4「主権者教育と新聞」

主権者教育と新聞

 

関口:最後に、主権者教育とNIE、図書館の関係について、お気づきの点やアイデアがあれば教えていただけますか?

 

副島:校長として最後の頃、新聞協会主催の「いっしょに読もう!新聞コンクール」に参加するようになりました。昨年からNIEアドバイザーとして地域審査にも関わる中で気がついたことがあります。新聞記事を選び、家族や友達と話し合って考えを深め、自分の考えを再構築していくプロセスで、社会全体に対して新しい気づきを得ます。それが、ゆくゆくは主権者教育に有効に結びつくのではないかということです。今年は神奈川県の先生方のNIE勉強会に参加し、中学校や高校で新聞の投書欄に投稿する実践も学びました。日本の子供たちが自分の考えを発信していくことも、主権者教育につながっていくのではないかと思います。子供が記事と向き合い、読み比べ、家族や友達と話し合うことで、考え方に幅や深みを持たせることができます。個別最適な学びにもリンクしていると思います。

 

稲井:日本の若者は政治に対する関心や意識が低いと指摘されています。SNSは、自分好みの情報に偏りがちで、多くがあらかじめ選択された情報です。政治的な情報に触れる機会がほとんどなく、民主主義の在り方について考える機会もありません。新聞は、オンラインでも紙でも、自分の関心がない情報や、一面を見れば社会情勢が載っています。新聞は、様々な情報に触れる機会を提供するという意味で、若者が将来の民主主義社会の担い手として生きていくために非常に重要なメディアです。大人の役目として、大学教育を含めて新聞の意義を再確認し、再評価して新聞を積極的に提供することが重要だと思っています。

 

関口:日常的に良質な情報に触れることが、主権者としての基盤を作り育てることだと改めて感じました。目的のために情報を得るだけではなく、様々な分野の情報を日常的に蓄積し、教養を身につけることが重要です。新聞や図書館の利用が、主権者教育のベースになるのだと実感しました。

最後に、図書館とNIEの成果や課題、感想をお話しください。

 

入山:新聞を購読していない家庭が多く、子供が新聞に触れる機会として、学校図書館が一番身近な場所であることを知りました。子供たちは新聞を見ること自体が新鮮で、新聞独特のレイアウトで記事のつながりが分からずに読めないこともあります。しかし興味を持ちながら学んでおり、「いろいろなことを知りたい」という気持ちにつながっています。葛飾区の基本構想として、多様性の尊重を掲げています。区長も、複数の新聞を読んだり、興味がない記事でも新聞を開き知ったりすることで、様々な人の意見や情報に接することができ、ひいては相手の意見を尊重できることにつながると申しています。新聞を取り入れたことによる成果が上がってきています。今後の課題は、先生たちへの研修を充実させ、新聞をもっと活用してもらう風土を作ることです。

 

副島:横浜市にあるニュースパーク(新聞博物館)では、学校司書が有志で新聞を活用した学習キット(新博キット)を作成しており、活用する学校も増えています。例えば、緑園義務教育学園では国語5年生「新聞を読もう」で、学習キットや他の資料を組み合わせた結果、「いっしょに読もう!新聞コンクール」の応募に発展しました。一人で何とかしようとするのではなく、こうしたキットを有効活用して、自分ならでは、学校ならではの一工夫を加えていただくのがよいと思います。

 新聞は、子供が新しい世界と出合うことで学びが豊かになり、自ら問題を追求する態度を引き出し、学ぶ力を確実に身に着けられるものだと思います。昨年度から特別支援学校でも教えていますが、新聞はどの子にも等しく扉を開いています。それを支えてくれるのが、学校司書と司書教諭です。両者が協働して組織に働きかけていただきたい。カリキュラムマネジメントをすることで、組織的な取り組みにつながっていくと思います。


 

学校図書館への着実な新聞配備が重要

 


稲井:まず、第6次「学校図書館整備等5か年計画」がスタートしています。計画にある新聞配備の着実な実施が必要です。葛飾区は区長が力を注がれていますが、首長によって自治体の取り組みが全く異なります。取り組みを促すよう現場から声を上げることは重要です。

また、学校司書や司書教諭、学校図書館担当者が資質能力を一層高めていくことが重要です。そのために、校内や教育委員会で研修の充実を図っていただきたい。もう一つ、これからの教育現場では、メディアを活用する際にアナログとデジタルのバランスを取ることが特に必要だと思います。どちらかに偏ると情報格差が広がり、取り残される人が生まれてしまいます。そうした意識をもってほしいと思います。

 

関口:ICT化が急激に推進されました。一方で、不登校の増加や教員の疲弊など、新たな教育の課題が浮かび上がっています。これからはデジタルを活用しながらも、紙の本や新聞などを通して仲間と対話したり、紙の活字を読んで調べたりという人間本来の感覚や脳に合った学びを再構築する時であると考えています。図書館の良さを広め、複数の新聞を読み比べて対話を浸透させていきましょう。今日は貴重なお話をありがとうございました。 

NIE教育フォーラム(再録)

1 「理想の図書館像」

2 「学校図書館での取り組み」

3 「学校図書館新聞に触れる」

4 「主権者教育と新聞」


※記事中の情報は全てフォーラム当時のものです。