える」というテーマに取り組んだ際には、子供たちが一斉に新聞から健康に関する記事を集め、それを基に自分たちの考えをまとめる学習を行いました。
最近では、新聞各社も学校教育分野の事業に力を入れており、子供たち自身で記事検索ができる仕組みが整ってきています。札幌市の公立学校では北海道新聞のデジタル教材アプリを導入しており、子供たちは自分の端末から記事を検索できるようになっています。特に地域の情報に関しては、通常のネット検索では見つかりにくいため、新聞社が持つ情報の蓄積が地域学習の教材として非常に価値があると、私自身も実感しています。また、複数の記事を比較し、情報を関連付けながらその傾向や変化を読み取る授業構成が、知識や技能を身につけるうえで非常に効果的だと考えています。
続いて、「思考力・判断力・表現力」について。ここでは、新聞づくりが重視されます。以前は、子供たち自身で紙の新聞を作ることが一般的でしたが、最近では新聞社の教材アプリを活用して、デジタル形式で制作できるようになっています。子供たちが学習を通じて課題を見つけ、解決法を考え、その成果を新聞の形で表現する活動を積極的に取り入れています。
実践例を挙げると、子供たちが住む地域について調べる学習では、地域が低地の湿地帯であることを知り、さらに土地の特性や歴史について新聞記事などで調べたうえで新聞の形でまとめました。その際に、作成した新聞に誤解を招く表現や誤りがないかを友達同士で確認し、ファクトチェックを行う活動も取り入れました。こうした取り組みにより、子供たちが発信者としての責任を意識しながらメディアリテラシーを高めることにつながると考えています。
三つ目の「学びに向かう力・人間性」は態度的な側面です。複数の記事を比較して読むことは、常に意識すべきポイントの一つです。私の実践の一例として、2022年の安倍晋三元首相の国葬に関する報道を取り上げた授業を紹介します。この出来事は社会的な議論を呼びましたが、新聞社ごとに表現の仕方が大きく異なっていました。同じ事実を報じていても、見出しや記事の表現によって、国葬を肯定的に伝えるものもあれば、賛否が分かれることを強調するものもありました。新聞は事実を伝え、信頼性の高い情報源ですが、報道には必ず何らかの意図が含まれているということを、子供たちに早い段階から伝えていく必要があると考えています。
最近では、死刑制度に関する内閣府の世論調査結果の記事も、新聞社によって異なる表現が見られました。「死刑の容認が大幅に増加した」という事実を伝える記事もあれば、設問の選択肢について問題提起する記事もありました。このように複数の新聞を比較して読むことで、各紙の報道に意図があることに気づき、「自分はこの考えに近いな」などと考えさせるような実践も重要だと考えています。
NIEの授業実践では、テーマに沿った関連記事を授業の後半に提示して、子供たちの意見が大きく変わるような「揺さぶり」をかける展開が見られます。こうした手法については、客観的にみて「1本の記事で子供たちの意見を変えてしまっていいのか」という視点も必要だと思います。
モラルの部分についてもお話しします。現在、小学生も1人1台の端末を持ち、情報発信する機会が増えています。学習管理ツールなどを通じて係活動新聞などを配信することもあります。このような小さなコミュニティー内での発信を経験することで、情報発信に伴う責任について学んでいきます。
最後になりますが、批判的思考を育むためには、毎日、朝の時間に新聞記事を取り上げ、子供たちが意見を交わす時間「NIEタイム」を5分でも10分でも設けることが大切です。以前は、子供たちが家庭から新聞記事を持参していましたが、最近では新聞を購読していない家庭も増えているため、学校で導入している教材アプリを活用し、その日の新聞記事をみんなで読み、議論する機会を設けています。
内閣改造に関する記事を題材にした際には、女性の入閣について「5人任命されたが、それは多いのか少ないのか」という記事を見て、意外にも女の子たちは「女性が少ない」ではなく、「男性か女性かは関係ないよね」といった議論を交わしていました。大人が思っている以上に子供たちはリベラルな視点で多様な問題を考えていることを実感しました。
以上、私の実践について紹介しました。
2.校閲は新聞社の最後の砦(とりで)(梶田校閲センターデスク)
3.新聞を使ったメディアリテラシーの育成(朝倉教授)
関連:NIEウェブサイト「メディアリテラシーを新聞で学ぼう!」
※記事中の情報は全てフォーラム当時のものです。