本日はメディアリテラシー教育、特にNIE・「新聞」ならではのメディアリテラシー教育とはどのようなものかを皆さんと考えていきます。
世界に広がる情報ネットワークの中で利便性の高いサービスが次々と生まれる一方で、個人情報の流出、偽情報や誹謗中傷の拡散、ネット依存など、弊害も多く存在します。このような社会において、メディアリテラシー教育は非常に重要です。多様化する情報を有効活用するため、また偽情報や誤情報から身を守るため、正確で安全な情報を受発信するためにも、メディアリテラシー教育は欠かせません。
なお、メディアリテラシーの他に、「情報リテラシー」や「ニュースリテラシー」といった言葉があります。その定義は研究者や論文の書かれた時期によって異なることがあるので、簡単に言葉の定義を確認しておきます。
「情報リテラシー」と「メディアリテラシー」の意味合いは少し異なる捉え方もあるかもしれませんが、本フォーラムでは両者をほぼ同義と捉えたうえで、「メディアリテラシー」を「メディアや情報の特性を理解し、メディアなどからの情報の収集や吟味、選択、加工、発信、交流する能力」と定義したいと思います。本フォーラムではNIEの視点から、「新聞社が発信する質の高い情報をどう読み解き、活用するか」も大きなテーマです。「ニュースリテラシー」という言葉もありますが、「情報・メディアリテラシー」の中に位置づくと考えています。
さて、新聞とインターネット上の情報の違いについて、確認しておきたいことがあります。新聞記事は取材を基にした事実を積み上げて書かれています。事実の切り取り方は新聞社によって異なりますが、ここで強調したいのは、新聞記事はあくまでも「事実に基づく情報」だということです。もちろん、新聞社ごとに主張や意見の違いはありますが、それはむしろ民主主義の証であると言えます。意見の違いが認められない国も複数存在します。事実を土台にした新聞社ごとの主張の違いこそが民主主義の証であることを、ここで皆さんと改めて確認したいと思います。
では、ネット上の情報はどうでしょうか。一言で言うと「質の高いものから非常に低いものまで幅広く存在している」という特徴があります。いわゆる「玉石混交」であり、これを見極めるのは非常に難しいことです。信頼できる情報も確かにありますが、事実に基づかない情報が圧倒的に多いのも現実です。そのため、ネット上の情報をどのように読み解くかは、メディアリテラシーを考えるうえで極めて重要な課題になります。
SNSを通じて真実より感情が優先され、偽情報が爆発的に拡散する現代は、「ポスト・トゥルース(真実)の時代」とも言われ、人々の情報に対する意識も変化してきたと考えます。社会がこれまでの、情報を「伝達し、理解を共有する」という姿勢から、「煽って反応を集める」姿勢に変わりつつあることを懸念しています。言い換えれば、「正しいことが善であり、議論し合意形成を目指す」姿勢から、「自分にとって心地よいことが善であり、異なる立場の相手を批判・排除し、分断をあおる」姿勢への変化です。このような、感情が物事を左右する時代になってきたからこそ、メディアリテラシー教育の役割がますます重要になってくると思います。
私は、メディアリテラシー教育の役割は、「正しいことが心地よいことであり、それが善であると気づかせる」ことだと考えています。理性や論理で話し合い、理解し合うことから、感情や物語(ナラティブ)を使って批判し、排除する方向へと変化しつつある現代社会で、改めて真実の価値を認識する姿勢を、育むことが重要だと思います。
一般的にメディアリテラシー教育では、情報がいつ発信されたのか、目的は何か、誰が発信しているのか、事実の根拠や参照情報があるか、自分との関係性はあるか、別のサイトや他のメディアはどう伝えているのか、情報の重要性はどうかなど、ファクトチェックや情報を吟味することの必要性を教えることが多いと思います。これは非常に重要ですが、すべての情報を個別にチェックすることは現実的には困難です。
そうした中で、私たちはどのような教育を目指すべきか、NIEの視点を交えて考えていきます。メディアリテラシー教育というと、新聞が脇役で終わってしまうことが多いかもしれませんが、本フォーラムではあえて新聞を主役に据え、新たな視点から授業のアイデアのヒントを皆さんに示すことができればと考えています。
本日は、朝日新聞の校閲センターデスクとして日頃から信頼される情報の発信に努めている梶田郁代さんにお越しいただきました。梶田さんには校閲の仕事や心構え、ご苦労などについてお伺いしたいと思います。また、新聞協会NIEアドバイザーであり、ICT教育推進のパイオニアでもある札幌国際大学教授の朝倉一民さんにもご講演いただきます。メディアリテラシー教育におけるNIEの実践事例や可能性、課題について踏み込んでお話を伺いたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。