1「理想の図書館像」

関口:本日は「学校図書館×新聞」をテーマに、3人のパネリストから、学校図書館での実践・経験についてお聞きします。初めに、自己紹介をお願いします。

 

稲井:専門は国語科教育、学校図書館です。都立高等学校や中高一貫校の教員として25年間、国語科を担当しました。現職時代から今に至るまで、NIEは長く実践しています。本日は読書指導や学校図書館を絡めてお話しできればと思っています。

 

副島:小学校の担任や学校長、現在は講師として子供たちや学生と関わりながら、学校、図書館、そして新聞の重要性を日々実感しています。

 

入山:東京都葛飾区の教育委員会学務課で、学校運営に必要な予算や物品の調達、教育委員会と学校事務職員のパイプ役として調整業務を担当しています。例えば先日は、ある学校で昇降口の下駄箱が足りず、他の学校から融通しました。学校図書館の関連では、23年度から始めた、区立小中学校へ配備する新聞の一括契約や、図書の管理システムの調達などを担当しています。

 

関口:入山さんのプロフィルに、モットーとして「枯れた技術の水平志向」という言葉がありましたが、意味を教えていただけますか?

 

入山:私が尊敬する、任天堂でゲームボーイなどの開発に携わっていた故・横井軍平さんの哲学です。彼は、既にある安価で安定した技術を新しい発想で活用することで、新しい付加価値を生み出すとの理念を掲げ、画期的なヒット製品を生み出しました。私たち地方公務員は製品開発の機会は少ないですが、最小の経費で最大の効果を上げることを目指し、行政サービスの水平志向に取り組んでいます。

 

関口:「枯れた技術」というのは、実は枯れていない、よみがえらせてさらに活用できるということですね。区立小中学校に配備する新聞を行政で一括契約する「葛飾方式」についても、後ほどお話しください。

副島さんは大学でどのような教科を担当されていますか。

 

副島:23年度から十文字女子大学で非常勤講師を務めています。小学校の現場に40年間いた経験を通して、学生たちには現場の実態を伝えるよう努めています。授業は、「学校経営と学校図書館」「学習指導と学校図書館」をテーマに、司書教諭や学校司書を目指す学生に教えています。コロナ禍を経て、さらに一人一台タブレット端末の導入など、学校現場の著しい変化を学生たちに理解してもらうことを重視しています。

 

関口:今後の学校図書館を充実させるキーパーソンを育てておられるのですね。稲井さんは、大学でどのような教科を担当されていますか。

 

稲井:教職課程の教育学の科目を主に担当しています。今のカリキュラムにはICT活用もかなり盛り込まれています。それらを反映した「教育方法論」「教育課程論」「教職実践演習」などを教えています。また、司書教諭の養成科目である「学校図書館メディアの構成」、司書資格取得に必要な科目「児童サービス論」も担当しています。このほか、早稲田大学では「国語教育法」も非常勤で担当しています。


 

地域に開かれた図書館

 


関口:大正大学の図書館館長としても活躍されていますが、理想の図書館像について教えていただけますか。

 

稲井:4年前、ちょうどコロナ禍が始まった時に大正大学に着任しました。学生はオンライン授業が続き、大学に来られませんでした。我々はポストコロナを生きており、社会変容は小さくないことを踏まえ、特に重要だと考えているのは、コモンズの場としての図書館です。本学の図書館は地域社会にも開かれており、学生と市民が交流し、共有あるいは共同の場を創出し、新たなつながりを作る役割があると考えています。学生ファーストは当然ですが、大学の方針は、より開かれた学びの拠点として様々な付加価値をつけ、学生や地域社会に貢献できる図書館を作ることです。それは障害を持つ方々への合理的配慮に努めながら、オンラインも含めてアクセスしやすい、「誰一人取り残さない」図書館でもあります。本学は仏教学を基盤にしています。知恵と慈悲の実践を通じて社会をより良くし、人々の幸福につなげていく、その一つの場が図書館であると考えています。

 

関口:地域に知を発信する場があると、地域の文化や民度が高まります。大学の図書館に子供から高齢者までが集まり、会話を深める場になったら素晴らしいですね。次に副島さん、あるべき学校図書館の姿についてお話しください。


 

学校図書館の三つの役割

 


副島:学校長として、学校経営の基盤が学校図書館でした。長年、小学校で過ごす中で、子供たちが本を読めないという困った事態に直面しました。読めるようになるには、子供が自分で本を選び、読み通す力をつける必要があると切実に感じました。学校図書館は学校生活全般の中心、全ての子供のよりどころ、ニーズに合う場所でなければならないと考えました。つまり、読書・学習・情報の三つの役割が子供自身の中にしっかりと根付いている必要があります。学校図書館に行くと司書が迎えてくれ、寄り添ってくれる。子供は心が落ち着き、困りごとが解決する。本を読みたい子、探求学習で調べものをしたい子など、一人一人のニーズや課題に沿っている。常に子供たちの中心に学校図書館があることを目指してきました。

 

関口:学校図書館は読書センター、学習センター、情報センターとしての三つの機能を持っていることを、人々に再認識していただきたいですね。個々のニーズや課題を解決する学校図書館像のあるべき姿だと感じました。入山さんはいかがですか。

 

入山:葛飾区では学校図書館を「学習センター」と位置付けています。学習センターには、①読書習慣を身につける場、②情報リテラシー能力を身につける場、③教員の指導をサポートする場、④自学自習をする場――の四つの役割を求めています。その実現のために、葛飾区では学校司書を全ての学校に配置し、司書を統括する学校図書館コーディネーターという役職を設けて、学習センターを運営しています。 

NIE教育フォーラム(再録)

1 「理想の図書館像」

2 「学校図書館での取り組み」

3 「学校図書館新聞に触れる」

4 「主権者教育と新聞」


※記事中の情報は全てフォーラム当時のものです。